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【連載】風間八宏が考える指導者育成の形。「選手と同じように、指導者も外に羽ばたいて欲しい」

2022.10.17

「風間八宏×セレッソ大阪」育成革命の最前線 第2回

「ここまで早く成果が出るものか」と驚いた。日本サッカー界が誇る“奇才” 風間八宏がセレッソ大阪アカデミーの技術委員長に就任して2年目を迎えた2022年、U-18とU-15、そしてU-18ガールズまでもが夏の全国大会であるクラブユース選手権の頂点に立った。カテゴリーをまたいだ“3冠”は史上初である。

U-15とU-18が見せたのは、まさに川崎フロンターレと名古屋グランパスで体現してきた“風間サッカー”だった。しかし、実際に選手を指導するのは本人ではない。彼が直接現場に入ることなく、なぜこのような現象が起きたのか――?

本連載では風間八宏がセレッソ大阪で取り組む育成改革の実態に迫る。第2回は、セレッソで実践する“指導者の育成”に焦点を当てる。全国大会の優勝は副次的なもので、本質ではない。では風間氏は指導者に何を求め、何を伝えているのか。

指導者には「根本を学んでほしい」


――前回のインタビューでは「指導者は飢えている」とおっしゃっていました。風間さんとしても彼ら彼女らに応えたい思いがあるのかなと。

 「指導者が育つことで、外から選手を探さなくても良くなると考えています。日本中を探せば、必ず良い選手がいる。ただ、その選手を見抜ける指導者が必要です。見抜いた選手が多く出てくることで、ブラジルのように “両方がある”環境になると思いますし、それが理想です」


――「両方がある」というのは?

 「国内のリーグのクオリティが高く、かつ海外に出て活躍する選手もいるということです。『あの選手はこのクラブで育って、今はマンチェスター・シティで大活躍している』とファンが誇れる状況も素晴らしいですが、同時に『でも、俺たちのセレッソも面白いサッカーをしているからそれを見に行こう』というファンがたくさんいないといけません。いい選手を外に輩出しても、下からどんどん新しい選手が出てきてトップチームのクオリティが維持される。こういった循環が常にある世界を作りたいんです。そのためには、私のように年老いた人間1人がやり続けていても仕方がないので(笑)、クラブ全体の指導者の質を上げるための仕組みを作らなければいけないなと。

 これはずっと昔から言っているのですが、日本人は世界を見渡しても、“教えること”に優れていると思います。方法論を学べば、そこから発想ができる。その分、まったく何もないところから何かを作るのは得意ではないかもしれませんが。日本の指導者はなぜヨーロッパを学ぼうとするのか?といつも私は考えてきました。ヨーロッパの人間が今の時点で良いと思ったことが本になって、それを日本の指導者が一生懸命読んで勉強しても、読み終わった時にはヨーロッパではさらに新しい本ができている。そうではなく、“どうすれば先に行けるか” という発想を作るための勉強をした方が良いですし、そのためには絶対的な“頭の中の目”を持たなければいけません」


――“頭の中の目” というと……?

 「人間である以上、体の動きには性質があるし、ボールの動きもそうです。そこをしっかりと理解した上で『“こうやったら”サッカーがうまくなるんだ』と本質的なことを考えてほしいということです」


――それが大前提にあるんですね。

 「そう、根本を学んでほしいというのが1つ。もう1つ、指導者にそうしたものを伝える中で『自分を捨てろ』というのも頻繁に言っています。例えば『こうやってターンをすれば相手に取られないですよね』と示したら、『でも、それで後ろから相手に来られたら、前に行けないですよね』と言う指導者もいます。『じゃあ、後ろから奪いに来ても良いですよ』とその人に伝えてやってもらうと、彼は私からボールを奪えない。これを実際に示してみると、異を唱えた人は面食らいます。

Photo: ©CEREZO OSAKA SPORTS CLUB

 そこで私は言うんです。『“あなたは” できないだけです。その考えや前提で指導をすると、選手は使える技術を知らずに終わってしまうんですよ』と。さらに言えば、指導者は私が示したことをそのまま右から左へと伝えるのではなく、“今自分が見たものよりも上手くやる”ことを常に求め続けなければいけません。……

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Profile

竹中 玲央奈

“現場主義”を貫く1989年生まれのロンドン世代。大学在学時に風間八宏率いる筑波大学に魅せられ取材活動を開始。2012年から2016年までサッカー専門誌『エル・ゴラッソ 』で湘南と川崎Fを担当し、以後は大学サッカーを中心に中学、高校、女子と幅広い現場に足を運ぶ。㈱Link Sports スポーツデジタルマーケティング部部長。複数の自社メディアや外部スポーツコンテンツ・広告の制作にも携わる。愛するクラブはヴェルダー・ブレーメン。

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