マンチェスター・シティは何を失うのか?前代未聞の“悪行三昧”、プレミアを揺るがす「裁き」の行方
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #33
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第33回(通算267回)は、114件で有罪と認定されたマンチェスター・シティの財務規則違反と、今後注目される制裁措置について。
9シーズンで8億3069万ポンドの“偽装契約”
「ひと~つ、人世の生血を啜り、ふた~つ、不埒な悪行三昧……」とは、時代劇『桃太郎侍』の主人公が悪人を成敗する際の決めセリフ。イングランドサッカー界における非公開法廷ドラマで、マンチェスター・シティの財務規則違反容疑を調べていた独立委員会の上級弁護士が、「ひと~つ、プレミアリーグの目を欺き、ふた~つ、不埒な偽装契約三昧……」と前置きをしたはずはない。それにしても下った裁きは、前代未聞の“悪行”と認めるような厳しいものだった。
シティが、2009-10シーズンから9シーズンに及ぶ財務違反の疑い115件で、プレミアリーグから告発を受けたのは2023年2月。3年半を経た今年9月25日、うち114件で有罪とみなす評決が漏れ伝えられると、その4日後にリーグが公表した報告書により、深刻なクラブ財務規則違反容疑のすべてで有罪とみなされている事実が公の知るところとなった。
プレミアでは、3シーズン前にエバートンとノッティンガム・フォレストが、許容限度額を超えた赤字で処分を受けた最近の前例がある。だが、いずれも1件の違反行為。今回のシティは、規模が違い過ぎる。リーグのリチャード・マスターズCEOいわく「10年近く計画的にリーグ規則を犯してきた」というシティが、報告書で「sham(偽装)」と表現されている契約を駆使して計上したスポンサー収入額は、審議の対象となった9シーズンで8億3069万ポンド(約1730億円)も膨らまされていたことになる。こうした数字を含む報告書は、「超」が付く概要版でも40ページほど。評決までに年単位の時間を要したのも無理はない。
もっとも、個人的には「虫の知らせ」ならぬ“バートンの知らせ”があった。シティでユースから上がってプロデビューを果たしたジョーイ・バートンが、今年のクリスマスを拘置所で過ごすことになったと報じられたのは、9月上旬。保釈申請が却下された元MFは、傷害罪の容疑で来春の裁判を待つ身なのだが、その報道を耳にして、すっかり話題にもならなくなっていた古巣の大量違反容疑はどうなっているのかと、エンツォ・マレスカ新体制下のシティがプレミア首位に立つイングランドで思っていたのだった。
相手に重傷を負わせたとされるバートンの容疑と直接的に比べることはできないが、シティに認められた違反行為の中でも最も重いと考えられる虚偽の会計報告は、一般企業であれば立派な重罪だ。プレミアにおいても、年に1度のリーグへの報告は、クラブ経営の収益性と持続性を促進するためのFSR(ファイナンシャル・サステナビリティ・レギュレーションズ)や、その前身に当たるFFP(ファイナンシャル・フェアプレー)が導入される以前から、所属クラブに義務付けられている根本的な規則。その規則が、組織的かつ意図的に犯されていた。
「無罪を証明する自信と決意は変わらない」
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
