
トリニータ流離譚 第23回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、下平隆宏監督とともにJ2で奮闘、そして再び片野坂監督が帰還する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第23回は、今季のチームの現状分析、そしてルヴァンカップで新風を吹かせたキム・ヒョンウ、屋敷優成、木許太賀の3人がもたらす上積みへの期待について。
カタノサッカー時代とは異なる「守備のチーム」
札幌に2-0で勝利し開幕から好スタートを切ったかに思われたものの、その後は4分1敗とどこかスッキリしない戦いを続けてきた。ようやく第7節にアウェイで愛媛戦を下し、今季2勝目。この試合は強風の影響を受け、風上に立った前半に先制した大分が風下となった後半に愛媛の猛攻を全力で跳ね返しての「辛勝」という印象が残ったが、複数の決定機を築いた前半のうちに追加点を取れていればこれほど苦しい展開にはならなかったという一戦でもあった。
残留争いに巻き込まれた昨季の経験を踏まえてか、あるいは年々シビアになるJ2での戦いに向けての対策なのか、今季の片野坂知宏監督はとにかく守備意識が高い。プレシーズンから[5-4-1]のミドルブロックを構えるスタイルを浸透させ、相手の攻撃を抑制しながら「いい守備からのいい攻撃」でゴールを目指す戦法を採ってきた。組織的守備を徹底したことで、7戦を終えての失点数は4と、好感触な数字だ。今季は開幕直後から乱気流気味のJ2にあって、決して好調とは言えない状況ながら10位につけているのも、粘り強い守備により勝ち点1ずつを積んできたからだと言える。一方で、得点数はわずか5と物足りない。現在6位の徳島と同じ数字だが、徳島の方は3勝3分1敗で、手堅く勝利を掴んでいる。
さらにデータを見ていけば、現在の片野坂監督の志向がカタノサッカー時代のそれとは大きく掛け離れたものになっていることが一目瞭然だ。
大分のシュート総数は64とJ2最下位で、ボール支配率の42.5%、パス総数の2365本は、いずれもリーグ最少の秋田に次ぐ少なさ。その成功率は67.0と、これも秋田、いわきに次いで低いが、秋田はクロス数が133本でリーグ最多、大分は93本で16位と大きな開きがある。チャンスクリエイト数は48で鳥栖と並んで最下位で、ゴール期待値は5.5で19位。逆に被ゴール期待値が4.6の20位で19位・仙台の6.0を大きく下回っているのは高い守備意識の賜物と言えるが、同時にクリア数がリーグ2位、ブロック数が3位というデータからは、守備位置の低さも読み取れる。
実際にピッチを見ていても、ここまで苦しい展開の試合が続いている要因として、ラインが下がりやすいことや上手くボールを保持できていないことが考えられる。
トリテン 更新情報
/#トリテン 更新
\#闘う言葉 にJ2第7節A #愛媛FC 戦後の #片野坂知宏 監督コメントを掲載しました■記者会見・総括 https://t.co/DiTKvtHZDP
■記者会見・質疑応答 https://t.co/wsmLeLNLzD#大分トリニータ #trinita #力戦奮闘 pic.twitter.com/hATwpFrayW— 大分トリニータ / Oita Trinita (@TRINITAofficial) March 31, 2025
ルヴァンカップで試された“もう一つのチーム”
そうやってJ2リーグ戦を第6節まで終えたあと、中2日で迎えたJリーグYBCルヴァンカップ1stラウンド第1回戦・山口戦。今季初の連戦で、指揮官は先発11人全員をターンオーバーした。
組織の成熟スピードを早めるためか、今季はポジションごとに序列を明確にし、ある程度メンバーを固定。キャンプの時期からチームを大きく2つに分けてトレーニングマッチもその組み合わせで試すと、その編成をベースにリーグ戦に入っていたため、このルヴァンカップ山口戦では今季初めて公式戦に絡む戦力が多く見られることになった。……



Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg