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CLでの不振にSDとの確執…PSGのトゥヘル監督に解任説が浮上

2020.11.09

 パリ・サンジェルマンのトーマス・トゥヘル監督の身辺が騒がしい。

 就任3年目なので、そろそろ来たか、という感じではあるが、今後の成績次第ではシーズン途中の解任もあり得る、という話が持ち上がっている。

立て直しには寄与したが…

 今季はリーグ初戦で昇格したばかりのランスに敗れ、次戦では宿敵マルセイユにホームで10年ぶりの敗戦を喫した。

 その後は連戦連勝して現時点では首位に立っているが、UEFAチャンピオンズリーグでは、マンチェスター・ユナイテッドとRBライプツィヒに連敗。

 “昨季のファイナリストが3試合を終えて勝ち点3”という状況に、解任説が加速しているというわけだ。

 成績不振だけでなく、昨年6月にレオナルドがスポーツディレクターに復帰してから、じわじわと不協和音は聞こえてきていた。そして2人の溝は、今オフのメルカートを機にさらに深まった。

 客観的に見れば、トゥヘル監督はチームの立て直しに寄与している。彼が着任してからチームの雰囲気はものすごく良くなった。“気”というのは漂うもので、練習場やミックスゾーン、試合日のスタジアムで感じる空気は彼が来てから明らかに変わった。その前年が重苦しかったから余計かもしれない。

 前任者のウナイ・エメリ監督は誠実で尊敬できる指揮官だが、パリのスター軍団のまとめ役というのが彼に適した任務だったかというと、そうではなかった。

 ネイマールにも笑顔が戻ったし、近年のPSGの躍進に欠かせない存在であるアンヘル・ディ・マリアに息を吹き込んだのもトゥヘルだ。それまでメルカートのたびに放出候補に挙げられていたディ・マリアは、新監督の下で自信とやる気を取り戻した。

 昨季のファイナル・エイトでヒーローとなったエリック・マキシム・チュポ・モティング(現バイエルン)の活躍の陰にも、トゥヘル監督からの厚い信頼があった。

 レオナルドを含むフロント陣の方針に、そうやってチームの団結力を高めることに力を注いできたトゥヘルの意思にそぐわないことがあったということは、ファイナル・エイトが終わる8月までの契約延長を断ったエディンソン・カバーニの去り際からもうかがえる。

 チアゴ・シウバや、バイエルンに手放した18歳の新鋭DFタンギー・クアッシも、トゥヘルは手元に置いておきたかった様子だった。

後任候補に挙がる名将たち

 意向に反したことが重なれば、指揮官はクラブへの不信感を募らせる。RBライプツィヒ戦の前、母国ドイツのテレビ局とのインタビューで、来年6月に契約が切れた後の可能性について聞かれたトゥヘルは「そんな夢は見ていない」と答えていた。

 諦め、とも取れるし、この状況が続くならここで続けていくのは限界だ、と考えているようにも思える。彼の方でも、今後PSGで指揮を執っていくことに疑問を感じ始めているのかもしれない。

 一方で、レオナルドにもスポーツディレクターとしての任務をまっとうする責任がある。一説によれば今オフ、カタール側からは6000万ユーロ分の選手を売却するよう命じられていたそうだが、カバーニやチュポ・モティング、トーマス・ムニエ、チアゴ・シウバなど、離脱したのはフリーエージェントの選手が大半だったため、金銭が発生したのは19歳の新人DFロイク・ムベ・ソウをノッティンガム・フォレストに手放した際の500万ユーロのみ。

 それが彼の立場を危うくしていて、「トゥヘルを切ってレオナルドが望む新監督を連れてくる」という説だけでなく「両方とも切られる」という憶測さえ飛んでいる。

トゥヘル監督との確執が伝えらえるレオナルドSD。彼にも解任の噂がある

 トゥヘルを解任した場合の後任候補に名前が挙がっているのは、元ユベントス監督のマッシミリアーノ・アッレグリや、ちょうど1年前にトッテナムを解任されたマウリシオ・ポチェッティーノ、PSGの OBで、引退後はユースチームの監督もしていたチアゴ・モッタだ。

 モッタは初監督を経験したセリエAのジェノアを2カ月でクビになっているから、古巣とはいえさすがに監督は厳しいだろう。アッレグリ+アシスタントでモッタ、というコンビもあるかもしれない。

 ちなみに、周りにいるPSGファンに意見を聞いたところでは、ポチェッティーノ人気がダントツだった。

経営陣はどう決断するか

 ただ、そう簡単には解任はされない気もしている。カタール勢は、オーナーになった2011-12シーズンから、シーズン途中には監督を交代していない。最初のアントワン・コンブアレ監督だけは12月に解任されたが、当初から監督を据え替える意向があり、カルロ・アンチェロッティと交渉がまとまった時点で交代した、という既定路線だった。

 2016-17シーズンのCLラウンド16で、バルセロナにサッカー史に残る大逆転を食らった時はさすがにエメリ監督は即刻解任かと思われたが、ナセル・アル・ケライフィ会長はカタールから呼び出しを受けるも「続行」という決定を持ち帰っている。

 莫大な資金力でフランスリーグに参入してきたカタールのイメージをできるだけポジティブにする、というのはアル・ケライフィ会長の任務の1つだ。

 以前カタールを取材した際にクラブ関係者などと話して身にしみたが、カタールのお偉いさんたちの思考は、ヨーロッパに根付くサッカー文化からは遠くかけ離れたところにあったりする。その彼らが欧州サッカー界のエリート集団の一員として認められるにはそれなりの信用も必要だ。

 「いっときの名声や金稼ぎのために参入したのではなく、PSGのサッカークラブとしての成長を真剣に考えている」という姿勢をアピールするためにも、成績が悪ければ即監督のクビを斬る、という浅はかなクラブ運営を避けるのは一種の戦略でもある。

 ただ、前シーズンからの心身の疲労をひきずり、ケガ人も続出してチーム全体が弱りきっている今、フレッシュな喝を入れるための策として指揮官交代が必要と判断された場合には、シーズン途中の解任劇もあるかもしれない。

 現在アル・ケライフィ会長はカタールに滞在中だ。今回はどんな「結論」とともにパリに戻るのか。

 この「トゥヘル解任説」を主導しているのは『レキップ』で、PSG番のダミアン・ドゥゴール記者は扇動的な記事を発信することも多々あるから報道を鵜呑みにはできないが、PSGファンの間でもトゥへル解任を望む反応は案外多い。

 インターナショナルブレイク明けのCL第4節RBライプツィヒ戦は、トゥヘル監督の去就に大きく関わる注目の一戦になりそうだ。


Photos: Getty Images

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トーマス・トゥヘルナセル・アル・ケライフィパリ・サンジェルマンレオナルド

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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