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ファン・ウェルメスケルケン際。オランダ2部でモノ言える男に

2019.04.24

オランダ2部でここまで全試合フル出場

 元U-23日本代表のファン・ウェルメスケルケン際は今季、オランダ2部リーグ・カンブールの右サイドバックとしてここまで全36試合フル出場を続けている。1ゴール2アシストとスタッツは控え目。しかし、第34節のユトレヒト・リザーブチーム戦では右45度の位置から左足で鋭いカーブをかけたシュートでネットを揺らすスーパーゴールを決め、35節から2試合続けてプレアシストするなど、シーズン終盤に入ってチームの得点に関与する回数が増えてきた。

 シーズン中盤戦まで不振を極めていたチームは、3月に入ってから6勝2分け2敗と絶好調で、15位だった順位も一気に8位まで上がった。このポジションに付けていれば、カンブールはプレーオフを経由して1部リーグに昇格することも可能だ。

 2016年夏、U-23日本代表としてプレーしていた頃の際は、ボールを確実につなごうという意識が強すぎ、バックパスの多い選手だった。しかし、そこを突かれてボールを奪われ、失点したことで「もっと前に向かってプレーしないと、自分は上に行けない」と気付いた。

2016年、U-23日本代表の一員としてプレーした際(写真右)

 プロ2年目の16-17シーズン、当時在籍していたドルトレヒトの試合を見に訪れると、それまでと全く違った際の姿があった。相手にプレスをかけられても、簡単にボールを味方に渡さず、腕で敵をブロックし、反転してからドリブルで前へ進み、積極的に縦パスを狙う選手に変貌していた。

 成功体験を積み重ねる内に際のプレーに自信と余裕が生まれ、17年夏にはオランダのトップクラブ、AZから「一度、うちに来て試合に出てほしい」という招待を受けた。結局、オファーを得るまで至らなかったが、AZの関係者が際を推してくれたらしくカンブールに移籍し、今、2シーズン目を過ごしている。

「思っていることは言っておいた方がいい」

 オランダ生活はもう5年。「18歳でオランダに来たころの僕は主張ができない、典型的な日本人でした」という際は、今や物言う中堅選手になった。今季33節、4月5日のテルスター戦でカンブールは2-4で敗れてしまった。ミーティングで監督は「やる気の問題だ。そもそも練習の姿勢から問題があった」と怒鳴った。しかし、アヤックス・リザーブチームに6-0と勝った直後のカンブールに、やる気のない選手などいない。「それは違うだろ」と選手たちは思っている。だが、誰も発言しない。

 そこで際は「自分は今季、全試合に出ているんだから、主力選手として思っていることはキチンとここで言っておいた方が良いだろう」と思って立ち上がった。

「監督、それは戦術の問題だったんじゃないでしょうか。今季、3-5-2の相手に対して、カンブールが4-4-2で試合を進めてもいい試合ができてませんでしたよね。それは今回も同じでした」

 しかし、その週の戦術練習では、3-5-2相手にうまく4-4-2が機能してたじゃないか――と監督は言う。

「それは戦術練習の相手がリザーブチームで、個々のクオリティーに差があったから、うまくいっただけです。 僕たちは過去の経験から学ばないといけないと思います」

 ロッカールームには「うん、うん」とうなずくチームメートの姿があった。この日を境に、カンブールは監督に対して選手が思ったことを言えるようになり、チーム内の雰囲気も好転したという。

 オランダ2部リーグは記者室や観客席にいるだけで、思わぬ情報が入ってくるリーグだ。

<カンブールと際の契約は今季いっぱいだが、1年延長のオプションが付いており、すでにクラブはオプション行使を際サイドに告げている。だが、“カンブールが1部に昇格しなかったら、選手側がオプションを破棄できる”という特別条項も付いている。際にはオランダ1部、2部リーグのクラブから多くの引き合いが来ている。一方、ヘンク・デ・ヨング(現デ・フラーフスハップ監督)が来季の監督としてカンブールに戻ってくるのは魅力的。際にとってカンブールに残るのも悪くない>

――この話、本当? そう私は際に訪ねてみたが、彼は黙して笑うだけだ。きっと、本当なのだろう。

Photos: Toru Nakata, Getty Images

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中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

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