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3回目接種がほぼ義務化。フランスのコロナ事情とサッカー界への影響

2022.01.15

 新型コロナウイルスのオミクロン株が世界的に大流行している。フランスでは、1月13日の新規感染者数は30万5322人。前日より5万6000人ほど減少したとのことだが、今年に入ってからは連日、パンデミック始まって以来の高い数字を記録していた。

 まあ、たとえば学校のクラス内で1人陽性者が出た等々によって濃厚接触者と判断され場合、4日間に3回のPCR検査を受けることになっているから、単純に検査数がものすごく多い、というのもある。

 ここ最近はどの薬局も、検査待ちの人で行列ができている。学童を持つ働く親御さんなどは、この検査に連れて行くのに相当、苦労していると聞く。

メッシや川島も陽性に

 リーグ1でも感染者が続出している。まだチーム内に多数の感染者が出て試合延期、という事態には至っていないが、年頭にコロナ陽性が報じられたパリ・サンジェルマンのリオネル・メッシは、1月12日時点でまだトレーニングに復帰していない。

 そしてその1月12日には、ストラスブールの川島永嗣の陽性も明らかになった。

 ストラスブールでは第1GKのマッツ・セルスがその数日前から陽性となり、1月9日に行われた第20節のメス戦では、昨年12月のフランスカップ戦(vsヴァランシエンヌ、1-0で勝利)以来、川島がゴールを守り、古巣相手に0-2の勝利に貢献したところだった。

 GK2人がともに陽性で離脱となってしまったわけだが、現在フランスでは、陽性となった場合、ワクチン接種をしていれば(選手は通常は接種していることが前提)、陽性の診断が出てから5日目に再テストを受け、それが陰性であれば隔離終了となる。

 5日目の検査が陽性だった場合は7日目まで隔離し、その時点で特に症状がなければ隔離終了だ。ワクチン未接種の場合は、5日目の検査が7日目、7日目の隔離終了が10日目になる。

 ということで、陽性になっても最短5日の隔離で済むことは済むのだが、トップアスリートの場合、その間に落ちた体力など、コンディションを取り戻すのに時間を要する。

 今季開幕時からフルキャパシティに戻っていたスポーツ施設の観客数も、再び室内2000人、屋外5000人に制限されることになった。マスクは必須。日本のような「声出し禁止ルール」はないが、飲食は禁止なので、ビール片手に観戦を楽しむのは当分お預けとなる。

 しかしそれ以上に厳しいハードルとなりそうなのが、新たに導入される「ワクチン(ほぼ)義務化」だ。

パスが失効する可能性も

 フランスではすでに昨年から「パス・サニテール」と呼ばれる衛生パスポートが発行されている。携帯電話にダウンロードしたアプリ、あるいは紙に印刷したQRコードを表示するもので、カフェやレストラン、スタジアム、美術館、映画館、図書館、長距離電車やバスといった、人の集まる場所に行く時は提示が義務付けられている。

 これまではワクチン接種を望まない場合は、24時間以内(最初は72時間だったがワクチンを促すべくだんだん縮小)にPCR検査をすることで仮パスが取得できていたから、うっかり携帯電話を忘れてしまった、といった場合でも、近くの薬局に駆け込んで検査を受けることで対応できた。

 スタジアムの横にも検査場が設けられていて、その場で検査し、結果が出るまで15分くらい待ってから中に入る、ということが可能だった。

スタジアム前に設置された簡易のPCR検査場(Photo: Yukiko Ogawa)

 しかし1月15日以降、この「衛生パス」は「ワクチンパスポート」と名前が変わることになり、ワクチンを接種した者だけが、公共の場に行ける免罪符であるこのパスを持てることになった。

 さらにオミクロンの波がひたひたと押し寄せた昨年末、政府は3回目の「ブースター接種」を促すべく、2回目のワクチン接種完了から7カ月以内に3回目接種を完了していない場合、パスを無効にするという新たな策を打ち出した。

 ただ、2回目までは、現時点でフランスの全人口の77%が接種しているが、3回目には拒否反応を示す人が周りにも多い。

 最近、陽性になっている人はほとんどワクチン接種済みの人で、「せっかく打ってもかかるんじゃん」というガッカリ感や「この後4回、5回、となってキリがない。やがて自分の免疫力が崩壊する」と危惧する人、すでに過去の接種で副反応に苦しんだ人など「もう3回目は嫌」という人が少なくない。

 つい先日も、3回目を接種していたオリビエ・ベラン保健相が感染したことを発表したばかりで、保健相みずからが身を持って証明してしまった感じなのだが、それでも「接種していることで症状が軽く済む」=「医療機関への負担を軽減できる」と、政府は賢明にアピールしている。

現行のパスでは不正が横行

 現実的には、仕事や置かれた状況によって3回目を打たざるを得ない人もいるわけで、そうなると、これまでもすでに存在していた「偽造パス」が増えるのでは、という懸念も生じている。

 そもそもこのパス、QRコードのみを端末なり他の携帯で読み取り、OKなら緑のチェックマーク、駄目なら赤い×が表示されるという仕組みで、パスに書かれている個人名や生年月日といった情報を合わせてじっくりチェックすることはない。

パルク・デ・プランスの入り口設置された衛生パス読み取り機(Photo: Yukiko Ogawa)

 イタリアでも一時、身分証明書を同時に提示すべきではないかと議論になったらしいが、「そこは個人の良心に委ねる」ということで、身分証明書の提示はしなくてよくなったらしい。

 つまり、他人のQRコードを持っていても深く追求される可能性は低いのだ。

 フランスではすでに80万件ほど偽造の例が報告されているそうだ。初犯だと135ユーロ(約1万6000円)の罰金、それが多くなると50万円ほど、最悪は刑務所送りにもなるらしく、偽物を持っていた側に加え、それを見過ごしてしまった施設側にも営業停止などの重い処分が下される。ワクチンパスはよりチェックもシステムも厳しくなるそうだから、抜け道はなくなるかもしれないが。

未接種ならば今季は終了

 1月14日の『レキップ』電子版は、今週末から新たな策が施行されるのに合わせて、選手やスタッフの間にワクチン接種漏れがないか、あらためてチェックすることになるだろうと報じている。

 選手や職員へのワクチン接種はクラブドクター監修の下、クラブで一斉に行うことになっているが、選手によってはかかりつけのドクターがいて個人的に接種したと報告されていたり、移籍してきた選手についてはうやむやになっていたりと、これまでしっかりチェックされていなかったという。

 もし、選手がワクチン接種をしていなかった場合は、接種を済ませるまで出場資格がなくなり、1回目と2回目の間は約1カ月間、さらに3回目は数カ月間、待たなければならないから、ほぼ今季は終了だろう。かなりシビアな問題だ。

 これまではまだ選択の自由があったが、3回目のブースターが必須のワクチンパスに移行後は、拒否するとなったら行動はかなり制限される。自宅の他に行けるのは、まだパスの提示がいらないスーパーや小売店と公園くらいか。

 周りの人たちは「もう風邪と同じと思ったほうがいい」という感じで、1日30万人などの感染者数にも動じていない様子だ。

 そうして「with コロナ」が日常となるのを待ちながら、あと1カ月で無効になるワクチンパスを眺める今日この頃である。


Photos: Yukiko Ogawa, Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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