新・戦術リストランテ VOL.34
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第34回は、プレミアリーグの頂上決戦であるマンチェスター・シティ対アーセナル戦で見えた、個々の技術の向上によって足と頭で行うサッカーという競技が手を使えるハンドボールに戦術的に似てくる現象=ハンドボール化の是非について思いを巡らせてみた。
トロサール退場がもたらした[5-4-0]の総退却
サッカーはハンドボール化していくだろうという説について、以前にレアル・マドリー対マンチェスター・シティで取り上げたことがありました。これまでも年に何回かはハンドボール化の兆候のような試合が見られたのですが、今回取り上げる試合もまさにそうでした。この兆候は最高クラス同士のゲームで見られることが多いかもしれません。
プレミアリーグの大一番、第5節のマンチェスター・シティ対アーセナルです。
9分にハーランドのゴールでシティが先制。21分にアーセナルも新加入カラフィオーリが決めて1-1。45分にコーナーキックからガブリエウがヘッドでねじ込んでアーセナルが逆転に成功します。ここまでは両者譲らずの攻防でしたが、前半ロスタイムの53分にトロサールが2枚目のイエローで退場に。試合の流れは一変します。
後半からアーセナルはサカに代えてホワイト。システムは[5-4-0]となりました。
5バックの前に4人の2ラインによる撤退守備です。1トップで先発したハベルツは右サイドハーフに引きました。ここからは完全に攻めるシティ、守るアーセナル。フィールドの3分の2にフィールドプレーヤーはおらず、シティのGKしかいません。
ボックスの前に間隔を狭めて並ぶ二層のライン。シティはその手前でボールを動かしながら打開の道筋を探ります。まさにハンドボール的な構図でした。
10人ブロックを崩す方法は、ミドルか空中の二択
なぜ、サッカーがハンドボール化すると予想されるのか。これは単純に相手からボールを奪うのが困難になるからです。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。