J2での苦闘を知るベテランは絶対に諦めない。堀米悠斗、高木善朗、舞行龍ジェームズが抱えるアルビレックス新潟への変わらぬ愛情
大白鳥のロンド 第27回
J2降格圏に沈んだのは5月のこと。いつしか最下位が定位置となり、入江徹監督政権下でもリーグ戦は1分け8敗。アルビレックス新潟が泥沼を抜け出せない。だが、こんな時こそ頼りになるのは、J2での苦しい時間を知るベテランたち。堀米悠斗、高木善朗、舞行龍ジェームズ。彼らはいつだってクラブへ、サポーターへ、思いを寄せ続けてきた。野本桂子の筆を通じて、彼らのアルビ愛をもう一度、胸に強く刻み込もう。
4か月半近くJ2降格圏を抜け出せず。苦境の続く残留争い
2度目のJ1昇格を果たし、3シーズン目となる2025年。アルビレックス新潟は、残留争いの渦中にいる。
ここまでリーグ29試合を戦い、4勝8分17敗。5月3日のJ1第14節・FC東京戦(H/●2-3)に敗れて以降、約4カ月半、J2降格圏から脱出できず。J1第24節・サンフレッチェ広島戦(H/●0-2)以降は最下位に停滞している。6月23日に樹森大介前監督(現・栃木SCコーチ)を解任し、コーチからの内部昇格という形で入江徹新監督が就任したが、そこから1分8敗と苦戦中だ。
今夏は選手の入れ替わりも激しく、7人が他クラブへ移籍し、7人の即戦力が加わった。スウェーデンのハンマルビーIFから186cmのFWブーダが加入して以降は、彼へのロングボールでまずは相手陣内に起点をつくり、そこからのパスワークや、ショートカウンターでゴールに迫る形を増やしている。ただ、攻守の連係が未成熟な部分もあり、チャンスで決めきれず、スキを突かれて失点しているのが現状だ。
リーグ38試合の約4分の3が終わり、残りは9試合。 “戦術ブーダ”で相手を押し込める時間を増やし、ピンチは減らしつつある。J1最下位だが、残留ラインまでの勝点差は5差。ライバルに引き離される前に勝利し、浮上のきっかけをつかんでいけなければ、危険な状況だ。
こうした中、J1残留へ、ひときわ強い思いを抱いているのは、やはりJ2新潟での苦しいシーズンを味わい、乗り越えて、J1昇格へと導いたプロフェッショナルな選手たちだ。
堀米悠斗。降格時の「アイシテルニイガタ」に感じたクラブへの想い
その筆頭は、今季で在籍9年目となる主将の堀米悠斗。チームで唯一、2017年のJ2降格と、2022年のJ1昇格の両方を経験した選手だ。
19位・横浜FCと対戦するJ1第30節は、まさに6ポイントマッチ。横浜FCとの勝点4差を「1」に詰めるか、「7」差に広げるかでは、大きな違いがある。
「もう勝つしかない。ここでしっかりと勝点3を取れれば、雰囲気は変わってくると思う。相手も残留をかけて『勝てば1枠決まる』というくらいの気持ちで臨んでくると思う。アウェイですけど、まずは気持ちで受けないこと。そういう覚悟と準備のできている選手が、試合に出るべきだと思います」と、あえて強い言葉を選び、厳しい口調で語った。
振り返れば降格した2017年も、同様の発言をしていた。北海道コンサドーレ札幌から加入1年目で、堀米は23歳。「これだけ厳しい状況で、自分が出られるか出られないかで一喜一憂している選手は、間違いなく出られなくなるし、構っていられない。だったら、やる気のある選手だけでやるよという気持ち」。
1-0で勝利しながらも降格が決まったJ1第32節・ヴァンフォーレ甲府戦のあと、選手がピッチから去ってから10分以上、新潟サポーターからのアルビレックスコールは止まなかった。さらに「アイシテルニイガタ」のチャントが響いてきたことに、堀米は胸を打たれた。「新潟を昇格させるまでは、次のことは考えられない」と思った。
毅然とした場内一周で示した覚悟。堀米悠斗は諦めない
シビアな姿勢は、何のために、誰のためにプロサッカークラブはあるのかを、いつでも心に置いているからだ。
J2で2シーズン目となった2019年、またも昇格を果たせなかったことを受け、最終節後のセレモニーで「『応援してください』ではなく、応援してもらえるようなチームになりたい」とスピーチ。サポーターの思いを汲みつつ、成長を誓った。
2022年、J1昇格を決めたJ2第40節・ベガルタ仙台戦(H/◯3−0)後は、ピッチに突っ伏して涙した。単なるうれしさだけではない。「一番に浮かんだのは、新潟でやりたくても、やれなかった選手。いまだに新潟の結果を気にして、ほかのチームでプレーしている選手もたくさんいる。そういう選手たちに、いい報告ができる」と喜んだ。
ここでサッカーができること。応援してもらえること。そして、それが当たり前ではないという認識が常にあるからこそ、堀米は感謝をと努力を惜しまない。
今季のJ1第29節・清水エスパルス戦に0−1で敗れ、チームは10試合勝ちなしとなった。試合後、場内を1周する際、堀米はいつも以上に毅然と、チームの先頭を切って歩いていった。一見、ドライにも見えたが「そこは見に来てくれた人に対して、顔を上げて、感謝を伝える場。サポーターの声を聞いて、気持ちを新たにする場。悔しそうな素振りを見せるくらいなら、次の試合に向けた練習に、目の色を変えて臨むほうが大事だと思っている。プロなので」と、意図的な行動だった。
もう落ち込んでいる暇はない。チームの誰よりも弁が立つ堀米だが、今は言葉よりも行動で、大事なことを示し続ける。
高木善朗。新たなスタイルを新潟に植え付けた異才
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。現在はアルビレックス新潟のオフィシャルライターとして、クラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。
