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忘れられないACLE決勝でのミス。「怖さ」に打ち勝って広島戦の劇的決勝弾を生んだ川崎F・佐々木旭の勇気

2025.06.24

フロンターレ最前線#17

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第17回では、E-1選手権の日本代表メンバー入りも期待される佐々木旭に注目。そのACLE決勝でのミスに打ち勝って広島戦の劇的決勝弾を生んだ勇気に迫ってみよう。

ACLE優勝へ並々ならぬ想いも…「すごく申し訳ない」結果に

 佐々木旭にとって、忘れられない場面がある。それが、アジアの頂点を懸けて勝ち進んだACLエリートの決勝、アル・アハリ戦の失点シーンだ。

 言い換えると、先制を許した35分の出来事である。得点者は左ウイングのガレーノ。GK山口瑠伊もノーチャンスとなる鮮やかな軌道のコントロールショットでネットを揺らした。

 悔やまれるのは、そのボールの失い方だ。直前に右SBの佐々木はパスを受けた自陣深くから蹴り出すのではなく、自らのドリブルで運ぼうとしている。そこで立ちはだかったガレーノを剥がそうとしたところで引っかかり、ロストをしてしまったのだ。

 推進力とキープ力のある佐々木からすると、感覚的に抜ける間合いだったのだろう。しかし、その瞬間を逆に狙われて奪われた。ワンツーで山本悠樹の守るバイタルエリアを攻略したガレーノは、そこから右足を一閃。6万人近い観客が絶叫するファインゴールが生まれると、直後に2失点目を喫した川崎フロンターレは0-2のまま敗れた。

 直後の『DAZN』のフラッシュインタビューに現れた佐々木の目は、涙で腫れているようにも見えた。そして自身のワンプレーを反芻しながら、震えるものも含めた言葉を絞り出している。

 「自分のミスで失点してしまった。まだまだ成長しないといけないのかなと思います。すごく申し訳ない気持ちが大きいですけど、またこの舞台に戻って来れるように成長したいと思います」

 特別な言葉ではない。だが、フットボーラーの言葉だと思った。

 振り返ってみると、佐々木が大卒ルーキーとして川崎Fの一員となったのは2022年。5年で4度のJ1リーグ優勝を果たすなど、「Jリーグ史上最強」とも呼ばれた前年までのクラブの空気感を肌で体感して過ごしてきたわけではない世代である。2年目に天皇杯優勝こそ経験しているがこの決勝ではメンバー入りできず、プロ初タイトル獲得の瞬間はスタンドから観戦していた。

 現在はチームに欠かせない主力であり、今季は副キャプテンも務めている。だからこそ、ACLE決勝前には「自分の中ではまだタイトルを獲れてない感覚です」と言うほど並々ならぬ想いを秘めて、佐々木はその舞台に立った。しかし、味わったのはたった1つの判断が勝敗に直結する怖さ。試合後の表彰式ではシルバーメダルを握りしめていた。

「取り返そう」広島との激闘に終止符を打った勇気

 この反省をどう今後に生かし、そして自身の成長につなげていくのか。あの大一番から1カ月が過ぎようとした5月末日、佐々木はその答えをピッチで示すこととなる。川崎Fはサンフレッチェ広島とのJ1第19節をアウェイの地で戦っていた。

 両者ともに攻守の切り替えが早く、強度も高い白熱した好ゲームが展開されてくと後半早々、マルシーニョのゴールで川崎Fが先制に成功したものの、怒涛の反撃に転じた広島も意地を見せて同点に追いつく。試合終盤はホームサポーターのボルテージがさらに上がり、その圧力に飲み込まれまいとアウェイチームは必死に抗い続けていた。

 そんな激闘に終止符を打ったのが佐々木だった。

……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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