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劇的ゴールを決める星の下に生まれた、不屈のストライカー。ベガルタ仙台・小林心のシンデレラストーリーは続く

2025.12.04

ベガルタ・ピッチサイドリポート第32回

高知ユナイテッドSCのエースとして、J3でゴールを量産していた男は、この夏からベガルタ仙台へとステップアップを果たす。小林心。その名前も印象的な25歳は、新天地でも劇的なゴールを重ね、サポーターの心を瞬く間に掴んでみせた。チームは最終節でJ1昇格プレーオフ進出を逃したものの、やはりこの人の「シンデレラストーリー」は今季の重要なトピックスとして、村林いづみに記しておいてもらう必要があるだろう。

 ベガルタ仙台の2025シーズンは急な幕切れを迎えた。昨年同様、J1昇格プレーオフへ滑り込みは目前。最終節のいわきFC戦、自力で決められるチャンスがあった。しかし、その権利はするりと手からこぼれて落ちてしまった。ピッチには、いわきFCのサポーターの歓喜の声が響く。ベガルタ仙台の選手、サポーターは膝をつき、涙をこぼした。

 終戦のピッチには76分から出場した小林心選手の姿もあった。届かなかった無念さに目を赤くした。「期待して出してもらったのに……」。チームを救うゴールを決めることができなかった悔しさが胸に広がった。しかし、今季6月にJ3・高知ユナイテッドSCから加入し、彼が多くのサポーターの心を揺さぶるプレーを続けてきたことは間違いない。不思議な縁に導かれ、たどり着いた仙台での日々と最終戦を終えての思いを聞いた。

Photo: Vegalta Sendai

高知からも取材クルー。「小林心選手は、坂本龍馬の次に有名」!?

 シーズン最終盤の11月、ベガルタ仙台の練習場を「高知さんさんテレビ」の鍛治屋明香アナウンサーが取材に訪れた。高知ユナイテッドSCのユニフォームを身にまとい、カメラマンと共に小林心選手の姿を追いかけ、リポートしていた。

 高知時代の小林選手を取材していた鍛治屋さん。練習着の色も背番号も変わったことに寂しさを感じつつ、「心選手、明るくなりましたね」と、再会と彼の仙台での充実を喜んだ。「高知での心選手は本当にスーパースター。ピッチではギラギラしているんですけど、ピッチ外では仲間といつも一緒にいてニコニコしていた。人気者だしムードメーカー」。坂本龍馬の次に有名ですよと冗談めかしながら、思い出の日々を振り返った。

鍛治屋明香アナウンサーと小林心選手(Photo: Idumi Murabayashi)

 J3得点ランキングトップの10ゴール(当時)を挙げていた彼を仙台へ送り出した。「心選手が抜けたら(高知)ユナイテッドは大丈夫かなと思っていましたし、サポーターからもそういう声はありました。でも、心選手の将来の夢、『J1で点を取り続けられるストライカーになる』ということをみんなが応援していた。だからこそ気持ち良く送り出せたと思います」。

 そうした心意気は高知県民の県民性によるところもあると、鍛治屋さんは言う。「高知のユニフォームの胸にも『高知家』と入っているんですけど、『高知県は、ひとつの大家族やき』という思いがあります。本当にサポーターたちは、高知を出て行っても家族だと思っている。だから今も、心選手は家族の一人として応援していると思いますね。心選手のおかげで、距離は遠くてもベガルタ仙台を身近に感じているし、常に気になっています」。遠くからも彼の活躍を見守る存在がある。小林選手は高知の方々の思いに守られながら、仙台で躍動している。

Photo: Idumi Murabayashi

森山監督も驚いた小林心の「サポーターの心を掴み、熱狂を生み出す力」

 他のクラブとの競合も噂されたJ3の逸材。小林選手は6月に仙台へ加入すると、第19節・モンテディオ山形戦で早速インパクトを残す。4-3という点の取り合いとなったアウェーでのみちのくダービー。72分からピッチに入ると、DFラインの裏に抜けだす動きで相手を翻弄した。3-3で迎えた後半アディショナルタイム。小林選手のプレーからFKを獲得。これを武田英寿選手が芸術的な左足のキックで直接決め、大きな勝利を手に入れた。

 2週間後の第21節・ジュビロ磐田戦では、90+3分に劇的な決勝弾を決めた。J2初ゴール、一躍、時の人となった。森山佳郎監督は、彼を口説き落とす際に「心くんはJ1昇格へのラストピース」という言葉を伝えたという。まさに、ニューヒーローの登場に仙台は沸いた。

 森山佳郎監督は小林選手についてこんなことを聞かせてくれた。「心のすごいところは、あっという間にサポーターの心を掴んだこと。心だけにね(笑)。加入してあんなに短い間に、こんなに受け入れられた選手がいるのだろうかと思うぐらい、僕らもびっくりした。『そこまで仕事した?』という感じのタイミングで、すでにかなりサポーターの受け入れ度が強かった。磐田戦後、しばらくゴールが取れなかった。調子を落としたというわけではないんですけど、何週かメンバー外もありました。偉いのは全く折れずに努力を続けてきたというところ。反発心というか、それが彼のメンタリティ。逆境でより燃えるというところがある」。

……

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Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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