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「馬鹿げている」ほど強い。対戦相手が証言するアーセナル戦の難しさとは

2024.04.13

 今季プレミアリーグとUEFAチャンピオンズリーグで栄冠を目指して邁進するアーセナル。彼らは「強い」が、一体何が強いのだろうか?

 昨季、アーセナルは248日間もプレミアリーグで首位に立ちながら、最終的に失速してマンチェスター・シティのリーグ3連覇を許してしまった。しかし、彼らはあれから積極的な補強を行って一回りも二回りも成長し、今季は無敗優勝した2003-04シーズン以来のリーグ制覇に近づいている。ここまで31試合を戦って、最多得点と最少失点を誇るチームの強さの秘密はどこにあるのだろうか? 今季対戦した相手チームのスタッフがスポーツ専門サイト『The Athletic』でアーセナルの「強さ」について言及しているので紹介しよう。

「まるで守備vs攻撃の練習のよう」

 匿名を条件に、プレミアリーグの現役コーチやスタッフが本音を漏らしている。あるコーチは「打開策が思いつかなかった」と明かす。通常の試合では、どんな苦しい状況でも試合中にスタッフがいくつか打開策を思いつくそうだが、アーセナル戦では「ピッチ脇にいて、なかなか打開策が思いつかなかった」という。一方的に攻められる展開となり、「まるで守備vs攻撃の練習ようだった。アーセナルは流れるような攻撃を続け、DFベン・ホワイトが何度も攻めてきて前半だけで100回ほどオーバーラップの対応をさせられた」と振り返る。

 彼のチームはマンツーマンで対応することにしたという。「マンツーマンに変えてカオス状態を生み出すことができて、少しはマシになった。試合が組織立った状況では、常にアーセナルに支配されている印象だったからね。今季、最も厳しい試合だった。」

 攻撃もさることながら、アーセナルの守備組織に感心させられたそうで、特にMFマルティン・ウーデゴールの献身性を称える。「ボールを失った後のリアクションが非常に素早い。彼らには贅沢な選手がいない。攻撃陣のウーデゴールでさえ、恐ろしいほど守備意識が高い。彼は左サイドのセンターバックにプレスをかけ続ける。突破されたらすぐに中盤に戻る。それを繰り返すんだ。プレスが失敗しても、がっかりせず、すぐに切り替えられるんだ」

 今季CLのグループステージ第1節でアーセナルに0-4の大敗を喫したPSVのピーター・ボス監督も守備力に驚かされたそうだ。パフォーマンス的には手応えがあったそうだが、アーセナルのボックス付近まで攻め上がると、そこで壁にぶつかったという。「自分たちと何が違うのか、私はコーチとともにアーセナルを研究した」とボス監督は明かしていた。辿り着いた答えは帰陣の速さだという。PSVはボールロスト後に6、7人がボールより後ろに戻るが、アーセナルは10~11名が即座に戻っていたそうだ。それを選手たちに説明して自分たちでも取り入れるようになったPSVは、エールディビジで首位を独走している。

「彼らはすべての局面で用意周到」

 今季加入したMFデクラン・ライスを称えるプレミアリーグのコーチもいる。「うちの選手たちにはアーセナルのプレスのかけ方、そしてライスの知的な動きを見せるようにしている。ボールがない時のライスの仕事だ。前に出てプレスをかけたり、複数の敵選手の間に構えたり、常にうまくギャップを埋めている」

 匿名の分析官は、ハイプレスをかけるチームへの通常の有効策が効かないと説明する。「マンツーマンで対応して、ロングボールなどでゲームを広げることができるが、そういう展開もアーセナルは得意としている。なぜならDFラインに“モンスターたち”がいるからね。スピードがあって最終ラインの背後のスペースをカバーできるのさ」

 2023年12月に解任されるまでシェフィールド・ユナイテッドを率いていたポール・ヘッキングボトム監督は、0-5の大敗に終わった10月の対戦について振り返り、ミケル・アルテタ監督を称える。「彼は試合におけるすべての局面で用意周到だ。相手チームが流れを止めて試合を遅らせようとすれば文句を言うが、自分たちで同じような戦略を取ることも辞さない。そういう抜け目なさをチームにもたらした。アーセナルにはエゴがなく、1、2秒で即座にスペースを消す。上位勢の中で最もコンパクトなチームだ」

 厄介なのは試合中だけではない。アーセナル戦の準備は普段よりも骨が折れるという。とある分析官は、アーセナル戦では通常の3倍ほどセットプレー対応に時間を割くという。さらにオレクサンドル・ジンチェンコが偽SBとして中に入った際に、誰が対応すべきかといった戦術も考えないといけない。昨季のアーセナル戦では、センターバック2枚にプレスをかけてMFトーマス・パーティのところでボール奪取を試みたが、今季はそれが通用しない。そのためDFガブリエウに狙いを絞ってボールハントを試みたそうだが、今季のアーセナルのボール保持力は「馬鹿げている」と漏らしてしまうほど素晴らしいそうだ。

 ルートンのロブ・エドワーズ監督はアーセナルの対応力を絶賛する。リバプール、マンチェスターCと熾烈な優勝争いを繰り広げるチームについて「3チームの中で、どんな戦い方もできるのはアーセナルだ。フィジカル勝負、サッカー勝負、走り合い、どんな戦いにも彼らは対応できる。彼らには弱点がない」と太鼓判を押す。

 果たして、対戦相手を苦しめ続けているアーセナルは20年ぶりの栄冠を手にできるのか。「馬鹿げている」ほど強いアーセナルに注目したい。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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