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PSG、悲願の欧州制覇ならず。真の強さを得るために必要なこととは

2020.08.24

 「5年でビッグイヤーを手に入れる」

 そんな威勢のいい宣言とともに、カタールの資本を引っ提げて2011年、ナセル・アル・ケライフィ会長はパリ・サンジェルマンの実権を握った。

 「5年」はさすがにこの欧州最高峰リーグをナメていたと彼らも感じているようだが、9年目で決勝進出というのも十分に立派だ。毎年巨額を投じて優秀な選手を集めてきた甲斐はあった。

 8月23日にリスボンで行われたUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦で、PSGはバイエルンに1-0で敗れ、初優勝はお預けとなった。ただ、これは「PSGはまだ宿題を片付けていない」ということだった気もする。

繰り返された2戦目の逆転負け

 今シーズンは新型コロナウイルスの影響で、準々決勝以降を一発勝負で行う「ファイナルエイト方式」が採用された。ここであらためて浮き彫りになったのは、2戦形式で勝ち抜くことの難しさだ。

 PSGは今年、決勝進出どころか4強の壁も初めて超えることができた。過去3年に至っては8強入りさえも阻まれていたが、もし一発勝負であったなら、とっくにベスト4入りは叶っていたし、ひょっとしたら決勝進出さえもっと早く実現していたかもしれない。

 例えば2013-14シーズンの準々決勝は、第1レグはチェルシーに3-1、16-17シーズンのラウンド16は、第1レグでバルセロナを4-0で撃破した。この2戦はホームの利があったが、昨シーズンのラウンド16では、敵陣オールドトラッフォードでの第1レグで、マンチェスター・ユナイテッドに2-0の勝利を収めている。

 ところが、いずれも第2戦目でひっくり返され、次ラウンド進出を逃した。

 チェルシー戦は戦術面が大きな敗因だった。主砲のズラタン・イブラヒモビッチが負傷で欠場するハンディはあったが、敵将のジョゼ・モウリーニョはエディンソン・カバーニがトップでプレーした場合の対応策をそつなく講じてきた。さらに第1レグでの手応えから、スピードとパワーで押し込む展開に持ち込めば終盤PSGは持ちこたえられない、と読んだ通り、パワープレーで押し込んだ末の87分に決勝点を奪った。

 バルセロナ戦は、パリでの1戦目は「バルサどうしちゃったんだ?」というほど、メッシもネイマールもスアレスも存在感が皆無だった。しかしカンプノウでの第2レグで本領発揮されると、6-1というとんでもないスコアで大逆転された。

 この試合のPSGはほぼベストメンバーだったが、「かつて第1レグに4-0で勝利して次ラウンドに進めなかったチームはゼロ」というプレッシャーにも負けた。フランス国内では自分たちより地力のあるチームに追われる展開に置かれたことがない、という実情も、メンタル面の弱さに影響を与えた。

 そして昨年のマンチェスターU戦。相手は第2レグではケガ人が続出し、ティーンエイジャーのアカデミー生で頭数をそろえる有様だった。

 前日の公開練習の時などは、「プロと対戦する学生チーム」かと思うくらい、ユナイテッド側は未成熟な様子だった。しかしその相手に、本拠地でまさかの逆転負け。そんなことはあるはずないと思ったが、DFプレスニル・キンペンベが試合の数日後に白状した。「チーム内に慢心があった」と。

2戦形式は真の強さが試される

 今回、ユベントスやマンチェスター・シティを破って4強入りしたリヨンのスポーツダイレクター、ジュニーニョは、「自分たちが準決勝に勝ち進んだから、というのもあるが」と前置きした上で、「過去の実績やクラブの規模、経済力など関係なく、その試合で強かったほうが勝ち抜ける、という一発勝負形式は面白いと思う」と私見を述べていた。

 それも一理あると思う。国内のカップ戦にはアマチュアチームが強豪を食う面白さがある。

 ただ、2試合を戦うことで、一発勝負では計れない真の強さが試される。1戦目で勝った場合も負けた場合も、2戦目で戦術、メンタルなどあらゆる要素をどう修正して最良の結果を導き出すか。PSGのこれまでの例を見ても、そこが実は最も難しい部分で、その難題をクリアした者同士が決勝戦での頂上対決で一発勝負を行うことで、真の勝者が決する。

 国内リーグが打ち切りになり、3月以降、7月下旬の国内カップ戦決勝まで公式戦がないというかつてない状況の中で、PSGが心身ともにコンディションを整えて決勝戦まで到達したことには価値がある。バイエルン戦も、前半の惜しいチャンスで点が入っていればどうなっていたかわからない接近戦だった。

 しかし次は、ぜひとも2試合を経て勝ち進む姿を見たい。

 優勝カップは手に入らなかったが、この貴重な経験はクラブのDNAに刻まれる。そして今後メンバーは変わっても、そのDNAがチームを強くする。

 そうやってクラブは、一歩一歩、強豪への階段を上っていくのだ。


Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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