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苦境の中で得たシーズン初勝利。PSGはチームとしての成熟期へ

2020.09.18

 パリ・サンジェルマンが、シーズン3試合目にしてようやく初勝利を飾った。9月16日のメス戦。UEFAチャンピオンズリーグ決勝出場により日程が延期された、2020-21シーズンの第1節だ。

CLの激闘とコロナ禍

 リーグ1初陣は今季昇格したばかりのランスに1-0で敗れ、3日後のホーム初戦では、マルセイユに同じスコアで敗れた。宿敵マルセイユにパルク・デ・プランスで土をつけられたのは2010年以来、10年ぶりのことだ。

 まあしかし、現在のチーム状況を見れば、この結果も仕方ないかという感じだ。

 8月23日にCK決勝を戦った後、ランス戦までは中17日。休暇も短かったが、それ以上に、CL決勝という密度の濃い体験をした後の燃え尽き感の余韻がまだ残っている様子だった。

 加えて、休暇中にネイマール、マルキーニョス、アンヘル・ディ・マリア、レアンドロ・パレデス、GKケイラー・ナバスら主力陣が新型コロナウイルスに感染。フランス代表に帯同していたキリアン・ムバッペも陽性が判明し、その後マウロ・イカルディにも陽性反応が出た。

 そろいもそろって攻撃陣がアウトになり、ランス戦で3トップの2席を埋めたのはアーノルド・カリムエンドとケイ・ルイス・アティルの18歳2人。

 マルセイユ戦にはネイマール、ディ・マリア、パレデスの3人が復帰したが、練習に参加できたのは試合の2日前からで、コンディションも不十分だった。

 追い打ちをかけるように、終盤の乱闘でパレデス、ネイマール、レイバン・クルザワが退場になると、クルザワは6試合、ネイマールとパレデスは1試合の猶予付きの3試合の出場停止処分となってしまった。

終了間際に決勝ゴール

 というわけで16日のメス戦も、ベンチは背番号30番代のティーンエイジャーばかりというギリギリのメンバーで臨み、ノーマルタイムの90分を過ぎても0-0と、またしても初勝利はおあずけか……という空気が漂ったのだが、アディショナルタイムにディ・マリアのクロスから相手GKがクリアしたボールを、ユリアン・ドラクスラーがヘッドで押し込んだ。

9月16日のメス戦で、PSGは2020-21シーズンの初勝利を挙げた(Photo: Yukiko Ogawa)

 65分にアブドゥ・ディアロが2枚目のイエローで退場になり(また退場!)、フアン・ベルナトも負傷してピッチから出ていたから、この時点でPSGは9人で戦っていた。

 メス側も、「PSGから勝ち星を奪うならこの機会をおいて他にはない!」という勢いで精一杯頑張っていたから、終了間際の失点はさぞ無念だっただろうが、3連敗はできないというPSGの執念がほんの少し上回った。

 試合後、トゥヘル監督は、コロナ感染による自主隔離期間を終えたイカルディがわずか1日の練習参加で試合を迎えていたこと、この日の攻撃陣、イカルディ、ディ・マリア、サラビア、ドラクスラーの4人体制はトレーニングでも試していない「ぶっつけ本番」だったことなどを挙げ、そうした状況の中でもチャンスを作り、最後まで勝利を追い求めた姿勢を評価。

 「このようなスピリッツを見られることほど監督冥利に尽きることはない」と選手たちを労った。

試合後の会見で選手たちを労ったトゥヘル監督(Photo: Yukiko Ogawa)

 ムバッペはようやく練習に復帰し、徐々にメンバーも戻ってきているが、クルザワが6試合不在な上にベルナトのケガも長期化しそうな左SBは懸念事項。万全のコンディションのフルメンバーで戦える日は少し先になりそうだ。

トゥヘル監督も達観

 かといって、彼らが今シーズンのタイトルレースから脱落すると予想する者はいない。PSGを破ったマルセイユのアンドレ・ビアス・ボラス監督でさえ「彼らの戦力は強力だ。すぐに復調してくるだろう」と、楽観はしていない。

 主将のチアゴ・シウバを筆頭にW杯後の心身の疲れから波に乗れず、モナコに優勝をさらわれた16-17シーズンの例もあるが、今のPSGには、これまでになかったものが備わっている気がするのだ。

 7月下旬のカップ戦決勝で実戦が再開した頃のトゥヘル監督は、マスクをしていても苛立ちが隠せないほど、ナーバスさがもろに出ていた。

 「CLよりも、まずこの2つのカップ戦でトロフィーを獲ること」と自ら命題を掲げていたから、ロックダウンの長い休みの後でコンディションを調整しつつ結果を出すことにプレッシャーを感じていたのかもしれない。

 両カップ戦には優勝したが、この2試合でわずか1得点、リヨンとのリーグカップ決勝はPK戦で辛くも勝利、という状況にも不安を感じていた。その中でCLの決勝まで勝ち進んだことは、ある意味ミラクルだった。

 しかしその経験を経て、今のトゥヘル監督からは「このチームが愛おしくて仕方がない」という感情があふれ出ている。

 主力がそろってコロナに罹患し、マルセイユ戦での乱闘、ネイマールとアルバロの人種差別発言などさっそく問題続きだが、トゥヘルは無理に繕うでもなく、無邪気な明るさで受け止めている。

 バカンスでの感染は不注意ではなかったか、と記者にとがめられても、「あれだけ緊張感のある経験をしたのだから息抜きも必要だ」と選手たちをかばい、乱闘騒ぎの後も、処分が決定した後も「サッカーにはこういうこともあるから仕方がない」と達観。それは、対外的にはかばいつつも、チーム内ではしっかり選手たちを制御できる、という自信の表れにも見える。

 この夏の体験がチームの絆を強くした感じはあったが、トゥヘル監督もまたこれまでの足かせのようなものが外れたのか、どこか軽やかになった。

 カタール体制も早10年目。スター選手を集めて作った集団から、真のチームへの成熟期に入った。そんな空気がPSGに漂っている。


Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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