J1昇格争いのプレッシャーをも楽しむ。完全復活のベガルタ仙台・相良竜之介は「彼らの声」を背に受けて走る
ベガルタ・ピッチサイドリポート第30回
頼れる男がベガルタ仙台に帰ってきた。在籍3年目。サイドから果敢にゴールを狙うアタッカー、相良竜之介が昇格争いに身を投じるチームに、再び勢いをもたらしている。昨シーズンの悔しいプレーオフを経験し、今年に懸ける想いも十分すぎるほどに高めてきた23歳の今を、おなじみの村林いづみに直撃してもらおう。
プロサッカー選手になって、初めての大けがだった。「目標はJ1昇格とシーズン二桁ゴール」。ホーム開幕戦の大分トリニータ戦でゴールを決め、相良竜之介の2025シーズンは順調に進んでいくかと思われた。しかし3月30日の第7節・カターレ富山戦で悲劇が起きた。開始10分、相手選手との接触で右ひざの大けがを負った。彼にとっては経験のない、3ヶ月にも及ぶ長期離脱だった。
「今はサッカーを見られない」。一度は暗闇の中に落とされたが、そこから歯を食いしばり、這い上がってきた。森山佳郎監督も「一番ゴール期待値の高い選手。足を振って一番ネットが揺れそうなのは相良。やっぱり相手にとって一番嫌な選手です。相手の監督さんにとっても『こいつにだけ打たせるな』っていう選手じゃないかな」と期待を寄せる。復帰後3ゴールを決め、最終盤のJ1昇格争いで、「仙台に相良あり」を示し続けている彼に、ここまでのこと、これからの戦いについて聞いてみた。

離脱中に力をもらったみちのくダービーの勝利。今度は僕がと狙ったゴール
――第30節・モンテディオ山形戦では見事な同点弾。完全復活を印象付けましたね。反響はいかがでしたか?
「そうですね。反響はたくさんありました。ファンの方からもメッセージをたくさんいただいています。でも(宮崎)鴻くんのゴールで、僕のゴールの印象はちょっと薄まった感じはありますけど(笑)。チームで3点取れて、勝てて良かったです」
――先に失点した中での大きな同点ゴール。きれいなコントロールショットを決めることができました。
「復帰してからボールをふかしてしまったり、自分の思ったシュートがなかなか打てていなかったです。いろんなことが頭をよぎったんですが、落ち着いて、見えたコースに流すことだけ意識していました。結果、良いところへいったのでほっとしました」
――相良選手はシュートが上手だなと、改めて思いました。スタジアムで見ている誰もが唸るようなゴールでした。
「そうですね。後で映像を見返したら、本当にリラックスして打てたので、それは良かったのかなと思います。あのゴールでチームを勢いづけることができました」
――ゴールを決めて、エンブレムにキスをしていましたね。
「まあ、ちょっと興奮しちゃって……。投げキッスまでしちゃいました(笑)」


――あの日のヒーローインタビューは郷家友太選手でしたが、恒例の「ダービーは勝ってなんぼ」が聞けました。言い始めたのは2023年の中島元彦選手(C大阪)ですが、昨年相良選手がヒーローインタビューで真似したところから、ダービーのキャッチフレーズのようになりました。
「いや、だいぶ良い仕事をしたなと思って(笑)。友太も良かったと思います。2年連続で僕が言えたら一番良かったですが、また違う試合でインタビューに立てるようにがんばりたいと思います」
仲間の試合も見られない状態からの復帰。焦りを抑えて前を向いてきた
――3月の富山戦の負傷で本当に苦しい思いをし、約3ヶ月かけて戦列に戻ってきました。プロで初めての大けがだったと思いますが、その期間はどのような時間でしたか?
「本当に苦しかった。今こうやってサッカーをしていますが、当時はやる気というか、今みたいに楽しくサッカーがやれるということすらも想像できなかったです。本当に苦しかったですが、コツコツとリハビリをしていました。その中で、6月のみちのくダービーをテレビで見て、いろんな刺激ももらいました」
――仲間から受けた刺激がホーム山形戦のゴールにつながっているところもありましたか?
「はい。そこ(アウェー山形戦のピッチ)に立てない悔しさもあった中で、もう一回山形と対戦するチャンスがある。試合に出た時に決めてやろうという気持ちは、その時から持っていたので、その試合で本当に決めることができて報われた感じがしました。すごく嬉しいです」
――「刺激をもらう」という段階に至る前には、仲間の試合も見る気持ちにもなれないような時期もあったのでは?
「そうですね。けがをしたばかりの頃、何試合かは見ていないですね。見れなかったというか、自分が焦っちゃうということが分かっていたので、見たくなかった。メンタルの回復とともに試合も見始めたので、少しずつ刺激をもらいながらがんばっていました」

――復帰し活躍している姿は希望そのものです。
「今度は僕が、けがをしている人やファンの皆さんもそうですけど、そういった人たちへの刺激というか、勇気を与えるようなプレーをできたらいいなと思います」
――復帰に向けた日々の中での支えとなった存在はありましたか?
「ファン、サポーターの皆さんに声かけてもらったり、メッセージもたくさんもらいました。応援されてるなっていう気持ちはすごく感じました。家族が気にして、頻繁に連絡をくれたり、おばあちゃん、おじいちゃんもそうですけど、本当に一番身近な人たちにいろんな声をかけてもらって、よりがんばらないといけないと思っていました」
――復帰が近づき、できるようになったトレーニングメニューが増える度、サポーターの皆さんは、クラブが公開するトレーニングフォトやYouTubeの「広報カメラ」などで、「相良を探せ!」をやっていたんです。「この金髪は?このスパイクは?」とか、一瞬映った姿を探したり……。
「ちょくちょく聞いたりはしていましたね(笑)。応援されていますね」

復帰後に襲われた危機感。自分自身のゴールに勇気づけられ、自信を取り戻した
――試合への復帰後に感じた難しさはありましたか?
……
Profile
村林 いづみ
フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。
