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アーセナルで再会…ライスとエンケティアがチェルシーから放出された日

2023.07.23

 先週、アーセナルファンの間で一枚の写真が話題となった。14歳の時に離ればなれになった元チームメイトが、再会を祝って練習中に談笑していたのである。

 10年ぶりにチームメイトなった2人というのは、クラブの移籍金記録となる1億ポンドで今夏ウェストハムから加入したMFデクラン・ライスと、生え抜きのFWエディ・エンケティアである。彼らは2人ともチェルシーのアカデミーで切磋琢磨しながらトップチーム昇格を目指すも、10代にして放出されて別々の道を歩んできた。

 そんな彼らが10年ぶりにチームメイトとなり、プレシーズンのアメリカツアーの練習中に、並んでエアロバイクを漕ぎながら談笑していたのだ。若くして挫折を乗り越えた2人が、今度はアーセナルのトップチームで再会したのである。感動の再会について、多くのメディアがFWエンケティアのコメントを紹介した。「僕らは(チェルシーの)U-14チームで同じ日に放出されたんだ」

チェルシーの下部組織から放出される

 それから10年の歳月を経て、24歳となった彼らは再び同じチームでプレーする。感動ストーリーなのだが、どうしても気になることがある。本当に同じ日に放出されたのか。それどころか、本当に「同じ年」に放出されたのだろうか。

 それでは、検証するために2人のキャリアを振り返ってみよう。まずはライスである。7歳にしてチェルシーの下部組織に加入したライスは、同学年で大親友のMFメイソン・マウント(今季からマンチェスター・ユナイテッド所属)と共にアカデミーで腕を磨くも、14歳の2013年に放出された。

 過去のインタビューでライスは「正直、放出された理由は分からない」と語っているが、思い当たる節もあるようだ。当時、ライスは成長期を迎えて急激に身長が伸びたという。そのせいで体のバランスが崩れ、走り方が変になったのだ。「テクニック面は問題なかったけど、ランニング面で苦労した」と明かしている。

 いずれにせよ、14歳にして憧れのクラブから戦力外を言い渡されたライスは「友達にどうやって伝えればいいんだろう?」と肩を落としたというが、放出の報せを受けた日の夜にはフラムの練習に参加したという。そして翌日にはウェストハムの練習に参加して「新たなホーム」を見つけたのだ。そこから順風満帆……というわけではなく、16歳の時に今度はウェストハムから放出される可能性もあったという。

 コーチ陣の評価は五分五分だったそうだが、2歳上のカテゴリーであるU-18チームの試合に出場してCBとして活躍し、特待生契約を勝ち取った。そこからは順調だった。トップチームに上り詰めると、昨季はイングランド代表としてFIFAワールドカップで活躍したほか、ウェストハムをヨーロッパ・カンファレンスリーグ制覇に導き、今夏アーセナルに鳴り物入りで移籍したのである。

 だからライスは10年前の2013年、14歳でチェルシーから放出されたことになる。問題はエンケティアである。ライスと同学年のエンケティアは、子どもの頃からアーセナルファンだったというが、9歳の頃にスカウトの目に留まりチェルシーの下部組織に入団。しかし、体が小さかったエンケティアは放出の憂き目に遭う。先週のエンケティアのコメントを信じるなら、彼もライスと同様に2013年に放出されたことになるのだが、どうやらそうではないようだ。

チームメイトだったのは事実

 彼は2015年にアーセナルに加入しているのだが、その頃のクラブHPのインタビューで「チェルシーから今季の練習生契約を結べないと告げられた2日後にアーセナルが連絡をくれた」と語っているのだ。そのためエンケティアがチェルシーから放出されたのはライスと同じ2013年ではなく、2年後の2015年となる。

 当時のエンケティアは体が小さかったためチェルシーに見限られたという。その情報を知ったアーセナルは当時ユースチームに所属していた同世代のMFジョー・ウィロック(現ニューカッスル)を呼んでエンケティアの印象を聞いたという。するとウィロックは「彼が放出されたの? 彼はすごい。いつも僕らとの試合でゴールを決めていたよ」とコーチ陣に説明したという。

 その証言もあり、エンケティアはアーセナルの練習に参加した1週間後に特待生契約を勝ち取った。そう考えると、やはりエンケティアとライスが放出された時期は異なるようだ。それでも彼らがチェルシーの下部組織でチームメイトだったことは間違いない。

 ガーナ人の両親を持つエンケティアはチェルシー時代の当時、アウェイゲームに行く時に“ジョロフライス(ピラフに似たアフリカ料理)”をチームバスに持ち込んでチームメイトにお裾分けしたという。「みんな大喜びだった」とライスも過去のインタビューで振り返っている。

 “お米”で盛り上がった思い出を持つライスとエンケティア。今季のアーセナルでは、同じ挫折を知る元チェルシーの旧友コンビに注目したい。


Photo: Getty Images

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アーセナルウェストハムエディ・エンケティアチェルシーデクラン・ライス

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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