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目指すは安定感と柔軟性の向上。「システムの複雑化」からアーセナルの23-24を占う

2023.08.31

せこの「アーセナル・レビュー」第3回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、各国リーグ戦から代表戦まで様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第3回では、新たに取り組んでいる「システムの複雑化」からアーセナルの2023-24シーズンを占っていく。

 まずは今夏の移籍市場で顔ぶれに変化があったメンバー構成を見ていく。試合前の映像で出てくるフォーメーションでは[4-3-3]になっている今季のアーセナルだが、ほぼ間違いなくボールを持てばSBの1人が中に絞って[3-2-2-3]に変化する。4バックの構成はインサイドでプレーできるSB1人とサイドとの繋がりを求められるCB2人とストッパー型のCBが1枚である。例として直近のプレミアリーグ第3節フルアム戦のメンバーをあてがうとトーマス、ホワイト&キビオル、サリバということになる。

 アンカーを務めるのは新加入のライス。彼がインサイドでプレーできるSBとして起用されるトーマスとともに中盤からゲームを作っていく役割となる。そして、ウーデゴール+1枚(トロサール、ビエイラ、ハベルツ、そしてライスがテストされている)がインサイドハーフ。ワイドはサカとマルティネッリ、そしてジェズスが膝のケガから復帰したばかりのCFにはエンケティアやハベルツが起用されている。

 これだけでも最強の11人をそらんじて言えた昨季とはスタートが違うことがわかるだろう。アーセナルのスターターは現状ではファンごとに異なるメンバーを思い浮かべるということがザラとなっている。

昨季からの変化は「システムの複雑化」

 さて、ここからは昨シーズンと比べながら異なる点を見ていこう。まずはバックラインの編成だ。インサイドでプレーするのは昨季は左SBのジンチェンコがメインだったが、今季は右のトーマスが務めることが多い。もちろん、これはジンチェンコの出遅れやティンバーの負傷離脱といった側面はあるだろう。

 しかしながら、インサイドでもプレーできる新戦力のティンバーが左で起用された開幕戦も、右SBとしてトーマスがセット起用されていることを踏まえると、単にどちらかのSBが絞れればいいというわけではなさそうである。実際に絞るかどうかは別として、両サイドにインサイドでもアウトサイドでもプレーができる選手を置くのが理想という可能性はある。

 後ろに残された3人のCBのうち、ホワイトとサリバは開幕から固定。前者はトーマスと右のレーンをシェアしながら、後方でのゲームメイクとサカのサポートを行っている。サリバは中央にどっしりと構えながら球出しとカウンターの迎撃がメインのタスクだ。

 もう1人の枠としては現状ではティンバー、キビオル、冨安が使われている。このポジションの選手はホワイトほどではないにしても、高い位置に出ていってマルティネッリをサポートする必要がある。起用された選手の共通点はSBとしてアーセナルでの経験が多少なりともあること。そして、CBにおけるストッパー役としてある程度の計算が立つことだろう。

 スタメンから外れているガブリエウはサイド攻撃における後方支援能力不足なのか、あるいはきっちりブロックを組む時にSBの位置になる分、サイドでの経験値が不安視されているのか。いずれにしてもCBとしてのストッパー役としては申し分ないのは間違いないため、それ以外のところで理由があるはずだ。

 インサイドハーフのキャラクターはさらに煩雑だ。最も攻撃的で従来から離れているのはハベルツ。展開次第ではほぼビルドアップに絡むことをせず、実質2トップの一角のような振る舞いでペナルティエリア内を主戦場とする。それ以外の3人はもう少し後ろ寄り。トロサールであれば、左の大外のマルティネッリとのレーンの交換から、横方向に相手に揺さぶりをかけることができる。

 ビエイラはフルアム戦で途中交代から充実のパフォーマンスを披露。ジャカの役割をトレースし、アシストとPK獲得でゴールに直結する活躍を見せた。現段階で前任者へのコピーを最も忠実にこなすのは彼だろう。ライスのインサイドハーフ起用はコミュニティシールドのマンチェスター・シティ戦でテスト。高い位置での顔出しと自陣のプロテクトの両輪を回している。

 このようにインサイドハーフはプレースタイルも位置もバラバラ。人が変われば特色は変わる。それに伴って、変化があるのは中盤の低い位置における2人、アンカーのライスとSBのトーマスの振る舞いだ。基本的に中央から動かないライスと、中央と右サイドを行き来するトーマスというのが主に2人の基本の関係性となる。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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