「事務処理化」するプレーメイカーの未来は、カオスの理論化?それともエコロジカルな環境づくり?
喫茶店バル・フットボリスタ~店主とゲストの本音トーク~
毎月ワンテーマを掘り下げるフットボリスタWEB。実は編集者の知りたいことを作りながら学んでいるという面もあるんです。そこで得たことをゲストと一緒に語り合うのが、喫茶店バル・フットボリスタ。お茶でも飲みながらざっくばらんに、時にシリアスに本音トーク。
今回のテーマは、従来のゲームコントロール能力に加えて、テクニックとフィジカルの高いレベルでの両立が求められるようになったプレーメイカーの未来について。現代サッカーではプレーメイカーが担っていた機能は11人に分担され、そもそも特定の「司令塔」はいらなくなったという考え方もある。果たして、彼らの行き着く先はどこなのか?
※無料公開期間は終了しました。
今回のお題:フットボリスタ2024年9月特集
プレーメイカーは絶滅するのか?
店主 :浅野賀一(フットボリスタ編集長)
ゲスト:川端暁彦
そもそも「プレーメイカー」って何?
川端「マスター、今日は『プレーメイカー』をテーマに話そうということで呼ばれて来ました。……が、そもそも『プレーメイカー』って、何をもってそう呼んでるのでしょう?」
浅野 「編集部の見解としては、まず『二手先、三手先を読みながらボール保持時にポジショニングやパス、ドリブルで優位性を生み出して試合の流れをコントロールできる選手』という定義で考え始めました」
川端「つまり、プレーエリアは関係ない?」
浅野「そこも議論になりました。レナート・バルディの取材前に片野道郎さんともすり合わせをして最終的に、特集全体としては『ミドルサードまでを舞台に、ファイナルサードにボールを送り込む/持ち込むプレーによって、ビルドアップから仕掛け/フィニッシュにつながる優位性を作り出すプレーヤー』という定義でスタートしています」
川端「日本で過去『ゲームメイカー』と呼ばれることが多かったわけだけど、その頃にイメージされていたのは、いわゆる『10番』だよね。それが『いなくなった』という議論はだいぶ昔に終わって、今度はさらにそれより下がった位置のセントラルMFやアンカーにも『メイカー』がいなくなってるみたいな話をしているという認識でいいのかな?」
浅野 「その認識で間違いないです。この特集でイメージしたのはトニ・クロースやチアゴ・アルカンタラですね。古くはシャビやピルロ。なので『10番』ではなく、アンカーの位置に近いです」
川端「つまり、イタリアでいう『レジスタ』のイメージか」
浅野「そうそう。ちょうどクロースやチアゴが昨シーズンいっぱいで引退したので、いい機会だなと考察してみることにしました。みんな薄々は感じていた傾向だと思うので」
理想はロドリのような技術とフィジカルの両立
川端「賀一さんは覚えているかわからないけど、2017年のU-17、20W杯を終えた後に、『ボランチのアスリート化』が世界の若年層の明確な傾向で、これから上の年代についても傾向は加速していくという話をしたんだよね。あの流れの延長線上に今のトレンドがあるのは確かな気はする。これは、アスリート能力が世界基準から言うと低い日本のプレーメイカータイプが上のレベルで戦うのがしんどくなるのではないか。そんな予測と表裏一体だったんだけど、これも外れてはいなかったかな」
浅野「今回の特集を通じて何度も言及されているけど、サッカーのインテンシティが年々高まっていることによる『スペース』と『時間』の圧縮は大前提としてあるよね」
川端「それはちょっと視点が違うと思っていて、そもそも“時間とスペースを圧縮するための能力”が中盤の選手に強く求められるようになっているからこそなんだよね。時間とスペースが圧縮されたからプレーメイカーが消えたわけではなく、逆だと思う」
浅野「なるほど、それはあるかもね」
川端「よく『育成年代はフィジカル能力が高い選手が活躍して、上の年代になると技術に優れた選手が〜』という話をされるんだけど、これもトップレベルからいうと実態とは明らかに違う。むしろ技術に特化した選手はフィジカル的な能力が不足していることで大人の年代で難しくなるケースが多い。逆に言うと、フィジカルな能力とテクニカルな能力を併せ持つ選手は、現代でも『プレーメイカー』になり得る、とも思う。つまり、ロドリなら成立する!(笑)」
浅野「バルディの見解も『現代サッカーの理想はロドリ』という結論でしたね。ただ、『ロドリのようなMFはそうめったには生まれません』とも付け加えていましたが(笑)」
川端「それはそうなんだけど、『求められるから出てくる』だろうとも思う。アスリート能力が重視されるようになったからアスリート能力“だけ”が必要とされるんじゃなくて、それを持った上で、なおかつ技術的な能力を持った選手が求められるようになったということ。ロドリレベルに達してなくとも、それに迫る能力は自ずと求められる。日本代表でも、セントラルMFの大型化が進んでいるけど、これも別に偶然そうなっているわけじゃないしね」
浅野「特集ではみんながいろいろな提言をしてくれましたが、『プレーメイカーの分散』というのは1つありますね。プレーメイクの機能を1人が担うのではなく、GKも含めた全員が分担して担うというものですね。だから、どのポジションにも高度な戦術理解力が求められていると言い換えられるかもしれません」
川端「それは現代サッカーの大前提でしかないですよ。その上で相手を上回るにはやっぱり中盤の中央に“違い”を作れる選手は必要でしょって話じゃないかな? もちろん勝ち方はいろいろだから、中盤中央にアスリート並べて勝ちますって方向性もあるんだろうけど、そういう時代だからこそって部分も出てくると思うな」
「ビルドアップ隊」と「前線」のどっちに入るか?
浅野「あと、そもそも戦術的な機能として中盤の底に位置する選手に求められるものが変わってきているというのも同時にあって、攻撃時にビルドアップ隊と前線に張る部隊に分かれた時に、中継地点として相手のハイプレスをかわしてミスなくつなぐプレーを求められる比重が高くなって、意外性よりも速く正確なスキルが必要になってきていますよね」
川端「確かに『アンカー』の話になると、また話がズレてきますね」
浅野「ハイプレスvsビルドアップの戦術進化によって、将棋みたいに最善手の応酬になってきている背景はあって定石を外す一手ではなく、定石通りの展開を高速でこなせる判断力とスキルが求められているというか」
川端「日本代表の10月シリーズで『守田のタスク』がちょうど2試合で分かれたじゃないですか。サウジアラビア戦では『6人目』の攻撃手として機能して、遠藤航のいなかったオーストラリア戦では『中継点』になった。自分はその『6人目』こそ現代型プレーメイカーの1つの形として話していましたが、賀一さんはあくまでアンカー仕事のイメージか」
浅野「ロドリや守田みたいにその両方をこなせるのが理想ではありますよね。ブスケッツはアンカー特化型の最高峰だと思いますけど、彼のフィジカル能力ではバルサやスペイン代表以外では厳しいかもしれない。個人的にはすごく好きな選手ですが……」
川端「戦術的に整理されたチームのアンカーのさばきをファンの人が『事務処理』と言っていて、言い得て妙だなと思ったことがあるんですよね。必ずしも創造的な仕事、意外性を出す仕事ではないけど、効率化するための頭脳は常に求められる。ただ、育成年代からこの仕事に特化していた選手は、高いレベルになると、しんどくなってしまう傾向もありますが」
「事務処理」ばかりだとサッカーがつまらない?
浅野「今回の特集は、まさに『事務処理』化が強く求められる現代サッカーの傾向への問題提起でもありますね。以下、山口遼さんの記事からの引用です。
『膠着打破のためには、そもそもの現代フットボールのつまらなさの根源である「既知の展開の繰り返し」を打破するような戦術的な革新が必要になるだろう。基本的に、初めから最善手を選択するような単純な入力に対しては、相手も守備の最善手を返すことですぐさま「既知の展開」が発生することになる。例えば、フリーなら前を向き、まずは中央からパスコースを探すがダメならサイドを見る、という非常に当たり前の順序で攻撃を選択していると守備側もボールホルダーに1stDFを決めつつ中央を封鎖してサイドに誘導、というように最善手同士の応酬に収束していき、最終的には精度、スピード、パワー、集中力でしか差がつかなくなってくる』
この視点は面白いと思いました。最善手同士の応酬になると、スキルの精度、スピードやパワーで上回るしかなくなって、『ものすごくレベルは高いんだけど意外性はないな』と感じていたんです。最近のプレミアリーグを見ていると、特にそれを感じます。そのエスカレートする競争の先に未来はあるのかなと漠然とした危機感がありました」……
Profile
川端 暁彦
1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。