「モドリッチの戦いの歴史」が証明した力。PKストップ連発のGKリバコビッチを復活させたキャプテンの叱咤
日本戦徹底解剖
PK戦で日本の前に大きく立ちふさがったドミニク・リバコビッチ。しかし、「このPK戦を通して、まるで僕の全人生が通り過ぎたような感覚」と語った守護神は、W杯欧州予選で極度の不調に陥っていた。そこに正面から向き合ったのが、キャプテンのモドリッチだった。
カタールW杯出場を目指す6人のキャプテンに密着取材した『キャプテンズ』というドキュメンタリーシリーズがある。共同制作者の『FIFA+』で無料視聴が可能なのだが、第6話に必見のシーンが出てくる(リンクはこちら。対象シーンは22分56秒から)。
本大会にストレートイン出場するためにも、クロアチアは最終節のロシア戦に勝利する必要があった。ところが、正GKドミニク・リバコビッチは極度の不調に陥り、10月の連戦に続いて11月のロシア戦でもレギュラーを外されてしまう。ルカ・モドリッチは精神的に落ち込んでいる彼をホテルのソファーに呼び出した。キャプテンの言葉は「激励」というより「叱咤」に近かった。やり取りはこうだ。
「もしお前を気にしていないようなら、こんな話を僕はするつもりはない。代表チームでの成長が僕には見えないんだ!」
「いや、多分そうではなくて……」
「お前はチームに不安定さを与えてしまっている。わかるか? 誰だってミスをするんだ! お前の問題はミスを恐れていること。誰がミスしないって言うんだ? 言ってみろ! センタリングのボールに向かって飛び出すことと何の関係があるんだ?」
「僕が飛び出さなかったことでミスしてしまったために……」
「お前は優れたGKなんだ。それを知るべきだ。わかってくれ!」
周囲からモドリッチがリーダーとして崇められるのは、権威を悪用することなくプロフェッショナリズムを植え付けられるからだ。いくらリバコビッチが同郷の可愛い後輩だろうと関係ない。その後のリバコビッチからはプレーに迷いが消え、再びバトレニの守護神として復活した。そして大舞台で彼がやってのけた大仕事が、決勝トーナメント1回戦「日本対クロアチア」のPK戦だ。
受け継がれるPKストッパーの系譜
1人目のキッカー、南野拓実のシュートはコースとスピードが甘く、リバコビッチがあっさりとセーブ。2人目の三笘薫のシュートは左下隅を突く厳し目のコースだったが、これを右手1本で弾き返した。3人目の浅野拓磨が決め、クロアチアのマルコ・リバヤが失敗したことでスコアは1-2。日本の4人目のキッカーはキャプテンの吉田麻也。リバコビッチは三笘と同じコースを完全に読み切ってこの日、3本目のセーブ。最後はマリオ・パシャリッチがネットを揺らし、PK戦の軍配はクロアチアに挙がった。……
Profile
長束 恭行
1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。