REGULAR

「CLの増収分は、国内リーグの放映権市場から削り取られたもの」セリエAのCEOが指摘するバランス崩壊の危機

2025.02.10

CALCIOおもてうら#36

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、レーガ・セリエAのルイージ・デ・シエルボCEOの提言を参照しつつ、マッチデー数が4つ増えたCL新フォーマットがもたらす国内リーグの地盤沈下の危機について考えてみたい。

 新フォーマットになったCLの前半戦、リーグフェーズが1月最終週の第8節でようやく幕を閉じた。早くも明日からは2週連続でプレーオフ、そして3月1週からはノックアウトフェーズの始まりである。

 参加36チームが1つの順位表の中でしのぎを削るリーグフェーズは、なかなかのスペクタクルだった。勝ち点差数ポイントの間に20チーム以上が固まり、毎節順位が大きく入れ替わる。勝ち点はもちろん得失点差までがモノを言うので明らかな手抜きはできないし、グループステージ時代と比べて対戦相手の難易度が平準化されたので消化試合も少なくなった。

 毎試合異なる相手とほとんどランダムに戦うスイス方式は、ホーム&アウェイではないことも含めて違和感を抱かせる部分もあったが、これはそのうち慣れるだろう。ここから始まる後半戦のノックアウトフェーズは、従来通りのホーム&アウェイ方式トーナメント。その醍醐味も変わらず味わえるとすれば「一粒で二度おいしい」フォーマットだということすらできる。

過密日程を受け入れざるを得ない経済的事情

 と書いてくるといいことずくめのようにも見えるが、負の側面もないわけではない。最も大きいのは過密日程だ。プレーオフまで含めれば、決勝までのマッチデー数はこれまでの13から17へと4つも増えている。これは99-00から02-03まで4年間だけ行われた2次リーグ方式のフォーマットと同じ。

 1次リーグから勝ち上がったベスト16が4チーム×4グループでホーム&アウェイ6試合を戦いベスト8を決める2次リーグ方式は、商業的には大成功だった。しかし過密日程による選手の疲弊が大きく、2002年の日韓W杯で準優勝したドイツを除き欧州勢が大崩れするなど明らかな弊害が表れたことなどから、UEFAはその直後、2次リーグを廃止してマッチデー数を17から13に削減するダウンサイジングに独断で踏み切ることになる。

 当時のUEFA会長ヨハンソンはこう述べていた。

 「この変更は短期的に見れば商業的な損失を伴う。しかし、試合数の削減を通じて選手とクラブの負担を減らし、同時に大会のブランド価値を高めることを通して欧州サッカーのバランスを向上させ、長期的な発展に資するだろう。これが我々の達した結論だ」

 それから20年あまり、欧州サッカーを取り巻く状況はピッチ上、ピッチ外とも大きく変化してきた。ピッチ上ではプレーのリズムと強度、ひいては選手の心身への負荷が大きく高まったが、同時にスポーツ医化学やテクノロジーの進化によってフィジカルトレーニング、さらにはリカバリーや故障の予防といったコンディショニングも高度化している。選手のポテンシャルを最大限に絞り出す手段が大いに発達した、と言うこともできる。ただ、これもそろそろ限界にきていることは、FIFPRO(国際プロサッカー選手会)をはじめとする選手サイドの切実な訴えからも明らかだ。

「CL前の前日会見、ネーションズリーグの前日会見など、選手たちは至るところでそれ(過密日程への不満)を口にしている」「選手たちが最高のパフォーマンスを発揮しながらキャリアを守っていくには、休息期間の確保と試合数の制限が必要だ。それ以上でもそれ以下でもない」と、FIFPROで男子サッカー担当の国際政策&戦略関係ディレクターを務めるアレクサンダー・ビーレフェルドは警鐘を鳴らしている

 ピッチ外ではCLの商業的価値が大きく膨れ上がり、クラブに還元される分配金の総額は、99-00の3億8000万ユーロから24-25の24億7000万ユーロへと、6.5倍にも膨れ上がった。その一方で「デロイト・フットボール・マネーリーグ(DFML)」によれば、その間にトップ20クラブの売上高総額は4倍(2.8blnから11.2blnへ)に増えている。両者を比較すれば、クラブの売上高に対してCLからの分配金が占める重要度が高まっていることが推測できる。クラブにとって、CLの重要度がスポーツ的にはもちろん経営的にも高まっていることは間違いない。

「CL>国内リーグ」がもたらす地盤沈下の危惧

 こうした変化が現在の欧州サッカーになにをもたらしているのかを考える上で興味深かったのが、先頃ドイツのハンブルグで開催された世界的なスポーツビジネスイベント『SPOBIS』において、「欧州サッカーの課題:トップリーグの視点」と題されたパネルディスカッションに登壇したレーガ・セリエAのCEOルイージ・デ・シエルボの次のようなコメントだ。……

残り:2,955文字/全文:5,287文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

RANKING

TAG