シティとバルセロナが魅せる、奥深い「縦ポン」の世界。裏ルートと見せかけて、実は「表」

新・戦術リストランテ VOL.51
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第51回は、マンツーマンのハイプレスが猛威を振るう欧州サッカーでにわかに目立つようになった「縦ポン」戦術について、マンチェスター・シティとバルセロナの洗練された「縦ポン」を例に考えてみたい。
「エデルソン→ホーランド」というハイプレスへの解答
ようやくマンチェスター・シティが復調してきたでしょうか。プレミアリーグ第23節はチェルシーに3-1で勝利しております。
先制点はチェルシーでした。新加入のCBフサノフの信じられない凡ミスから失点。ウズベキスタン人初のプレミアリーガーということで期待も高かったわけですが、とうてい届くはずのないヘディングのバックパスをかっさらわれてしまいました。53分の交代の直前には良い守備も見せていましたから、たぶん立ち直ってくれるでしょう。
シティは新加入のマルムシュが気を吐き、グバルディオルの再三の攻め込みもあって、42分に追いつきます。ギュンドアンから裏へ抜けたマテウス・ヌネスへパスが通り、いったんGKに阻まれましたがグバルディオルが拾ってゴール。浅いライン裏を一発で攻略したところからの得点でした。
後半、シティは2ゴールを加えます。どちらもGKエデルソンからのロングパスからでした。68分の勝ち越し点は、エデルソンのフィードをホーランドがDFと競りながら頭で触り、裏へ落ちたボールを自ら拾ってシュート。DFをかわし、GKが前進しているのを見ての冷静なループでした。
この2分前にもエデルソンのロングキックをホーランドが前線で収めて中央ヘパス、マルムシュのシュートがわずかに枠を外れるビッグチャンスがありました。
そして86分、またもエデルソンのロングフィード。今度はホーランドの手前に入ったデ・ブルイネが頭ですらし、拾ったホーランドが背後のDFを背中でがっちりとガードしたまま短くパスをフォーデンへ。フォーデンがそのまま裏へ抜け出してGKとの1対1からゲット。
後半の2点はいずれもエデルソンのロングキックとホーランドの強さがもたらしたものでした。なんなら、最初の1点も裏へ落すパス1本での突破でしたから、シティの3ゴールはいずれもシンプルな縦パスから生み出されていたわけです。……



Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。