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フランスのeスポーツを追う(1)「eLigue1」の活況をレポート

2019.04.29

今回から、数回に分けてフランスの「eSports」事情についてお伝えしたい。初回は、今年で3シーズン目を迎えたゲーム界のフランス国内リーグ『eLigue1』の春季大会をレポート。
eSportsどころかコンピューターゲームの経験はポケモンとテトリスのみ、というド素人以下の筆者が、場違い感を漂わせつつ、熱い会場に潜入取材した様子をお届けする。

「eLigue1」の概要とは?

 eLigue1は、EAスポーツが発売しているゲーム『FIFA』シリーズで競うコンペティションで、リーグ1と同じく、LFP(プロフットボールリーグ協会)が運営している。2017年にスタートし、今回が3シーズン目となる。

 eLigue1には、誰でも参加できる。参加方法は、
①リーグ1所属の20クラブの中から、自分の「心のクラブ」を決める
②現在リーグ1に所属している選手で自分のチームを構成する(心のクラブの選手以外でもOK)
と、これだけ。いたってシンプルだ。

 バトル形式は、まず、同じ「心のクラブ」を選んだ人同士の予選を勝ち抜く。たとえば自分がモナコを選んだなら、同じモナコのプレーヤー同士で対戦を重ね、頂点に立った1人が大会出場権を得る。

 大会は、冬季と春季の2回。ここでは、Xbox組とPS4組に分かれて、全参加者が、最初はグループ内でのリーグ形式、その後グループ上位者によるトーナメント形式で、Xbox、PS4、それぞれの勝者を決定、そして5月のプレーオフで冬季と春季の勝者が対決し、その年のグランドチャンピオンが決定する。

 今シーズンの冬季大会では、Xbox部門ではPSGの『DaXe』というプレーヤーが優勝、PS4では、DaXeの同僚で同じくPSGの『Maniika』を破ってカーンの『Dyloo』が優勝し、プレーオフ出場権を得た。

 その彼らと5月に対戦する相手を決めるのが、今回の春季大会だ。初夏の日差しが降り注ぐ4月下旬の週末、重たいコートを脱ぎ捨てて、公園へ、セーヌ河畔へと人々が太陽を求めて外へ飛び出す中、パリに隣接するルバロワ=ペレ市にあるオフィスビル内の特設会場では、青年たちが、熱い戦いを繰り広げていた。

 参加者は、XBOX部門が24人、PS4部門が27人。クラブ数の20人より多いのは、プロ選手を抱えるクラブは『招待枠』として各1名の参加権が得られるため。現在リーグ1のクラブでeSportsセクションがあるのは、PSG、リヨン、ディジョン、リール、ナント、レンヌだ。

 ただ、クラブのeSports部門に所属している選手だけがプロ選手とは限らず、サッカークラブ以外のeSportsのプロクラブ、有名なところでは、『ミレニアム』などに所属している選手も何人もいて、正真正銘のアマチュア選手はひと握りしかいない。そうしたアマチュア選手にとっては、こうした大会への出場は、プロクラブのスカウトの目に留まる格好の機会でもある。

アマチュア学生プレーヤー、ウーゴ君の奮闘

 そんな貴重なアマチュア選手を発見した。

 スタッド・ランスの代表、プレーヤー名『hugo-neymar』ことウーゴ君、19歳。体育教師を志す大学生だ。およそ400人の中から勝ち抜いて本大会に進出。なんと冬季大会に続いての連続出場だという。

スタッド・ランスのシャツを身にまとう19歳の学生アマチュアプレーヤー、ウーゴ君

 それでもウーゴ君は、やはりプロとアマチュアの差は大きい、と語る。

「ゲームにかけられる時間やお金が全然違う。僕は学校の勉強があって、それほどゲームの練習にかけられる時間はないし、分析や準備も自分1人。付き添いのコーチもいない。良い選手を集める予算もかけられないし……」

 各選手とも、ゲーム中は1人、付き添いが認められている。プロ選手ともなると、隣にぴったり専属コーチが寄り添っているが、ウーゴ君に付き添っていたのは友人だった。

 また、他の出場者の話では、みな平均して年間4000〜10000ユーロを費やしているらしい。ソフトやゲーム機も新作が出るたびに新調するそうで、なかなか出費もかさみそうだ。なにより、この大会に出場するために、いつもFIFAで使っている選手をいったん手放して、リーグ1の選手に総入れ替えすることで、どのプレーヤーも赤字を被るらしい。それを学生の懐でまかなうとなれば、ゲームにガンガン勝つことでクレジットを増やしていく、という作戦になるのか。

 ウーゴ君はサッカー経験者で、ポジションはストライカーだった。実際にプレー経験があることは、「ビジョンがある、という点では役に立つけれど、ほんのプラスアルファという感じ。まったくプレー経験がなくても、ものすごく強いプレーヤーはたくさんいる」と話す。

「一番大事なのは、どうゲーム中のプレッシャーと向き合えるか、それと、選手を動かすテクニックだと思う」

 ちなみにウーゴ君が選んだ先発イレブンは、
GK:タタルサヌ(ナント)
DF:メンディ(リヨン)、ムニエ(PSG)、キンペンベ(PSG)、ララ(ストラスブール)
MF:ラビオ(PSG)、アオアール(リヨン)、エンドンベレ(リヨン)
FW:ネイマール(PSG)、ムバッペ(PSG)、ディ・マリア(PSG)

 実に、参加選手のほとんどは、8〜9割がた同じ選手を選んでいる。特に両サイドバックと中盤のリヨンの2人、ネイマールとムバッペは、ほぼ全員が選んでいた。ただ、同じ選手でも、課金具合によってアビリティが違ってくるので、とくにシュート力などでは顕著に差が出ると、他の出場者がこぼしていた。

 ウーゴ君によれば、eSportsが進んでいるかにみえるフランスでも、ゲーマーは“オタク”的な扱いをされているんだそうだ(最近海外でも“オタク”という言葉は通じるようになってきた。フランス語だと『accro』(アクロ)。◯◯中毒、とか、凝り性とか。必ずしもネガティブな意味ではない)。

「でも僕は普通に友達と出かけたりもするし、スポーツも大好き。アクロだっていうのは偏見だと思うな。それに、eSportsでは集中力がすごく鍛えられる。それは実際の競技でもすごく役に立つんだ」

 筆者のイチオシだったウーゴ君は、残念ながらグループリーグ突破はならなかったが、2大会連続の出場で、国内の有力プレーヤーとしてしっかり認知されたことだろう。

フランスでは毎週eスポーツの番組が放送

大会の控え室にも多くの人が。ユニフォームを着ているのがプレーヤー。

 気になる春季大会の勝者だが、この週末は準決勝どまりとなってしまい、両部門の決勝戦は後日に持ち越されることになった。決勝進出者は、
Bbox部門は、『RayziaaH』(モナコ)対『Pro EXT4SY』(アミアン)
PS4部門は、『Maestro』(ディジョン)対『Squealie YT』(アミアン)
 両部門ともアミアンの代表が勝ち抜いた。冬季大会勝者であるPSGの『DaXe』以外は、現在リーグ1で16位以下のクラブ代表、というのが面白い。

 衛星放送局『BeINスポーツ』では、毎週、eSportsの番組が放送されている。それほど、フランスでのeSportsの注目度は高まってきている。

 次回は、このeLigue1の初代チャンピオンで、その後、フランスのサッカークラブで初めてeSports部門を設立したPSGのプロ選手になった『Maniika』選手のインタビューをお届けしたい。

→第2回へ続く

Photos: Yukiko Ogawa

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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