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「リバプールは無敗で優勝を逃す」と予想した英国の名物解説者が勇退

2022.05.23

 英国の名物解説者が、今季いっぱいで一線を退くという。

 プレミアリーグのファンの間ではお馴染みだと思うが、『BBC』のホームページでは毎週のようにプレミアリーグの結果予想が掲載される。過去20年間、そのコーナーを担当してきた元アイルランド代表DFマーク・ローレンソン(64歳)が解説業を退くという。

20年以上続いた人気コーナー

 ローレンソンは、現役時代にCBとして1980年代のリバプールの黄金期を支えた名プレーヤーだ。5度のリーグ優勝に貢献したほか、1984年にはUEFAチャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)制覇も経験。アイルランド代表としても39試合に出場した。

 “ロウロ”の愛称で親しまれ、現役引退後はフットボールを伝える側に回り、『BBC』などで解説者として活躍してきた。そして2000年から同局のウェブサイトでプレミアリーグの結果予想のコーナーを担当してきたのだ。

 アーノルド・シュワルツェネッガーなど様々な著名人をゲストに迎え、これまで8000試合以上を予想してきたという。最高閲覧数は120万回という人気コーナーだったが、ロウロの引退とともに今季いっぱいで終了する。

『BBC』のウェブサイトで20年以上に渡って結果予想をしてきた“ロウロ”が今季で勇退する

 最終回となる“ロウロの予想”で、彼はこれまでの思い出を振り返った。最も忘れられないのはファンとのやり取りだという。数年前の2月、底冷えするアストンビラの本拠地で解説の仕事を終えてスタジアムを去る時だった。ロウロは知らない人に声をかけられたという。とても丁寧に「Mr.ローレンソンですよね」と声をかけられ、「あなたの予想をいつも見ています。あまり当たりませんよね?」と言われたそうだ。

 するとロウロは「確かにね。でも、もし私が試合結果を正確に予想できるのなら、こんなところで凍えそうになっていないよ。今頃は(カリブ海の)バルバドスにいるよ!」と返したそうだ。確かに、本当に当たるのならサッカーくじで億万長者になっているはずだ。

ウェストハムが苦言

 “ロウロの予想”はあくまで娯楽だった。参考にするファンもいたかもしれないが、ユーモアに富んだ彼の解説スタイルと同じで、エンターテインメントの一環として楽しむファンの方が多かったはずだ。だから予想の精度を期待してはいけないのだが、それでも彼の予想に不満を抱くクラブがあったという。

 それが2015-16シーズンのウェストハムだ。当時、ウェストハムは好調で、2016年1月の段階で6位につけていたという。しかし、毎節のロウロの予想に基づいた順位表を見ると、彼らは19位に沈んでいたのだ。そして迎えた第21節のボーンマス戦でも、ロウロがウェストハムの「1-2」の敗戦を予想すると、ウェストハムがクラブ公式ツイッターに“ロウロの予想”のリンクを貼って「何も言えない…」と書き込んだ。

 結局、試合は3-1でウェストハムが勝利。試合終盤、ウェストハムのサポーターは「ロウロ、スコアを言ってみろ♪」とチャントを歌ったという。

古巣の“無敗記録”を予想?

 ロウロは決してウェストハムを敵視していたわけではなく、「地元のプレストンと契約する前に、ウェストハムから学生契約のオファーを受けて、加入も考えたほどだ」と弁明した。だからウェストハムの予想が外れたことに関しては単なる偶然だが、彼が常に公平だったかというと、そうでもない。プレミアリーグの“連続無敗記録”を打ち立てたのもロウロなのだ。

 ご存じの通り、プレミアの無敗記録はアーセナルの“インビンシブルズ”が達成した2003年~2004年にかけての49試合だ。だがロウロによると、古巣リバプールが「159試合無敗」の記録を打ち立てているはずなのだ。“古巣愛”を隠さないロウロは、2016年5月から2020年11月まで、一度もリバプールの敗戦を予想しなかったという(実際はその間に16敗した)。

 それについてロウロは「でも、実際にリバプールはそれ以降の試合でほとんど負けていないでしょ。だから私は凄いんだよ」と言ってみせる。

 今季も、ロウロは最後までリバプールの敗戦を予想しなかった。だが、彼の予想でも愛するリバプールは優勝できない。ロウロはマンチェスター・シティも無敗を維持し、リバプールよりも好成績でシーズンを終えることを予想したのだ。

 常に笑顔とユーモアを忘れず、好感が持てる丁寧で優しい口調。ロウロの解説は、フットボールファンの心に永遠に刻まれたはずだ。


Photos: Getty Images

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ウェストハムマーク・ローレンソンマンチェスター・シティリバプール

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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