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静かなる主将チアゴ・シウバ、8年間のパリ生活に別れを告げる

2020.07.08

 8年間キャプテンとしてチームを引っ張ってきたチアゴ・シウバが、パリ・サンジェルマンを去る。

 契約は2020年6月30日までだったが、クラブ側は延長を提示せず、2019-20シーズンの残り試合、リーグカップとフランスカップの決勝戦にUEFAチャンピオンズリーグを終えるべく、8月30日までの2カ月間の延長で合意した。

伝説のホテルでお披露目

 3年半在籍したミランを離れて2012年夏にPSGに来た時、シウバは27歳で、選手として脂の乗った時期だった。

 ナセル・アル・ケライフィ会長は「世界ナンバーワンのCBがパリに来た」と紹介し、お披露目に用意された入団会見の場所は、なんとホテル・ドゥ・クリヨン。かのマリー・アントワネットも愛し、いまでも世界中の要人が定宿にする伝説のホテルだ。

 こんな機会でもなければなかなか入ることはないのでありがたかったが、98年のW杯の後、フランス代表の戦士たちが優勝カップを掲げてファンたちに手を振った、あの有名なバルコニーにシウバを立たせたことからも、クラブの本気が見て取れた。

 初年度からキャプテンを任され、リーダーとしてチームをけん引した8シーズンで、モナコに奪われた16-17シーズンを除く7シーズンでリーグ優勝。リーグカップ5回、フランスカップ4回の優勝も経験している。未発表の今季とケガがちだった昨シーズンを除く6年間で年間ベストイレブンにも選出と、獲得したタイトルの数を見ても、シウバはPSGで充実した選手生活を送ったと言える。

 ピッチ上でのパフォーマンスも、リーグ1ではまぎれもなくナンバー1だった。特に印象的だったのは、危機察知能力の高さと、その後の展開を考えたクリアのうまさだ。

 そこまで俊足ではないのに、読みの良さで相手の突発的なカウンター攻撃も先回りしてブロックできる。そのブロックの仕方がまた絶妙で、反射的に動いているようでも、クリアしたボールから味方が即、攻撃に転じられるよう計算している。そんな瞬間的な好判断や、気の利いたプレーは秀逸だった。

メンタルの弱さを指摘されることも

 その一方で、指摘が絶えなかったのはメンタル面だ。カップ戦の準々決勝で勝敗のかかったPKを外したこともあったので、ナーバスになるタイプではあるのかもしれない。

 16-17シーズンのCLラウンド16でバルセロナに大逆転を食らった「カンプノウの悲劇」でも、2年後のマンチェスター・ユナイテッド戦での逆転負けの時も、「メンタルの弱さはキャプテンにふさわしくない」と、敗因の矛先はシウバに向けられた。

 外から見た者によるこの類の指摘は「推測」でしかない。ただ、明らかに精神的なダメージを受けていると感じたのは、2014年のW杯の後、14-15シーズンの前半戦だ。

 ブラジルが自国開催のW杯準決勝でドイツに7-1というとんでもないスコアで敗れたあの大会である。

 シウバはセレソンのキャプテンだったが、そのドイツ戦は累積警告でベンチからゲームを見守っていた。何もできずに見ているしかなかったこと、自国のサポーターの期待を裏切ってしまったことは、彼の心を苦しめた。そして、そんな傷付いた心と体を癒せる十分な休暇もないまま新シーズンを迎えると、開幕直後の練習試合でハムストリングを痛めて約2カ月間離脱するはめになった。

 チーム全体の士気も下がり、エンジンがかかりだしたのは冬頃から。第30節でようやく首位に立ち、なんとか優勝をものにした。

8年間を締めくくる戦いへ

 「彼はどんなタイプのリーダーなのだろう?」という疑問は確かにあった。

 取材エリアでも聞き取れないくらい小さい声で話すし、本誌のインタビューで話す機会があった時も、物静かでおとなしく、仲間を鼓舞して引っ張っていくタイプではなさそうだった。

本誌インタビューに応じてくれた時も、物静かでおとなしい印象だったという(Photo: Yukiko Ogawa)

 その後、同胞で元DFのマクスウェルが、「チアゴはみんながブラジル人に抱くイメージのようなタイプじゃない。夜遊びにもまったく興味がないファミリーマンだ。だけど、いつも真摯に取り組む実直さで、周りを引っ張るんだ。キャプテンにふさわしい男だよ」と言うのを聞いて、「背中で引っ張るタイプなんだな」と納得できた。

 今シーズンは何度か負傷欠場があったものの、出場した試合では統率力を発揮していたから、9月で36歳を迎える彼自身、契約の延長を期待していたように思う。

 「あと2年PSGでプレーし、カタールW杯をキャリアのクライマックスに」

 “シウバに近い人物の証言”として、彼がそんな青写真を描いていたと報じるメディアもある。家族ともどもフランス国籍も取得していた。

 やはり契約満了と同時に「お疲れ様」を言い渡されたエディンソン・カバーニは、2カ月間の契約延長には応じなかった。クラブの歴代最多得点者としては、ロックダウン前の試合が最後、というのは何とも中途半端で悲しいエンディングだが、この間にケガでもしたら次の契約に障害が出る、という不安も当然あるだろう。

 シウバは19-20シーズンの残り試合をすべて戦って、パリでの8年間の締めくくりとするつもりだ。

 カタール体制になってからの初優勝からずっとチームを支え、7度のリーグ制覇に貢献してきた彼やカバーニが去ることで、カタール時代のPSGは、来季から新たなフェーズに突入することになるだろう。

シウバの今後の成功を祈りつつ。


Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images

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エディンソン・カバーニチアゴ・シウバパリ・サンジェルマンマクスウェル

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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