マルコス・ジョレンテと映画『ブゴニア』、あなたも無視できない“陰謀論者”の快挙
サッカーを笑え #53
飛行機雲=化学兵器、黄色いメガネ、赤いライト、太陽光の重要性や上半身裸、裸足、旧石器時代食の健康法……。今回は独自の主張で物議を醸すスペイン随一のハードワーカーと、陰謀論を信じる人にも信じない人にもオススメしたい映画の話。
彼が空に見るケムトレイル
スペインの二大国際映画祭、サン・セバスティアン映画祭(9月19日〜27日)とシッチェス映画祭(10月9日〜19日)の取材に行ってきた。サッカーと映画には直接の関係はないが、映画は社会の鏡でありサッカーも社会の一部なので、例えば「スペイン代表の成功と不法移民」とかのテーマは書けるし、近年増えたフェミニズムに関する作品を見つつ、選手による性的暴行事件とか、スペインサッカー連盟前会長の不同意キス事件とか、女子選手の待遇改善問題とかに思いをはせることはできる。2週間足らずで77本の映画を見まくることは、かつてCLの全試合(当時は125試合)を視聴した時に匹敵する苦行だった。とはいえ、映画もサッカーと同じく鑑賞眼を養うには「量が質を生む」なので近道はない、と思っている。
その77本のベスト1が、陰謀論をテーマにしたSFホラーコメディ『ブゴニア(Bugonia)』(ヨルゴス・ランティモス監督)だった。あまりに面白くて両映画祭で1回ずつ見てしまったのだが、ちょうどシッチェスで2回目を見ていた私の耳に代表招集中のマルコス・ジョレンテ(アトレティコ・マドリー)の奇妙な発言が届いてきた。


「クソみたいなものをまき散らしていないとは言えない。でも、以前はそんなものは空にはなかった。あんなのは生まれてこのかた見たことがない。あれは普通ではない。誰かあれが何かを説明してほしい」(ラジオ局『オンダ・セロ』のインタビューで)
ジョレンテは空に何を見ているのか? ケムトレイル(Chemtrail)である。
私にとってはただの飛行機雲だが、彼にとっては“気候を変動させ人口を抑制し心理をコントロールする化学兵器”なのだ。
実は、飛行機雲=化学兵器という陰謀論はスペインではかなり広がっており、私の周囲にも信じる者はたくさんいる。特に農業関係者に多く、近年アンダルシア地方でオリーブの収穫に大打撃を与えている高温と少雨は、某国やディープステート(闇の政府)の陰謀だと信じている。ジョレンテは健康と美容のインフルエンサーの奥さんとともに、自らのSNSにこの怪しい飛行機雲について何度も発信している。
黄・赤メガネはスペイン代表で流行、ルイス・エンリケも裸足で風邪知らず
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。
