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王座奪還を狙うフットサルブラジル代表。かつてない本気度の理由とは?

2021.09.16

 リトアニアで開催されている第9回フットサル・ワールドカップでの“王国”の本気度がちょっと怖い。

 サッカー王国ブラジルは、フットサルに関しても絶対君主だ。フットサルW杯では全9大会に出場しており、過去8大会のうち5回も頂点に立った。第2回大会から今大会まで、PK戦での敗戦を除けば敗れたのは2000年大会のスペインとの決勝戦(3-4)だけ。W杯での直近53試合で1度しか負けていないのだ。

 しかし前回大会、3連覇を目指した王国は屈辱を味わう羽目になった。決勝トーナメント1回戦でPK戦の末にイランに敗れてベスト16で脱落し、W杯で初めて3位以内を逃したのである。試合後にはフットサル界の王様だったファルカンも代表を引退し、ブラジルはゼロからの王国再建を迫られたのだ。

 この非常事態を受け、ブラジル・フットサル連盟は恥も外聞もかなぐり捨て、クラブチームとの監督兼任を認めて国内クラブで結果を残していたマルキーニョス・シャビエルを新指揮官として迎えた。そして彼の下で“新生セレソン”を築くことにしたのだ。

「全選手が主人公になる」

 だが、引退したファルカンは唯一無二の存在であり、彼の代わりなどいなかった。そのためマルキーニョス・シャビエルは根本的な見直しを図り、1人のスター選手に頼るのではなく「全選手が主人公になる」ことを求めた。無論、今のブラジル代表にスター選手がいないわけではない。

フットサル界の英雄・ファルカンの引退は痛手だったが、メンバー全員でその穴を埋めた

 今大会のベトナムとの初戦でいきなり4ゴールを叩き出したフェハオンは、現フットサル界のNo.1プレーヤーである。2年連続で世界最優秀選手に選ばれたバルセロナ所属のピヴォ(FW)は、抜群のフィジカルで敵を押さえ付けてゴールを量産する。それでいて「4得点よりも監督の指示通りに任務を遂行できてうれしい」と語るほどチーム意識が高い。

 さらに次世代のセレソンを担う22歳のレオジーニョもいる。類稀なテクニックと独創性で観客を魅了する彼は、ベトナム戦ではオーバーヘッドを試み、大会前の親善試合ではヒールリフトで会場を沸かせて「W杯も盛り上げたい」と宣言していた。マルキーニョス・シャビエル監督の規律が浸透するチームの中で、自由を与えられている大胆不敵なチーム最年少プレーヤーだ。

 そんな圧倒的なキャラクター集団をまとめるのが、キャプテンにして数少ない2012年大会の優勝メンバーでもある37歳のホドリゴだ。国内の名門マグナスでも主将を任されている同選手は、過去にチームバスが故障して止まってしまった際、近くの車を止めて「強盗ではない」と諭してヒッチハイクでチーム全員を練習場まで送り届けたという逸話があるくらい、キャプテンシーに秀でている。

 そしてチームを引き締めるのはマルキーニョス・シャビエル監督だ。ベトナム戦で大量リードを奪いながらも、タイムアウトになれば選手たちに発破をかけ、9-1で勝利した試合後には「改善の余地はあるのでもっと自分たちのプレーを磨く。点差が開くと無意識のうちにリラックスしてしまうものだが、それは絶対に許さない。大舞台ではそれが致命傷になるんだ」とまったく浮かれる様子がなかった。

CBFの運営下で王座奪回を目指す

 今回のブラジルは、怖いくらいに「王座奪回」の使命感に燃えている。そして、そのための入念な準備も行ってきた。今大会のブラジル代表の胸のエンブレムは、以前までとは違う。これまでブラジルのフットサル代表チームは、国内のフットサル大会を取り仕切るブラジル・フットサル連盟(CBFS)の管轄下にあった。だが今年4月から、11人制のA代表チームなどを取り仕切るブラジルサッカー連盟(CBF)がフットサル代表も運営するようになったのだ。

 巨大スポンサーが背後につくCBFが、フットサル代表チームの強化に本腰を入れ始めたわけだ。おかげで8月には、ブラジルのサッカー代表の専用施設「グランジャ・コマリー」を初めてフットサル代表が使用できた。練習ピッチだけでなく、一流ホテル並みの宿舎やプールなどが完備された施設に、レオジーニョは「ネイマールが泊まっていた部屋を使えたんだ! まるでディズニーランドのような施設だ」と感動を口にした。

 さらに、今年途中まで国内クラブを率いていたパウロ・カルドーソ監督をアシスタントコーチとして迎え入れた。同氏はセットプレーの戦術に定評があり、1点を争うような試合でとっておきの得点パターンを用意しているはずだ。

 こうして“王国”は、2大会ぶりの王座奪還に向けて万全の体制でリトアニアに乗り込んできた。今大会にはスペインやロシア、そして宿敵アルゼンチンもいるのだが、初戦のベトナム戦を見る限りブラジルの“実力”と“本気度”は頭一つ抜け出ているように思う。

 目の色とエンブレムが変わった“王国”の再建に注目したい。


Photos: Getty Images

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ファルカンブラジル代表ワールドカップ

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。