夏の新戦力2人、初先発グレイソンへの期待と「大分には恩がある」三竿雄斗の覚悟
トリニータ流離譚 第27回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第27回は、夏の新戦力2人、グレイソンと三竿雄斗にフォーカス。今治戦でのプレーから“救世主たち”の可能性を探る。
この暗くて長いトンネルはどこまで続くのだろうと、焦燥感が首をもたげてくる2日間だった。
新加入グレイソンが今治戦で初先発
約3週間の中断期間を挟んでの、リーグ再開を告げるJ2第24節・今治戦。次節とのホーム連戦となる大分としては、これまでの不本意な戦績を巻き返していく反攻の狼煙を上げたい一戦だった。
ここまで思うように勝ち点を積み上げられずにきた最大の要因は攻撃面の課題だ。シーズン序盤から「いい守備からいい攻撃」をキーワードにスタイルを積み上げようとしてきたが、守備から攻撃への転換がうまく行かず、シュートやチャンスクリエイトの数が伸び悩んだ。その克服のキーマンとするべく、6月24日に岡山から完全移籍で獲得したグレイソンが、加入後初先発。シャドーには夏になって調子を上げてきた鮎川峻が、有馬幸太郎と並んだ。左ウイングバックでは、リーグ戦途中出場や天皇杯などで攻撃的な姿勢の光った薩川淳貴が今季初先発。右CBには本職のポジションでは今季初先発となる戸根一誓が配置され、ペレイラ、デルランと高身長DFによる3バックを築く。天笠泰輝とボランチを組んだのは推進力自慢の榊原彗悟だ。
これらの人選から、パワフルな外国籍タレントたちがハイプレスをかけてくる今治に対して早めに前線にボールを送り、グレイソンや有馬を起点に鮎川や榊原の機動力を生かして、前への矢印をより強く描き出していく狙いが見えてくる。前節の鳥栖戦から8人を入れ替えての大胆な先発布陣に、指揮官の「攻めよ」という強い意志が感じられた。
だが、コイントスで負けエンドを入れ替えられてのキックオフ直後に、今治の1トップ、マルクス・ヴィニシウスに中盤でボールを収められ、ドリブルで運ばれて、豪快なシュートをお見舞いされる。弾道は枠の右に逸れたが、挨拶がわりのように強烈なパワーを見せつけられた一発だった。
第17節にアウェイで戦った今治との前回対戦は、相手の外国籍選手たちの猛威を前にひたすら耐えて、辛くもオウンゴールで勝ち点1を掴んでいる。マルクス・ヴィニシウスとウェズレイ・タンキの2トップのパワーをペレイラとデルランがマンマークで削る狙いは奏功していたが、川崎Fから期限付き移籍加入してこの試合で今治デビューしたパトリッキ・ヴェロンが時間経過とともに2列目で見る見るフィット感を増し、それまでのシンプルで力強い今治の攻撃に複雑な変化をもたらして、大分守備陣を苦しめた。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
