REGULAR

つなぐ意識をめぐるジレンマ。帰って来た大分のDFリーダー、藤原優大が辿り着いた答え

2025.07.01

トリニータ流離譚 第26回

片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第26回は、大宮戦で先発復帰したDFリーダーにフォーカス。「ポゼッションを学びたい」と片野坂トリニータにやって来た藤原優大が見出した1つの答えについて考えてみたい。

 6月28日のJ2第21節・ホームRB大宮アルディージャ戦で、藤原優大がようやく戦列に本格復帰した。

 先発するのは奇しくも、4月5日に行われたJ2第8節アウェイ大宮戦以来だ。藤原は3バックの中央に立ち、右のペレイラ、左のデルラン、そして両ウイングバックで形成した5バックをコントロールしながらボランチへも指示を送り、美しく揃った3ラインのブロックを統率。対人に強い2人のブラジリアンCBのカバーにも余念なく、ボールを持てば前に運んでラインを押し上げたり鋭いクサビで攻撃の起点となったりした。大分はこの試合で8試合ぶりのクリーンシート。こちらも得点には至らずスコアレスドローの痛み分けではあったが、リーグ屈指の攻撃力を誇る大宮の攻撃を抑え、勝ち点1を積んだ。

藤原(後列左から1番目)が顔を並べたJ2第21節・大宮戦の先発メンバー(Photo: OITA F.C.)

長期離脱のきっかけは前回の大宮戦

 藤原の3カ月近くに及ぶ長期離脱のきっかけとなったのは、アウェイ大宮戦での接触プレーだった。今回の対戦と同じく[3-4-2-1]同士のミラーゲームで、大分は立ち上がりから巧みに立ち位置を取りながらミスマッチを生み出してボールを運び、それになかなか対応できない大宮を上回ってゲームを優位に進める。20分には相手右サイドのスローインの流れから、デルラン、野村とつないで榊原が左前方へとスルーパス。反応した伊佐が持ち上がって相手最終ラインとGKの間にグラウンダーを通すと落ち着いて有馬が流し込み、幸先よく先制した。

 にもかかわらず、その1分後、少し前に相手と交錯して足首を痛めた藤原がピッチサイドで治療していたわずかな間に、笠原昂史のゴールキックをオリオラ・サンデーに落とされ、拾った豊川雄太に仕留められて、ワンチャンスで同点とされてしまう。

 自らが不在の隙にゴールを割らせてしまった責任感に突き動かされたのか。藤原は53分、宇津元伸弥の左CKがニアに落ちる地点で合わせ、ヘディングシュートでゴールネットを揺らしてもう一度リードを奪った。だが、大宮は藤井一志とファビアン・ゴンザレス、さらにカプリーニも投入してシステムを[4-4-2]に変更。強度と積極性を増した相手に押し込まれる時間が増えた大分は、なんとかピンチをしのぎながら背後への配球でラインを押し上げたい、あわよくばカウンターで追加点を狙おうと交代カードを切る。この選手交代も上手く機能せず防戦一方となると、86分まで粘ってから1点のリードを守り切る方向へとシフトしたが、90+4分、前線へのフィードを収めきれずに奪われて攻め返され、カプリーニに沈められて再び同点とされた。あとわずかな時間を耐えきれれば掴めていた勝ち点3が、勝ち点1止まり。試合後にNACK5スタジアムのミックスゾーンで悔しさを露にした藤原の表情が、ずっと記憶に残っていた。

 本当は途中交代した方がいい状態だったのだろう。痛みを堪えていたのかアドレナリンのせいで気づかなかったのか、藤原の足首は本人が思っていたよりも重傷だった。

「優大は痛くても無理してやってしまうタイプ」

 トレーニングから離脱し、第9節から7試合はメンバー外となる。ようやく第16節のV・ファーレン長崎戦に63分から出場して一度は復帰を果たしたものの、第17節のFC今治戦ではベンチからの出番なし、第19節のブラウブリッツ秋田戦では後半頭から、第21節の徳島ヴォルティス戦では83分から出場と、なかなか安定的に起用されない。

 本人としては全体練習も問題なくこなしており「いつでも行けます」という顔で声がかかるのを待っているのだが、片野坂知宏監督はすぐには藤原をピッチに立たせずにいた。取材の折に何度かその理由を訊ねると、「足首の状態がよくなったかと思えば、また悪化したりしている」と指揮官は心配そうに答え、「優大はちょっとくらい痛くても無理してやってしまうタイプだから」と難しい顔を見せた。

 そういえば昨季も藤原が8月に負傷した後、トレーニングに復帰しているにもかかわらず、シーズン終盤までメンバー入りさせなかった過去がある。

……

残り:3,566文字/全文:5,484文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg

RANKING