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今冬、植田直通が期限付き移籍。ニームのクラブと街を紹介する

2021.01.26

 日本代表CB植田直通が、ニームに移籍した。ベルギーのセルクル・ブルッヘから今季末までの期限付きだが、買い取りオプションも付いている。セルクル・ブルッヘはリーグ1のモナコの組織下にあるクラブだから、今回のフランスへの移籍はそのあたりのリンクもあったのかもしれない。

 第20節を終えた時点で、ニームは19位と降格圏内。最下位のロリアンとは3ポイント差だが、彼らは消化試合が1つ少ないから、かなりきわどい位置にいる。そして1月24日にはそのロリアンとの直接対決が行われるはずだったが、ロリアン側に多数の新型コロナウイルス陽性者が出たため、延期になった。

過去にカントナやブランが所属

 街の紋章に描かれたワニがシンボルで、“クロコ”の愛称で呼ばれるニームの全盛期は1950年代後半から1970年代あたり。トップリーグでの優勝はないが、準優勝が4回。UEFAヨーロッパリーグの前身であるUEFAカップ(1971-72シーズン、1972-73シーズン)や、カップ・ウィナーズカップ(1996-97シーズン)に出場した経歴もある。

 短い期間だが、エリック・カントナがリーズに巣立つ前の1991-92シーズン、ローラン・ブランもその翌シーズンに所属していた。

 近年はリーグ2やアマチュアリーグに転じていた時期が長く、2018-19 シーズンには25年ぶりにトップリーグに復帰。初年度は9位と奮闘したが、昨季は新型コロナウイルスによるリーグ打ち切り時点で18位とギリギリで降格を免れ、シーズンオフに1部昇格の立役者だったベルナール・ブランカール監督が辞任した。

 後任にはアシスタントだったジェローム・アルピノンが昇格。現在42歳で、監督は今回が初挑戦だが、ニームの生まれで2005年からコーチングスタッフに加わった、このクラブをよく知る人物だ。

 今シーズンのチームはまだ生で観ていないのだが、2部時代が長かったからか、戦い方としてはラン&ガン的で、まずはオフェンス、という印象が強い。ゆえに守りが甘くなりがちで、今季も現在リーグ最多の41失点とディフェンス面が大きく足を引っ張っている。そのため、植田には即戦力としての期待がかかっているのだ。

 サポーターたちの反応を見ると、「よく知らない選手なのでひとまずお手並み拝見」という意見が多いが、兎にも角にも守備を立て直す救世主が必要だというシュプレヒコールが湧き上がっている。

ホームタウンは見どころ満載

 ニームは、南仏のモンペリエとマルセイユの間くらいにある人口およそ25万人の街。地中海に近いが、やや内陸にあって海には面していない。『アビニョンの橋の上で』という歌で知られるアビニョンのすぐお隣だ。

 そして、何と言ってもニームはフランス最古のローマ都市。ゆえにこのあたりはローマ時代の遺跡が多く残されていて、有名な水道橋ポン・デュ・ガール(Pont du Gard)を訪れる際の拠点になったりもする。

 街の中心地には2000年以上前に建てられた立派な闘牛場がある。サッカーよりも闘牛が盛ん、と言えなくもないところで、闘牛のシーズンになると多くのファンが集まってくる。夏場はここでコンサートも開催されて、ローマ時代の人々が集った娯楽場でスペクタクルを堪能できてしまうのだ。

闘牛のシーズンになると、街の闘牛場には毎年、多くのファンが集まる

 その他、メゾン・カレと呼ばれるローマ神殿も、実にきれいな姿で残されている。そんな歴史的な建物の合間にヤシの木が立っていて、「異国へ来たな~」としみじみ実感できる街だ。自由に海外旅行ができる日が来たら、植田選手の応援に訪れつつ、ニームの街を散策するのはきっと楽しいことだろう。

 ちなみに、最近知ったのだが、ニームの地名は『デニム』の語源なんだそうだ。ニームでは13世紀ごろから織物が発展し、Serge de Nimes (セルジュ・ドゥ・ニーム、「ニーム産のセルジュ(織物)」の意味)の“ de Nimes”の部分が「デニム」になったらしい。

 本拠地のスタッド・デ・コスティエールは、中心地から外れた幹線道路沿いにあって、このあたりは歴史的な建物がある旧市街とは対照的な近代的なエリアだ。

残留に向け、植田の躍動に期待

 そして、2016年にクラブのオーナーとなったラニ・アサフ氏がこのたび、ニーム市からスタジアムを買い取った。

 フランスのスタジアムはほとんどが自治体の所有物で、クラブが所有しているのはリヨンとオセールくらいだが、アサフ氏はホテルや商業施設も併設した、市民みんなが使える施設にすることを約束して800万ユーロで買収。2億3000万ユーロを投じて、現スタジアムのある場所に1万5100人収容のエコ仕様の新スタジアムを建設する。

 2022年に予定されている開業はコロナの情勢で遅れそうだが、植田の買い取りオプションが行使されれば、彼もこの新スタジアムのピッチを踏むことになるかもしれない。

 そして新スタジアムのこけら落としをトップリーグで迎えるためにも、今シーズンは何としても残留したいところ。

 アルピノン監督も、今後の補強について、大手通信会社の執行役であるビジネスマンオーナーの財力に期待している、とコメントしていた。

 前節はマルセイユを彼らの本拠地で破り(1-2)、選手たちの士気も上がっているはず。この後パリ・サンジェルマンやモナコなど上位陣との対決も続くが、新加入の植田のフレッシュなパワーも注入して、ここから暴れ牛のごとき突進を見せてほしい。


Photos: Getty Images

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セルクル・ブルッヘニーム植田直通移籍

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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