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日本の未来が集うドイツのセカンドチーム事情。福田師王がボルシアMGⅡから這い上がれた理由

2024.06.05

遣欧のフライベリューフリッヒ#3

「欧州へ行ってきます」。Jリーグの番記者としてキャリアをスタートさせ、日本代表を追いかけて世界を転戦してきた林遼平記者(※林陵平さんとは別人)はカタールW杯を経て一念発起。「百聞は一見にしかず」とドイツへの移住を志した。

世界的に見れば格安の日本人の若手選手をセカンドチームで確保する。ドイツを中心に最近欧州で広がっている動きだ。特に高校や大学から進む選手にとっては、いきなりプロレベルではない“ワンステップ”の場として選択されるケースも増えている。ただ、そのセカンドチームの実態は千差万別だ。現地で取材を重ねる林記者は「ドイツで最も驚いたチーム」としてボルシアMGのセカンドチームを挙げる。個に特化し、戦術などあってなきがごとしチームにあっての福田師王の苦悩と台頭は、ある種の示唆に富むものだった。

パスや戦術とは無縁の自己アピール合戦!

 何度も動き出しを繰り返していた。周りがボールを出せるタイミングに合わせ、1回、2回、3回と動き直す。それでも効果的なパスは最後まで出てこなかった。最前線でボールを待ち続けた日本人ストライカーは、苦笑いしながらこんな言葉をこぼした。

 「(シュートを打つんだとしても)決めてくれれば問題ないんですけどね。動き出しなどを意識してボールを受けようと思っていて、背後への動き出しをしても、全然違うところにボールが来て『走れ』と。ゴール前でラストパスもしてくれない……。なかなか難しいです」 

 ドイツに渡って約1年。ブンデスリーガを中心に、欧州各地に足を運んで取材を重ねていく中で、多種多様なチームを見てきた。

 ポゼッションサッカーをするチームがいれば、オールコートマンツーマンを使ったプレッシングサッカーを志向するチーム。ひたすらロングボールを起点とするスタイルもある。良い、悪い関係なく各チームにおける色が見られるのもサッカーの面白いところである。その中にあって”いろいろな意味で”衝撃を受けたチームがある。

 それが、パリ五輪世代のFW福田師王の所属していたボルシア・メンヒェングラッドバッハのセカンドチーム(ボルシアMGⅡ)だ。

 このチームではサイドにボールが入ったら、ドリブル突破がすべて。そう言わんばかりに個人での仕掛けに全集中し、そしてシュートだけを狙っていく。チーム全体が苦しくなれば、ボランチが一番にボールを受けることをやめ、前線へのロングボールが途端に増えるばかり。そしてゴール前では結果を出すことに意識が強まり過ぎていて一切パスをしない——。

 もちろん、チームとしての基本の形はあるのだが、精神的な若さもあるのか、追い込まれると戦術などとは無縁のサッカーを展開してしまう。そんなチームだった。

多様性に富むブンデスリーガのセカンドチーム

 現在、堂安律や板倉滉などブンデスリーガでプレーする日本人選手は数多いが、とりわけ近年、セカンドチーム経由でトップチーム入りを目指すケースが増えている。

 福田に限らず、シュツットガルトのチェイス・アンリやブレーメンの佐藤恵允、ポルティモネンセへの期限付き移籍を果たしたバイエルンの福井太智など、若くして欧州に渡り、セカンドチームから挑戦する選手は珍しくなくなった。

 ただ、セカンドチームと一口に言っても、実態はクラブごとに大きな違いがある。例えば、RBライプツィヒやレバークーゼンといったクラブはそもそも運用をしていないし、フライブルクなどのように完全なプロリーグの3部に在籍するクラブもあれば、プロクラブとアマチュアクラブが混同する4部やアマチュアリーグとなる5部に在籍しているクラブもある。……

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Profile

林 遼平

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。

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