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アーセナル23-24前半戦総括。フルアム戦の同点被弾に表れたタイトル獲得への課題

2024.01.31

せこの「アーセナル・レビュー」第8回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち”グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。

今回は2023-24シーズンの前半戦を徹底総括。タイトル獲得に不可欠な専門職の台頭と2つの顔の使い分けとは?

 今回のテーマは前半戦のアーセナルの振り返りである。現状ではプレミアリーグは暫定2位(第22節)、CLはグループステージを首位で突破している。

 ここまでの成果は悪くはないのだろう。敗退した国内カップ戦は、リーグカップはアウェイでウェストハム、FAカップはホームとはいえリバプールと対戦と、相手が悪かった。CLとプレミアリーグという2大コンペティションに比べれば優先度が落ちるコンペティションで、早々に引き上げを余儀なくされたのは仕方ない。

 CLでは危なげなく決勝トーナメント進出を果たしているが、グループステージではかなり楽な組にというのが正直なところ。首位で通過したからといって今のアーセナルが欧州仕様になっているかと言われればまだわからない。リーグ戦も終始悪くはなかったが、2023年末の第19節ウェストハム戦と第20節フルアム戦の連敗でミソがつくこととなった。

 悪くはないと何回も言ったが、とてもよかったとは1回も言っていない。つまり、まだ何も成し遂げておらず、残りのシーズン半分で今季の結果が決まるであろう前半戦を過ごした格好になる。

 開幕直後の連載『目指すは安定感と柔軟性の向上。「システムの複雑化」からアーセナルの23-24を占う』では、今季のテーマについて述べた。キーになるのは流動性。主にビルドアップの際にアンカーに入ったライスを中心にポジションレスに動く選手を増やすことで相手に混乱をもたらし、自分たちは制御できている盤面を作る。今回はそこを出発点として前半戦の総括と後半戦の展望を行っていきたい。

流動性とプレス耐性を支えるラヤの存在

 そもそも、なぜ流動性を作る必要があるのか?それは昨季のプランが1試合単位で見ても、そしてシーズン全体を見ても先行逃げ切り型を意識していたからだろう。2022-23シーズンのアーセナルは立ち上がりからのハイプレスで素早い攻守のサイクルを生み出し、前半の45分で一気に畳みかける。それが主なゲームプランだった。

 この形はあらゆる相手を飲み込むことができる反面、後半の45分は宙ぶらりんとなり、どちらともない時間が過ぎることも少なくなかった。また、選手個人への負荷も大きく、負傷者が出ると成り立たないことも欠点。サリバの負傷と主力のコンディション低下であっさりと終盤に失速したのは記憶に新しい。

 その点では今季のアーセナルは良化していると言えるだろう。相手が試合のテンポを上げようとプレスを仕掛けてきても、自陣でのパス回しでいなせることがほとんど。ボールを奪われてもきっちりとブロックを組むことができれば、相手に攻め筋を与えない守備網を敷くことができている。

 試合全体のテンポを落としながら進められるようになったことで、前半と後半の出来の差は昨季よりは明確に少なくなった。終盤になって試合を決められていない展開でも押し込むところまで持ち込めるケースが増えたのは、エネルギーを温存できているからだろう。90分単位でコーディネートするという点では明らかに向上している。

 その根幹を担うのはビルドアップのスキル。足技に長けた新守護神ラヤの加入により、バックラインは手数をかけたパスワークから相手のプレスを引きつけつつの前進を披露することができるようになってきた。ライスやジンチェンコは時折危なっかしさも見せるが、基本的には収支はプラス。相手のプレッシャーに捕まって出口が見つからないシーンはほぼなかった。明らかにプレスへの耐性は上がり、アップテンポで主導権とボールを握り返してくる対戦相手への対抗策を身につけることができた。

万能型の台頭と専門家の苦悩

 では今のアーセナルに懸念はないのか。もちろん答えはノーである。大枠としては良い方向に向かっているのは確かだろうが、ここからは課題にも目を向けていきたい。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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