【イタリア代表アナリスト分析】ガスペリーニやクロップと似た刺激?「異質な町田のスタイルは日本のサッカー文化にいい影響を与える」
レナート・バルディのJクラブ徹底解析#10
FC町田ゼルビア(後編)
『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブの分析担当を歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はイタリア代表のマッチアナリストとしてスパレッティ体制に引き続き、ガットゥーゾ監督を支える「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。
第9&10回は、黒田剛監督の下で昇格1年目から優勝争いに絡み、今季も上位に位置するFC町田ゼルビア。「私個人として好むスタイルとは違いますが、京都よりもさらに徹底していて気に入った」と高評価。後編では、「長所と短所がはっきりしており、それを十分に自覚した上でその戦い方を選び、徹底的に自分たちのやり方を貫く」というリスキーながら確固たる思想を持っている守備戦術について分析する(本文中の数字は9月25日の取材時点)。
「群がるプレス→回避されたらファウル」の決め打ち
――ここからはボール非保持の局面を見ていきましょう。とはいっても町田の場合、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)は守備以上に攻撃に結びついている側面が強いですよね。ボールロストが多いということは、それだけゲーゲンプレッシングによる即時奪回の機会も多く、そこからのポジティブトランジション(守→攻の切り替え)も攻撃の大きな武器になっているわけで。
「はい。いったん敵陣に進出した後は、前線に人数をかけてボール周辺の密度を高めているので、ボールロスト時には素早くゲーゲンプレッシングに転じて即時奪回を狙う意識が、非常に高いレベルでチームに浸透しています。周囲にいる選手が一気に群がるようにボールホルダーに襲いかかってボールを刈り取るというイメージですね。周囲の選手へのパスコースを切るといった、秩序立った形でのゲーゲンプレッシングではありません。
失ったらすぐに奪い返す、それが無理なら躊躇なくファウルで止める、というのは、このチームの根幹をなす原則の1つです。それもできずに持ち出された時には非常にリスクの大きいカウンターアタックを許すことになり、そこから失点する場面もありますが、それは『計算されたリスク』の範囲内です。というのも、ゲーゲンプレッシングで即時奪回したところから逆襲に転じて決定機を作る、ゴールを奪う回数の方が、危険なカウンターを喫する回数を上回っているからです」
――とはいえ、ネガティブトランジションで相手を止め切れず、カウンターを喫する頻度も決して低くはありませんよね。
「いったん敵陣に押し込んだら、1トップ2シャドーと左右のウイングバック(WB)に加えて、ボランチの一方、さらには左右CBのどちらかまでがボールのラインより上に進出することも多いので、最終的に後ろに残るのがボランチの一方(主に下田)とCB2枚、時には下田と中央のCBの2人だけという場面もあります。その結果、後方では1対1、時には数的不利になるため、ボールロスト時に即時奪回、あるいはファウルで潰すことができなければ、すぐに危険な状況に陥ります。前線に6~7人を送り込んでいるので、その手前ではハーフスペースに空白が生まれがちになる。下田がその幅を1人でカバーすることは不可能なので、そこにボールが出てカウンターの起点になるケースはよく見られます。
例えば川崎F戦では、縦パスを敵DFにカットされてすぐに前線に展開され、一気にカウンターを喫する場面がありました。前線でセカンドトップがどフリーな形で浮いており、そこにパスが通った時点で、オープンスペースで2対2のカウンターを受ける状況になった。全部で5失点した中で、先制ゴールを喫した場面です」
――攻め残っている敵FWに対する予防的マーキングという概念は存在していない?
「彼らにとってそれは優先事項ではありません。もし近くに相手がいれば、対人では強い。ただ、前線に多くの人数を送り込んでゴール前の密度を高める分、後方の大きなスペースを少ない人数でカバーしなければならない。そこにクリアやこぼれ球が落ちてきたり、相手がパスを2、3本つないで抜け出してきた時に、敵FWがタイトにマークされていなければ、一気に被カウンターにつながります。そうなったら今度は7、8人が強度の高いスプリントで長距離の背走を強いられる」
川崎F戦の5失点に凝縮された「守備の弱点」
――守備の基本的な原則はマンツーマンですよね。相手のゴールキックやビルドアップに対しても、マンツーマンのハイプレスが基本でしょうか。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
