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シティ・グループ、ベルギーに進出。外国人投資家が続々と参入する理由とは

2020.05.20

 5月11日、マンチェスター・シティはプロキシマス・リーグ(ベルギー2部)のロンメルSKがシティ・フットボール・グループ(CFG)に加わったことを発表した。

 人口2万人に満たないベルギー東部リンブルフ州の都市ロンメルをホームタウンとし、本拠地スーフェラインスタディオンの収容人数はわずか8000人という小クラブを億万長者グループが買収したニュースは、ベルギー国内で大きな話題となった。

 ロンメルはニューヨーク・シティ(アメリカ)、メルボルン・シティ(オーストラリア)、横浜F・マリノス(日本)、モンテビデオ・シティ・トルケ(ウルグアイ)、ジローナ(スペイン)、ムンバイ・シティ(インド)、四川九牛(中国)に次ぐ9番目のクラブとしてCFGに加わった。 

クラブ売却で経営難を回避

 ロンメルは2003年、破産したロンメルFKが近隣のKVVオーフェルベルト・ファブリークに吸収合併され、新クラブ「KVSKユナイテッド・オーフェルベルト・ロンメル」として誕生した。

 結成後は2部を定位置とし、最高順位が2位と、あと一歩で1部昇格というシーズンを3回経験している。

 2010年に「ロンメル・ユナイテッド」と改称し、2016年には現在の「ロンメルSK」に再改称。2018年にはイスラエル最大の法律事務所『AYR』代表のウディ・ショチャトビッチ氏がクラブを買収した。今シーズンは下位に低迷しつつ、ロケレンで過去2度のベルギーカップ優勝を果たしたペーテル・マース監督の下、8チーム中6位で終えて残留を決めていた。

 プロキシマス・リーグのレギュラーシーズン終了後、ロンメルは200万ユーロ(約2億3000万円)の負債を抱えるなど経営難に陥り、4月上旬に行われたベルギーサッカー協会のライセンス委員会では来シーズンのプロリーグ参加が認められなかった。5月上旬の再審査で再びライセンスを失効した場合は3部降格が確定するという危機的状況に追い込まれ、オーナーのショチャトビッチ氏はクラブの売却を決意する。

 4月下旬にCFGへの売却交渉が行われ、5月7日にロンメルは負債を返済して来シーズンのプロライセンスを取得。その4日後にCFGへの売却が発表された。

 4月に破産したロケレン同様、クラブ存続の危機に陥っていたロンメル。かつて「ユナイテッド」を名乗ったクラブは「シティ」グループによって存続の危機から救済された。

買収額は200万ポンド

 ベルギー紙『Le Soir』には、元キャプテンのコンパニが選手兼監督を務めるアンデルレヒトやデ・ブライネが在籍していたヘンクではなく、ロンメルを買収した理由が記されている。

 ロンメルの買収額は200万ポンド(約2億6400万円)と報道されている。この金額は、マンチェスターCの育成機関や女子チームの年間予算よりも低い。トーマス・ムニエ(パリ・サンジェルマン)の代理人も務めるジャック・リヒテンシュタイン氏は「マンチェスターCの所属選手の年俸に比べればわずかな金額だ。デ・ブライネが年俸2000万ユーロ(約23億円)以上受け取っているのと比べれば、ほぼノーリスクに近い」と話している。

 さらに「国土面積が小さく『ヨーロッパの交差点』であるベルギーは地理的な面でも理想的で、スカウトの交通費も削減できる。多くのプロクラブがある小さな国という環境は恵まれている。EU圏外のサッカー選手が就労許可を取得する条件も他国よりも柔軟で緩い。アントワープやスタンダール・リエージュといった名門では結果を求められるが、ロンメルを一種の実験室のように2、3年利用しても、ほとんどの人は気にすることはないだろう」と付け加えている。

 マンチェスターCは日本から板倉滉(現フローニンゲン)、食野亮太郎(現ハーツ)など、世界中から若手有望株を獲得しているが、今後は保有権を持つ若手選手をロンメルに期限付き移籍させるパターンも想定される。

プロクラブの過半数が外国資本に

 2019-20シーズンのベルギーのプロリーグ(1部、2部)では、所属する24クラブのうち過半数にあたる12クラブが国外資本だった。日本の『DMM』が所有するシントトロイデンの他、カタールやマレーシア、タイ、サウジアラビア、トルコ、イングランド、中国、ルクセンブルクなど、様々な国の投資家がベルギーのクラブを買収している。

 CFGに買収されたロンメルの他、4月末にはオーステンデがバーンリー(イングランド)やトゥーン(スイス)を所有するアメリカ資本のパシフィック・メディア・グループに買収された。

 2019年9月、アメリカの会計事務所『デロイト・トウシュ・トーマツ』は、17-18シーズンに外国人によって投資された金額は5410万ユーロ(約63億9000万円)にのぼったというレポートを発表した。

 プロクラブとして経営安定化を目指すクラブと、国土の狭いベルギーの特色を生かしたい外国人投資家の思惑が一致する現状では、今後も外国資本化の流れは続くだろう。


Photo: Getty Images

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シェフケンゴ

ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。

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