「場所」ではなく「相手」を攻略。17位だけどウォルバーハンプトンのサッカーが気になるワケ

新・戦術リストランテ VOL.54
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第54回は、プレミアリーグで17位ながら、西部さんがずっと気になっているというウォルバーハンプトン。その心は?
「ファイトボール」主流の中で目を引く異端
ウォルバーハンプトン・ワンダラーズ、通称ウルブス。第25節終了時点での順位は降格圏外ぎりぎりの17位。なぜ今回ウルブスなのかというと、前からちょっと気になっていたんですよね。
プレミアリーグといえばフィジカル最強。その昔はフットボールじゃなくてファイトボールだなんて言われたものです。ボールを持ったらなる早で前線へ蹴っ飛ばし、屈強なFWが競り落とし、またはこぼれ球を拾ってはハイクロスを放り込みと、ほとんどのチームがこれなので至るところでデュエル連発。確かにファイトしていました。プロレスみたいでした。
イングランドはサッカーの母国として知られていますが、その発祥は街ぐるみの血まみれの乱闘に近いものだったらしく禁止令も出たほど。それがルーツですから、DNA的にファイトボール大好きなんだと思います。
現在のプレミアリーグは昔とは違います。選手、監督、戦術、経営のどれも洗練されてきました。とはいえ、やはり根底はフィジカル。他リーグを圧倒する豊富な資金で獲得してくる選手は軒並みフィジカル・エリートばかりです。
ここ数年はマンチェスター・シティを筆頭にテクニカルなプレースタイルのチームが上位を占めてきましたが、全部がそうなったわけではなく、今季はとくに昔懐かしい感じのイングランドっぽいチームの健闘が目立ちます。ノッティンガム・フォレスト(3位)、ボーンマス(5位)、ニューカッスル(7位)、フルアム(8位)、アストンビラ(9位)と、トップ10の半分は武闘派。首位を走るリバプールも、すごーく洗練されていますけど基本的にはイングランドらしいハード系です。
そんな中、ウルブスはちょっと変わっています。パスワークが上手い。
上手いといっても、もちろんシティほどではありません。アーセナル、スパーズ、チェルシー、ブライトンにも及ばないかもしれません。しかも、ポジショナルプレー的なつなぎ方でもない。なんだろうこれ、これで結果出るのか? と気になっていたのです。やはり良い結果は出ていませんが不思議な魅力があるんです。
アイト・ヌーリとクーニャの即興的な局地戦
……



Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。