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シュートブロック復権のロジック。xG時代に“危険エリアの外側”で何が起きているのか

2026.03.21

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#26

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第26回は、シュートブロック復権のロジック。かつては「最後の砦」として称賛されたシュートブロックは、ゴール期待値(xG)の普及とともに、その価値を疑問視されるようになる。「撃たせていいシュートは、止める必要がない」――リバプールを象徴とする合理主義は、守備の優先順位を再定義した。しかし現在、プレミアリーグではその前提を揺るがす“揺り戻し”が起きている。

「ブロックしない」という合理――リバプールが示した守備の最適解

 統計データの分析と活用が「勝利の鍵になる」ことに注目したリバプールは多くの科学者を積極的に雇用していたクラブだ。今ではプレミアリーグのライバルたちも彼らを追うように専門的なデータ分析でしのぎを削る「研究機関」となりつつあるが、リバプールはそのパイオニアとなるクラブだった。

 そんな中、2022年3月にクリス・サマーセル氏が発表した記事が多くの専門家に絶賛されたことは記憶に新しい。彼はイギリス出身のUEFA Bライセンス(当時/現在はAライセンス)を保持する指導者兼コンサルタントで、2022年にはレンジャーズにスカウトとして引き抜かれたこともある人物だ。注目された執筆内容は『リバプールは意図的にシュートブロックをしていないのではないか?』という斬新なものだった。

 暗黙のルールであったシュートを防ごうとするDFの努力を否定し、論理的にデータを分析することは簡単ではなかっただろう。しかしゴール期待値という概念が広がったことで、「相手がゴールから離れた、得点可能性が低い位置からシュートを打ってくれるのであれば、それを許容すべき」という思想に至る科学者がいたとしても不思議ではない。

 実際にリバプールは中距離や遠距離からのシュートを無理に止めようとしておらず、彼らはデータでも「ボックス外からのシュートブロック率が低い」チームだった。「シュート位置に関するデータ分析が進むにつれて、相手がより脅威となるエリアに進む可能性が高まるよりも、遠い位置からシュートさせた方がチームにとって得となる可能性がある」という理由が考えられる。

 そのため、サマーセルは3つの理由からリバプールがシュートブロックに消極的であると考察した。

 1つ目はセカンドボールやシュートブロックを狙った選手の背後に生まれるスペースを使われるリスクを軽減すること。2つ目はGKの視界をDFが塞いだりボールが跳ね返ることで、名手アリソンのセービングを妨げるようなケースを減らすこと。3つ目は予測可能性を上げることで、シュートブロックしたボールが予想外の場所に転がることを嫌っているのではないかという仮説を提示した。

危険エリアの可視化が生んだ“守備の偏り”

 今季、スーパーゴールを連発してプレミアリーグの主役になったのがアストンビラのモーガン・ロジャースだろう。

 フットボリスタの過去記事『ゴール期待値の常識を覆す「上振れ」の正体。なぜアストンビラはミドルシュートの得点が多いのか?』によれば、アストンビラでは野球のボールを分析することにも使われる「トラックマン」を使用することで、シュートの回転を分析しているという。トレーニングによって鍛えられた多くのアタッカーがミドルシュートを浴びせるアストンビラは「ゴール期待値に背を向ける存在」としてプレミアリーグを驚かせた。

 大きなデータの上振れを示したアストンビラだけでなく、第30節を終えた今季のプレミアリーグ全体でも、ロングシュートはxGよりも上振れしている。

……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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