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移籍市場が“メルカリ化”する?仲介人不要のマッチングサービス

2019.12.27

 今月初め、FIFAは冬の欧州移籍市場の幕開けを前に2019年の国際移籍における仲介業について報告書を公表。中でも注目を集めているのは仲介手数料で、その総額は6億5390万ドル(約719億円)にも上っている。前年と比べると約20%上昇しており、右肩上がりを続ける格好となった。

 こうして拡大する移籍仲介ビジネスに疑問を感じ、一石を投じている熱烈なサッカーファンがいる。それは起業家でもあるヨナス・アンカーセンだ。クラブが仲介業者に高い手数料を支払っているにもかかわらず、選手の獲得・放出にミスマッチが起きていることに憂えたアンカーセンは、UberやAirbnb、Tinder、いわゆる日本のメルカリのようなCtoCのマッチングサービスから着想を得て、2017年にプラットフォームを開設。そして「クラブが移籍市場の主導権を取り戻すこと」を目的に誕生したのが『TransferRoom』である。

 このTransferRoomでは、登録している各クラブがWEBサイトやアプリ上で自クラブの「放出候補選手」を公開。他クラブの放出候補を閲覧し、気になる選手がいれば第三者(つまりは仲介業者)を介さずにクラブ間で交渉が可能だ。年間5000~1万5000ユーロ(約60~180万円)で利用できるこのサービスは瞬く間に世界中の約550クラブに広まり、すでに300件以上の取引が行われている。

TransferRoomを利用するクラブは年に3度行われるマッチングイベントに無料招待され、世界各国のクラブの担当者と直接話し合いの場を持つことができる

ビッグクラブのお相手は…

 そのユーザーの一人はローマで引退し、現在同クラブのスポーツマネジメントに携わっている元イタリア代表DFフェデリコ・バルザレッティだ。

 「毎日このプラットフォームを使っています。朝と夜に10分ずつ確認していますね。他クラブの動き――需要と供給を知ることは、選手を売り込んだり市場のトレンドを理解する上でとても重要なことです。私たちにとっては、選手をローンに出す上でかなり役立っています。私はローン移籍中のすべての選手を担当していますが、メキシコノルウェー、ブルガリアにあるクラブであっても簡単に交流できますよ」

バルザレッティは引退後もローマに留まりスポーツマネジメントスタッフの一員として働いている

 さっそくビッグクラブはTransferRoomを使って人員整理をしており、現在32人を武者修行させているマンチェスター・シティもその一例だ。シティでローン移籍を担当するファーガル・ハーキンの言葉がその有用性を物語っている。

 「大きな機能として、私たちの選手をショーケースに並べることができます。放出可能な選手を明らかにし、他のクラブに次の移籍市場で彼らを売りに出したり、ローン移籍させる意思があることを伝えて興味を惹くことができます。そうやって市場に売り込んでいくことで、私たちの若い選手を伸ばしていけると信じているんです」

 「一番役に立っているのは、他のクラブと直接取引できる点です。心を開いて真摯に話し合い、両クラブにとってWin-Winな取引を成立させようとすることができますからね」

シティでローン移籍を管理しているハーキン

 実際にシティは今夏、TransferRoomを通じてU-23チームに籍を置くエルネスト・アギリを放出。彼をローンで獲得したキプロスの古豪エノシス・ネオン・パラリムニでアドバイザーを務めるパベル・ズラコフスキは、その顛末をこう回想する。

 「このプラットフォームのおかげでマンチェスター・シティと繋がることができ、シティの選手と契約を結ぶことができました。ガーナ出身のアギリはここまで素晴らしい補強となっていますよ。従来のやり方であれば数カ月かかったでしょうけど、7日で取引をまとめることができたんです」

  リーグ戦14試合中13試合に出場している21歳のMFは3ゴール4アシストを記録しており、1部残留を目指すエノシスで奮闘中。見事、若手に経験を積ませたいビッグクラブと即戦力を欲するスモールクラブの思惑が国境を越えて一致したのだ。これから幕を開ける冬の移籍市場でもこのマッチングサービスの下、世界中で新たな出会いが生まれていくかもしれない。


Photos: Getty Images

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ビジネス移籍

Profile

足立 真俊

1996年、岐阜県出身。生まれもっての“人見知り”を克服するためにアメリカにあるウィスコンシン州立大学でコミュニケーション学を専攻。学業の傍らで趣味として始めた翻訳活動がきっかけとなり、翻訳を通じたサッカーに関する情報発信を模索中。2019年5月、結局“人見知り”のままfootballista編集部の一員に。