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「私は有毒な人間です」ビエルサ監督とウルグアイ代表、いまだ続く内紛の影響

2025.12.08

EL GRITO SAGRADO ~聖なる叫び~ #23

マラドーナに憧れ、ブエノスアイレスに住んで35年。現地でしか知り得ない情報を発信し続けてきたChizuru de Garciaが、ここでは極私的な視点で今伝えたい話題を深掘り。アルゼンチン、ウルグアイをはじめ南米サッカーの原始的な魅力、情熱の根源に迫る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第23回(通算182回)は、就任から2年半、そして北中米W杯まで半年となっても、当人が「明らかに受け入れられるに至っていません」と言う、ウルグアイ代表監督と選手のこじれた関係、ビエルサの率直な自己評価について。

アメリカ戦1-5大敗で事態は悪化

 昨年11月、私は本連載で『権威を失ったビエルサ。奇才の流儀はウルグアイ代表に合わないのか』というタイトルのコラムを書いた。そこで扱ったテーマは、ルイス・スアレスの衝撃的な内部告発によって表面化した「ウルグアイ代表選手たちのマルセロ・ビエルサ監督に対する不満」。この一件は国境を越えて大きな波紋を呼び、当時ビエルサによる古豪復活の兆しを感じていた私も深く失望した。そして、「今後互い(ビエルサと選手たち)が譲り合い、歩み寄ることで状況が好転するように祈るしかない」という切実な願いを込めた一文で締めくくっている。

 あれから1年が経ち、その間にビエルサはウルグアイ代表を率いてW杯予選を突破し、まずは最初の目標こそ達成した。だがその一方、チーム内外で彼への不満は相変わらずくすぶり続け、選手たちとの間に生じた溝もいまだに埋まっていない。先の抽選会の結果、W杯のグループステージではスペイン、サウジアラビア、カーボベルデと対戦することが決まり、本来なら半年後に向けて国内でも少しずつ熱が帯びていくはずの時期だ。しかしこの内紛のせいで、今のウルグアイには「W杯が楽しみ」などと安易に口にすることができない空気が漂っているようにさえ感じる。

南米予選を4位で通過したウルグアイはグループHへ。第1節でサウジアラビア、第2節でカーボベルデ、第3節でスペインと対戦する

 しかも去る11月18日、ビエルサのチームがアメリカ代表に1-5という大敗を喫したため、ウルグアイ国内ではそれまで積み重なっていた不満が一気に噴き出し、猛烈な批判の嵐が巻き起こってしまった。親善試合とはいえ、初代W杯王者としての誇りを持つ国にとって、かつて「サッカー不毛の地」と呼ばれた相手に5失点も許してしまった事実は容易に受け入れられるものではない。最初からビエルサの代表監督就任に否定的だった人々はもちろん、これまで好意的な評価を下してきたジャーナリストからも退任を促す声が上がり、状況は好転するどころか悪化の度合いを強めているのだ。

アメリカ対ウルグアイのハイライト動画

コパ・アメリカを境にチームは「別のもの」に

 ウルグアイの大手メディアグループ『Tenfield』に所属するジャーナリスト、ディエゴ・ホカスは、アメリカに完敗した翌朝のラジオ番組『100% Deporte』で次のように語った。

 「ここで重要なのは、昨日の試合は決して単発的な出来事ではないということだ。1-5という結果は、昨年のコパ・アメリカ以後、この代表チームに起きていることを目に見える形で表したものにすぎない。あの大会を境に、チームは明らかに別のものとなってしまった」

 確かに、彼の指摘は正しい。「別のもの」という表現は単なる主観ではなく、データにも明確に表れている。

……

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Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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