イングランドにおける「日本サッカー」ブランド興隆の背景。高井幸大へと続くブームの立役者たち
Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #19
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第19回(通算253回)は、今イングランドサッカー界が注目する和製フットボーラーについて。男女ともに挑戦者の年齢は下がり、その評価と期待はますます上昇傾向にある。
現在プレミアに5人、チャンピオンシップには11人
この7月には、ウィメンズ・スーパーリーグ(WSL)所属の女子チーム専用スタジアムや、フットボールリーグ(2〜4部)の男子チーム練習施設を見学する機会があった。そこで今さらながらに感じた、“日本ブランド”の少なさ。かつては、日本メーカーが主流だったスタジアム通路のモニターやクラブハウス内のテレビなどは、すっかり韓国製が目立つ。
しかし、日本人としてはうれしい変化にも改めて気づいた。イングランドの“サッカー選手市場”では、「日本製」の評価が高まり、その数も目に見えて増えているのだ。
本稿執筆時点では、2024-25シーズンのプレミアリーグで過去最高となった、日本人5名体制が維持されている。ケガの不運に泣いた冨安健洋がアーセナルを去り、菅原由勢のいるサウサンプトンが降格となったものの、逆に田中碧が主軸と化したリーズが昇格を果たし、トッテナムに川崎フロンターレから高井幸大が移籍した。
チャンピオンシップ(2部)には11名。リーグ1(3部)から1年で復帰を果たしたバーミンガムは、3名へと日本人選手数を増した。一方、韓国人選手の数はというと、イングランドの上層2リーグに計8名。電子機器市場では追い抜かれた日本が上回っている。
まだ20歳の高井は、初の海外移籍先がトッテナムだ。J1の若手にとって、イングランドのピッチが、はるか彼方の未知の世界ではなくなってきている証拠だろう。
もちろん、ステップアップを期して乗り込む挑戦の舞台ではある。「サッカーの種類が違う」と表現していたのは、ブリストル・シティ(2部)移籍1年目だった昨季の平河悠。前半戦でワトフォードと対戦した後の発言だが、物怖じしていたわけではない。右ウイングバックとしてこなした、走力も馬力もあるフェスティ・エボセレ(現イスタンブール・バシャクシェヒル)とのマッチアップに関しても、「“The England”みたいな感覚で、ああいう選手とどんどんトライして、ステップアップできるようにやっていきたい」と答えながら、目を輝かせていた。
「5人いますけど、もっと獲るかもしれません」
当時23歳の平河も、J1(FC町田ゼルビア)からの移籍だが、こうした背景には外的要因もある。A代表出場歴に依存した労働ビザの取得には、英国のEU離脱を受けてポイント制審査システムの導入を見た。男子の世界では、ポイント数不足の選手とも契約を可能にする「エリート・シグニフィカント・コントリビューション(ESC)」なる雇用枠も新設されている。結果、まだ日本代表の主力ではなくとも、Jリーグ選手の獲得が現実味を増した。
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。
