まるでライカールト?いやコクーか?ティルマンのアンカー抜擢から考える、PSVで万能型MFが生まれる理由
VIER-DRIE-DRIE~現場で感じるオランダサッカー~#10
エールディビジの3強から中小クラブに下部リーグ、育成年代、さらには“オランイェ”まで。どんな試合でも楽しむ現地ファンの姿に感銘を受け、25年以上にわたって精力的に取材を続ける現場から中田徹氏がオランダサッカーの旬をお届けする。
第10回では、アンカーとして新境地を開拓しているマリック・ティルマンに注目。フランク・ライカールトやフィリップ・コクーにもたとえられる台頭から、PSVで万能型MFが生まれる理由を考える。
ボス監督も頭を悩ませた「アンカー・ティルマン誕生」秘話
11月5日、PSVはジローナを4-0で下し今季CL初勝利を記録した。2002年にオセールを3-0で破った時のスコアを上回るクラブ史上最高の快勝劇で輝いたのは、MFマリク・ティルマンだった。3日前、エールディビジのアヤックスとの大一番で敗戦(3-2)に繋がるパスミスをして、自身のInstagramに「謝罪します。狙い通りの結果を出せなかった。火曜日に向けてフォーカスします」と記した男が、直後のCLで1ゴール2アシストと大暴れ。UEFA選定のCL週間ベストイレブンに選出されるなど、見事にSNSで誓った約束を果たした。
バイエルン・ミュンヘンからPSVに貸し出されたのは昨年夏のこと。トップ下、左ウインガーといった攻撃的ポジションで、スルーパスやドリブル突破など攻撃面で異彩を放ち、リーグ戦9ゴール11アシストを記録したティルマンは、1200万ユーロで完全移籍した。10月半ばまでの彼はまだ、「次世代のPSVを担う22歳」というステータス。しかし10月22日のCL、パリSG戦(1-1)でアンカーという未知のポジションで大役をまっとうすると、周囲の目が変わった。もともとプレッシングや、自陣に戻りながらの守備対応、相手のパスラインを消す動きに高い評価を得ていたティルマンだが、中盤の底を務めたことで、オランダサッカーファンは新たな多機能プレーヤーが生まれた瞬間を目撃することになったのだ。
「アンカー・ティルマン誕生」は、本人にとってもチームにとっても想定外のことだった。なにせPSVにはイェルディ・スハウテン、ジョイ・フェールマンが組む「ダブル・シックス」の黄金コンビがいるのだ。スハウテンはコントローラー寄り、フェールマンはリンクマン兼チャンスメイカー寄りとタスクを分担しつつ3列目から制圧し、CBオリビエ・ボスカリが絡むことによって美しいポゼッションでファンのため息を誘う。スハウテンとフェールマンのどちらかがケガやローテーション(もしくはスハウテンのリベロ抜擢)で欠けても、PSVの中盤は安定していた。
しかし10月に入るとフェールマンが、その下旬にはスハウテンが負傷により戦線から離脱した。ペーター・ボス監督はアンカーシステムに組み替えることを決断したが、誰を「6番」に据えるか、かなり悩んだという。
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Profile
中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。