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まさにSNS時代を象徴。デジタルクリエイター主催の盛大な表彰式

2023.07.05

 先週、リオデジャネイロでサッカーの表彰式が行われた。会場は伝統ある5つ星ホテルのコパカバーナパラセ。格調高く、気品のある建物は世界的にも有名で、海外から来るアーティストなどにも人気が高い。

 表彰式は、昨年新たに創設されたばかりの「FUI CLEAR???賞」というもので、今年からはブラジルサッカー連盟が後援についた。そのシーズンの海外サッカーと、前年のブラジル国内サッカーで活躍した選手たちに贈られる。

豪華メンバーが顔をそろえる

 賞は国内・海外それぞれのベストイレブンや新人、ビューティフルゴール、サポーター、審判、実況・解説など多岐に渡り、その他にも様々な特別賞がある。記録や数字による賞以外は、元選手や監督、ジャーナリスト、インフルエンサーらの投票で決まり、審査員にはジーコやロベルト・カルロス、チッチ、カカーといった大物が名を連ねた。

 ヨーロッパのシーズンオフを生かした時期の開催であるため、選手たちが家族旅行などに出かけていたり、国内サッカーは試合が立て込んでいたりということで、受賞者全員が出席できたわけではない。

 それでも、ネイマールブラジル代表の歴代得点王とアシスト王)、チアゴ・シウバ(W杯4大会出場かつ3大会でキャプテンを務めた)、カフー(ブラジル代表歴代最高試合出場数)といったビッグネームが顔をそろえた。

 ネイマールとチアゴ・シウバが一緒にステージに立った時には、代表合宿中、2人が戦術的なことで議論を始め、加熱し過ぎてチッチに止めに入られたこともある、といったエピソードを披露するなど、和やかな雰囲気となった。

SNS時代が生んだ成功者

 この賞を創設したのは、デジタルクリエイターのエドゥアルド・センブラーノ氏だ。2017年からインスタグラムで、2018年からはYouTubeでも、「FUI CLEAR???」というアカウントを持ち、発信している。

中央にいるのがこの表彰式を主催したエドゥアルド・センブラーノ氏(Photo: FUI CLEAR??? official)

 ピッチの内外でのサッカーの旬の話題について彼の意見を語る日もあれば、選手のインタビューをアップする日もある。2019年にネイマールの独占インタビューを実現したことでブレイクし、それをきっかけに様々なスター選手と繋がりを作り、一躍サッカー界の有名人となった。

 自身の肩書を「スポーツコメンテーター兼実業家」としている彼は、その後、元ブラジル最大手テレビ局の人気リポーターと組んで新たなYouTubeチャンネルも運営し、ゲストを招いてのトークも行うことで、さらに知名度を上げた。

 取材現場で顔を合わせた時などに彼と話すと「2019年のコパ・アメリカで初めてブラジル代表の試合後のインタビューエリアに入った時、どこの誰とも知れない存在だった僕が声をかけて、足を止めてくれたのがリシャーリソンだった。」と素朴な思い出話が出てくる。そのわずか3年後に、ブラジル随一のホテルで表彰式を開催していることを考えると、まさにSNS時代が生んだ成功者だ。

 ただ、いつの時代もやはり、大事なのは“人”。チアゴ・シウバと話すと、彼について「カリスマ性がある上に、親しみやすく、とても真面目な人間だから、僕も応援している。この表彰式が今後何年も続き、さらに成長すると良いね」と語り、応援する意味もあっての出席であることが伺える。

「この表彰式が今後何年も続くといい」と語るチアゴ・シウバ(Photo: Kiyomi Fujiwara)

デジタルクリエイターと大手メディアが群雄割拠

 ちなみに、この表彰式のメインスポンサーは、21歳のデジタルクリエイターが立ち上げたスポーツ・ベッティング会社だ。「ルーヴァ・ジ・ぺドレイロ」というニックネームを持つ彼は、TikTokでスター選手のシュートやドリブルなどを真似るビデオをアップするところから始まり、2年経った今では、ブラジルのスポーツ・インフルエンサーとしては、インスタグラムで2033万人という最高のフォロワーを有する。

 ブラジル北東部の田舎町で、豊かとは言えない家庭に生まれ育ち、土と雑草の空き地でそうしたビデオを撮った。そこに彼独特のユーモラスな雰囲気が加わったことで、成功を夢見る若者たちの心を捉え、その後、似たような生い立ちを持つスター選手たちに可愛がられる存在となった。

 ブラジルでは、サッカーの試合の中継にもデジタルクリエイターが大きな存在感を発揮している。人気ストリーマーのカジミーロ・ミゲウ氏には、パートナーシップを組む企業が集まったため、昨年、スポーツイベントを中継するためのYouTubeとTwitchのチャンネルを立ち上げ、W杯カタール大会やクラブW杯まで、その一部を公式的に中継した。

 そんな中、先日、大手メディアの『グローボ』グループとブラジルサッカー連盟が、2026年までブラジル代表の親善試合と南米予選ホームゲームについて、地上波、CS、インターネットサイト、ストリーミングなどの独占中継契約を結んだと発表した。テレビを中心とする大手メディアも頑張っている。

 サッカーメディアの時代の流れは激しく、かつ主流と支流がわからなくなるほど群雄割拠だ。


Photo: FUI CLEAR??? official, Kiyomi Fujiwara

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カフーチアゴ・シウバネイマール

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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