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オランダ2部で戦う「もう1つのオランイェ」。誇らしき「行ったり来たり」の日々

2020.03.13

 オランダ2部リーグのFCフォーレンダムには「行ったり来たり」というニックネームがある。これまで1部昇格を果たすこと9度。それはすなわち、同じ数だけ2部リーグに降格したことを意味する。だが、本拠地であるフォーレンダムはたった2万2000人しか住んでいない小さな漁村だ。地元の選手をトップチームの中心選手に育てながら、強豪チームと渡り合ってきた彼らにとって「行ったり来たり」というニックネームは誇りである。

 だが、フォーレンダムが1部リーグを戦ったのは2008-09シーズンが最後。昨季は2部で20チーム中16位と低迷し、スタジアムに閑古鳥が鳴いていた。

地元出身の指揮官が成功に導く

 そんな彼らが今、センセーションを起こしている。3月6日のホームゲーム、ヨング・アヤックス戦を訪れてみると、スタジアムは6000人を超す観衆で8割ほどが埋まっていた。結果は4-0でフォーレンダムの勝利。攻撃的で面白いサッカーを志向し、しかも結果が付いてくるのだから、おのずとファンもスタジアムに戻ってくる。

 フォーレンダム復活の立役者は、何と言っても監督のビム・ヨンクだ。現役時代にアヤックスやPSV、インテルで活躍したことで知られる彼は地元の出身で、プロとしてのキャリアもフォーレンダムで始めた。近年はヨハン・クライフ、デニス・ベルカンプらとともにアヤックス・ユースアカデミーの改革を進めていたが、2015年に志半ばで退団した。

 そんなヨンクが、フォーレンダムの誘いに乗って今季から地元クラブの指揮を執ることになった。目指すのは魅力的な攻撃サッカーと、ハイプレッシングの積極的なスタイルの融合だ。

 第11節を終えた時点で3勝3分け5敗とスタートダッシュには失敗したが、第12節のヨングAZ戦を3-2で競り勝ってから調子が上がり、驚異の8連勝を達成。現在はカンブール、デ・フラーフスハップに続く3位に付けている。ヨンクは3年計画で1部に復帰することを託されたが、もしかすると前倒しで目標が達成されるかもしれない。

俊英そろいの“新しいオランイェ”

 ヨング・アヤックス戦でティーンエイジャーが3人も先発するほど、フォーレンダムの選手は若い。しかも、メンバーの半分が自前で育てた選手だ。中でも今「NACのジョン・ポール・ファン・ヘッケと並ぶタレントでは?」と話題になっているのがCBのミッキー・ファン・デ・フェン(19)だ。今季、U-19からリザーブチームに昇格したファン・デ・フェンは、秋にはトップチームまで駆け上がり、瞬く間に中心選手になった。長いリーチを生かしたタックル、左足から繰り出される正確なミドルパス、果敢なドリブルインが印象的な選手である。

 フランチェスコ・アントヌッチ(20)はオランダ2部リーグのレベルを超越したベルギー人MFだ。猫背の姿勢でボールをトラップすると、後は“マジック”。ピッチ全体を広域にスキャンする能力と、ペナルティエリア内の狭いエリアをスキャンする能力を併せ持ち、相手の裏をかきながらパスを通し、シュートを決める。これほどの逸材をなぜ、フォーレンダムという小クラブがモナコから借りることができたかと言うと、もともとヨンクと彼がアヤックスのアカデミーで一緒だったから。こうしたルートで補強ができるのも、フォーレンダムの強みになっている。

 左WGのダリウス・ジョンソン(19)は、ストリートフットボールで育ったイングランド人。18歳の時にチェルシーのテストを受けたが、当のチェルシーが補強禁止の処分を受けてしまい、彼にとってはフォーレンダムが初めて所属するクラブになった。こうしたストリートフットボーラーも、クライフメソッドを信奉するヨンク監督にとっては育てがいのある選手だろう。

 左SBのハイス・スマル(19)は、ここまで6ゴール9アシストという結果を残していることから分かるように、サイドからのクロスとバイタルエリアに侵入してからのシュートが光る選手。守備の短所に目をつぶって起用しても十分にお釣りが来るほど長所のあるSBだ。

 こうした個性が伝統のオレンジ色のユニフォームをまとって輝き、1つのチームを形成している。オランダ代表のチームカラーと同じことから「もう1つのオランイェ(オランダ代表)」というニックネームもあるが、今は「新しいオランイェ」と呼ばれ始めている。


Photo: Getty Images

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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