
サウダージの国からボア・ノイチ 〜芸術フットボールと現実の狭間で〜 #14
創造性豊かで美しいブラジルのフットボールに魅せられ、サンパウロへ渡って30年余り。多くの試合を観戦し、選手、監督にインタビューしてきた沢田啓明が、「王国」の今を伝える。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第14回(通算192回)は、夢を叶えた2006年のJ1得点王、さらにはあの両スーパースター、リバウドとロマーリオの、幸せな親子の物語。
46歳の引退表明から約2年半…「息子のキャリアを後押ししたい」
「息子と一緒にプレーするのが夢」
こう考えるブラジル人選手は、少なくない。ただし、親子の年齢はたいてい20歳以上離れており、選手がプロとしてスタートを切るのは早くて18歳前後だから、父親の年齢は40歳前後ということになる。しかも、当然のことながら、同じチームに所属しなければならない。
ハードルは非常に高い。しかし、この夢を叶えることができた幸せな親子がいる。
2月22日にブラジル北東部フォルタレーザで行われたセアラ州選手権2部のチラデンテス戦で、アトレチコ・セアレンセのFWマグノ・アウベス(49歳)が後半開始時から長男のMFペドリーニョ(21歳)とともにピッチに立った。その8分後、ゴール前やや左で息子からパスを受けると、絶妙のスルーパス。MFマテウジーニョが決めた。
さらに64分、マグノ・アウベスは左サイドで縦パスを呼び込むと、ドリブルで突破。美しいクロスを入れて、MFセバージョスのゴールにつなげた。後半だけの出場で2アシストを記録し、チームは3-1と快勝した。
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Profile
沢田 啓明
1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。