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U-17W杯対談:川端暁彦×林舞輝。可変式、VAR、新ルール、国の個性。アルゼンチンvsカメルーンに感じた未来

2019.11.04

17歳以下の世界大会、U-17W杯がサッカー王国ブラジルにて開催中だ。FIFA主催の世界大会における最年少カテゴリーは各国の「色」が強烈に出る大会でもある。FIFAが18歳以下の国際移籍を禁止したことで、その傾向はより強まってきた。全員が「国内組」で構成されているアルゼンチンとカメルーンの試合はそんな新時代の象徴と言うべきゲームだったかもしれない。そんな試合をテーマに現地取材中の川端暁彦氏と奈良クラブGM林舞輝氏が語り尽くした。

アイマールの可変式フォーメーション


川端「U-17W杯、アルゼンチンがめっちゃ面白いことやってるんだけど」


「え、アイマール監督の?」


川端「そうそう、可変式フォーメーションミシャ式みたいなやり方だね。ちょっとどういうメカニズムなのかわからんところもある(笑)」


「めっちゃ観たい」


川端「観てくれ。Jスポーツオンデマンドでやってるから。全試合観られるぞ」


「それは体力・気力が……。でも、アルゼンチンは絶対観ます」


川端「ビルドアップで5枚FWが前に貼り付いての飽和攻撃。前後分断サッカー。アイマール式……なのか? カメルーン側が引っ張られて6バック化を強いられているから、後ろの選手が持ち出し放題になってるなあ」


「え。後ろどうなってるんですか?」


川端「後ろは個が強い。個で守れる(笑)」


「えー? 観ます」


川端「カメルーンもいろいろな意味でムチャクチャ振り切ってて楽しいよ」


――林舞輝、視聴を開始。


「せっかく観ているのにカメラに映る範囲だと、何が起きているか全然わからない(笑)」


川端「映ってない部分は想像してください(笑)」


「とりあえず、前と後ろがめっちゃ分断されてるってはわかります。アルゼンチンが敵陣にいる時は前の5人しか映らず、後ろから組み立てている時は後ろの5人しか映っていない(笑)」


川端「前後分断でしょ?」


「マジで[5-5]で攻めてますね、これ。守備は一応[4-4-2]なんですか?」


川端「10番のパラシオスがファジーなんだよね。[4-4-⑩-1]って感じ」


「なんだそれ(笑)」


川端「マラドーナ以来のアルゼンチンの伝統的な価値観は残っているというか。それこそアイマール監督が現役時代にやっていたポジションは残している感」


「10番、下がってくるし、上がってくるし、よくわかんない(笑)。しかしそんなに上手くもないような……」


川端「外にも流れるぞ(笑)」


「しかし、アルゼンチンこれはマジでネガトラ(攻→守の切り替え)のゲーゲンプレスしか守備教えてないのでは……。その代わり、ネガトラはめちゃめちゃ速い(笑)」


川端「守備は個に依存しているところあるよね。それによって意図的に鍛える意図もあるのかもしれないけど。『5人いれば崩せるやろ』と『5人いれば運べるし、守れるやろ』の組み合わせという感じもある(笑)」


「確かにめっちゃ後ろの選手が運び出せますね。やばいこれ、むっちゃ面白い。分断することで前が(カメルーンのディフェンスラインを)引っ張って押し込んでいるから、後ろの選手がめっちゃボール運べる。ゴリゴリ進んでいける(笑)」


川端「そうそう、後ろの選手に軒並み上手さがあって運べる。そこにスペースはあるから(笑)」


「カメルーンはこれ、ライン上げられないんですか?」


川端「6バックになっちゃっているから、ラインコントロールできないのもあるんじゃないかな。そのリスクは後半、実際に出てきた」


「逆にアルゼンチンはあれだけテキトーに見えるのに、後ろ4枚だけはなぜか見事に統制が取れている。5番も一人で頑張ってますね」


川端「アルゼンチンの後ろの選手の個人戦術すごいよね。潰しに前へ出る判断が良くて、間違えない。しかも球際で競れば負けないし」

U-17でもVAR問題、そして意外な新ルール


「うわ、カメルーンの巨漢ボランチに球際で勝っているのも凄い。しかし、カメルーンなんでこんな倒れるんだ……」


川端VAR狙いでアピールする志向が強過ぎる傾向も出てきた気がする。そんなにうまくいかないと思うけど……。別の試合でも、エリアに入って相手DFが触れた途端にこけるFWとかいたし(笑)」


「しかし、VARあり過ぎか!なんでこんなに止まるんだ……」


川端「そういうルールだからね。それにしても、この試合はVARめっちゃあったわ」


「審判の声を視聴者に聞こえるようにできたりしないんですかね。止まりまくっているけど、なんで止まっているのかよくわからない。審判はなんかマイクでしゃべってるけど……」


川端「そこはJリーグでも問題視されているけど、VARについて観客が置いてけぼりにならないような工夫は何か必要だよね。俺も会場で観ていて『え、どこの時点の反則?』ってなるもん。そして凄く前のだったりするから。それで判定が変わるならまだ後で分かるからいいんだけど、止まっただけで主審とVARのコミュニケーションで終わると、なんで止まってたのかまるで分からないから余計にストレス(笑)」


「ほら、カメルーンの選手がめっちゃイラついてますよ。カメラに抜かれてる(笑)」


川端「17だとVARのある試合は初体験という国がほとんどだろうしね。プレミアリーグが主審にモニターでの確認をさせないで判定をひっくり返させる、スピード化した独自のVAR運用をしている理由もよくわかる試合(笑)」


「さすがイングランド。唯我独尊」


川端「日本だと『とにかくルール違反にならないようにしなきゃ』というところから入るけど、海外は『とりあえずやってみて、怒られたらそのとき考えよう』みたいなことが多いよな(笑)」


「しかし、映像の方がスタジアム特有の緊張感がないぶん、VARの待ち時間がよりきついですね。あ、これダイブだ。VARがあるのにここまであからさまなシミュレーションするとは、さすがアルゼンチン(笑)」


川端「文化だから、もう体に染み付いているんだよ(笑)。ブラジルもどさくさ紛れに蹴りを入れた選手が退場していたし、審判を欺いたり、観ていない隙を突くプレーはVARで全般的に難しくなるなとあらためて感じる。日本はこの点で優位になったとも思うよ」


「あっ、今ボール持った選手が審判にぶつける鋭い縦パス当てた(笑)。これも新ルールですよね。ウチでも使おうかな」


川端「新ルールだとパスが審判に当たって敵ボールになったら、ドロップボールのマイボールで再開だからね。旧ルールだとそこからカウンター喰らったりしたけど、そういうことはないから、見事な落としが生まれることを期待して当てる策(マイボールだとプレー続行、相手ボールになるとドロップボールになるからリスクがない)」


「あるいはビルドアップで詰まったら審判に当てて逃げる」


川端「強く蹴り過ぎて審判の顔面を直撃、故意とみなされて退場する奈良クラブの選手……という絵まで見えたぞ(笑)」

「どうやって守るんだ?」「でも守れちゃう」


「いや、しかし面白いですね、この試合。アルゼンチンもアルゼンチンだけど、カメルーンもカメルーン。どうやって守ってるんだ(笑)」


川端「大体は足の速さで解決できるんだよ(笑)」


「前もめっちゃ速い。みんな若月だ(笑)。19(イスマイラ)も9(ワンバ)も7(エバ)も、めちゃくそ速い。そして、それを潰す3番!! アルゼンチンは3番(ブルーノ・アミオネ)も良さげ」


川端「アミオネはいいよ。いと強し。守備のスキル!と根性を備える(笑)」


「アミオネはスーパーじゃないですか? これはファン・ダイク系。カメルーンの前はかなり強烈なのに」


川端「カメルーン9番のワンバはA代表入ってるからな。速いだけじゃなくて馬力も十分」


「17でA代表!?……って、前半のロスタイム8分!(笑)。もうやだ。しかもまた倒れてるよカメルーン(笑)。17歳でこの演技派志向!」


川端「VARタイムと合わさってアディショナルタイムがクソ長くなる(笑)」

「ロスタイムは8分」と伝えるアルゼンチン代表公式Twitter


――ハーフタイム。前半はカメルーンがCKから1点先行しての折り返し。


川端「全然関係ないけど、カメルーンのGKの登録は170センチ」


「絶対ウソや(笑)。打ち間違えの可能性もあるか?」


川端「いや他の選手も軒並みおかしいから(笑)。もともとアフリカ勢って、FIFA大会の登録身長おかしんだよ。いつだったかのナイジェリアなんて全員が10センチ刻みで登録されてた(笑)」


「いい加減過ぎる(笑)。それとも、かく乱作戦?」


川端「そうかもしれないし、単位が違うのかもしれない(笑)。あるいは呪術で使われるから本当の身長教えたくないとかあるのかなあ、とかかなあ……」


「なにそれこわい」

演技じゃなくてホントだった。狼少年の悲劇


「10番(パラシオス)がようやく10番っぽいプレーをするように。あと9番(ゴドイ)は凄く雰囲気あるなあ。いやあ、しかし演劇対決になってきた。これ後半はロスタイム18分になりそう。何を見させられてるんだ俺は……」


川端「それだけ勝利にどん欲だからなんだけどね。VARの4要件から外れているから、VARから『おい、その倒れてるやつの演技だぞ』というアドバイスはできないんだろうな」


「しかし、カメルーンのGKはしっかり後ろを見てボールがゴールを逸れたのを確認してから倒れてるし……」


川端「と、思うじゃん?」


「え?」


川端「このあと狼少年が誕生する(笑)」


「ええ!? まじで。お前、まじだったのか。まじで狼はいたんだ……。もうだめだこの試合、カオス」


川端「多分ベンチもそんな気持ちだっただろうな。演技だと思ったらリアルに負傷していたGKの守るゴールを破ったアルゼンチンが同点ゴール(笑)」


「なんだこの試合。まさかの展開過ぎる。ていうか、どこがほんとでどこが嘘かわかんねぇ。どこのでそうなったんだ」


川端「どこかは知らんが、どこかではホントにケガしてたんだよ(笑)」


「脚本:三谷幸喜みたいな試合だ……って、おいおいおいおい。そんなことあるのかよ。……って、いろいろ意味わからんゴールがまた生まれた(笑)。狼少年に代わって入ったGKの最初のプレーが凡ミス!」


川端「最初の出番でライン裏へ飛び出し、ボール触れず……。アルゼンチンが唐突な逆転に成功(笑)」


「こいつあれか、ノイアー的なアレのタイプか!」


川端「“触れないノイアー”はまずい(笑)」


「すんげぇとこまで飛び出ていきますね」


川端「足の速さに自信あるがゆえだろうけど」


「それにしても、アルゼンチンの選手たちはマジで頑張りますね。これは応援したくなる。のうわぁ! 完全に崩してクロスバー。面白い試合だ」


川端「カメルーンもどんどんむちゃくちゃになっていく(笑)」


「カメルーンが演技派から熱血派へなっている。おお〜、やっぱアルゼンチンの9番が決めた!」


川端「88分、林GMが『雰囲気ある』と評していたFWゴドイのゴールでアルゼンチンがトドメ。3-1で快勝や」

感想戦。長所と短所はおもてうら


川端「全体としてどうだった、この試合?」


「前後分断型の戦術は、シティもこの前似てるようなことやってたんですけど、アイマール監督がやってると『なんだこれめちゃくちゃだな』ってなりますよね。でも、ペップがシティでやってると『すげぇぞ、ペップ。何を考えてんだ。また新しい戦術かよキタコレ』ってなるのはマジで不公平だな、と(笑)。シティだって、もしかしたらギュンドアンが勝手なことしてるだけなのかもしれないのに(笑)」


川端「確かに(笑)」


「あと、これは川端さんの言ってたように、18歳以下の国際移籍を禁じたFIFAルールの影響かもなんですけど、アルゼンチンがアルゼンチンっぽくて、カメルーンがカメルーンっぽかったです(笑)」


川端「馬鹿っぽい言い方だけど、わかるよ。グローバル化が進んで各国のサッカーに境目がなくなってきたとか言われていたけれど、このU-17W杯観ていると、めっちゃ境目ある(笑)」


「アルゼンチンのCKであっさり失点しちゃう感じ、追い詰められてから頑張る感じ、5番と10番、自由で攻撃大好き、『守備は規則、攻撃は自由』の言葉を履き違えてる感」


川端「でもそれで機能しちゃってるところもね」


「カメルーン、とんでもなくはえぇ、とんでもなくでけぇ、組織 is どこ、めっちゃ転ぶ、ありえないミスする」


川端「あそこは異界のサッカーや。U-17日本代表の森山佳郎監督はアフリカ勢との試合について『ビックリすることが90分で10回はある』と言っていた(笑)」


「なんていうか、ものすごく『アルゼンチンvsカメルーン』っぽい試合でした。カメルーン先制からの3-1ってスコアも含めて」


川端「凄まじいハイジャンプヘッドの先制弾とか含めてね(笑)」


「カメルーンって、最初はインパクトありますよね。最初の15分は『なんじゃこりゃ』『すっげぇ』みたいな。でも、その異次元の能力に目が慣れてくると……」


川端「すっげえ『けど』になるよね」


「そう、『けど』が多い。組織としてのガバガバさに気づいてくる」


川端「むちゃくそ速い『けど』みたいな」


「最初の15分は凄かったんです『けど』、その後は違う意味で『お前らそれマジで??』になってくる」


川端「うん、わかりみあるな」


「先制点のヘッドとか、あんなのがあるんだったら、CKの作戦とかいらないですよね。でも、あれができるんだったらCKの守備はもっと頑張れよ、と(笑)。あれだけ跳べるなら、普通にマークしてたら絶対失点しないのに」


川端「あっさりやられてたな(笑)」


「逆に、あれだけ跳べちゃうから、『ま、いっか』できなくなるんだとも思います。日本人は弱点って意識があるから死ぬ気でマークしなきゃやられると思うわけで」


川端「『どうせ俺の方が高く跳べるし、当たられても負けないし』となっちゃうんだろうね。スピードのある選手が動き出しで工夫しなくなる現象とかもありがちだけど」


「そうそう。戦術的に観ても、『別に間延びしてもいいし』みたいな」


川端「むしろ間延びしている方が都合がいいくらいのを感じるぞ。対するアルゼンチンはどう観た?」


「ジャズなんですよね、アルゼンチン」


川端「ああ、即興演奏か」


「ですね。ジャズの悪いところは、最高の演奏を普通って勘違いしてしまうところ(笑)。演奏者も、観客も」


川端「そこを基準にしたくなる(笑)。マラドーナ幻想症候群とかまさにそれだよなあ」


「世の中に出回っているジャズCDは、全部めちゃ息が合っててすげぇ上手くいった名盤なんですよ。でも、あれが普通ってことはない。なのに、あの名盤がいつでもできると、演奏者も聴者も勘違いしてしまうし、期待してしまう。あんな10番の即興プレーとかアルゼンチンじゃなきゃ絶対許されない(笑)」


川端「だけど、まさにそこを『許す』ことがアルゼンチンらしさなんだろうなという気もしている」


「カメルーン戦での10番は『なんやこの勝手な奴』としか思えませんでした」


川端「俺も思ったよ(笑)。でも期待されている選手なんだよ。まさに即興で凄い点を決めたことがあるからこそ、だと思う。10番もあれで得点に直結する決定的な仕事があったら、まるで違う評価になるはず」


「そうです。次の試合では“名盤”になるのかもしれない(笑)」


川端「逆にあれだけDFが個で守れるのも、そういう即興で仕掛けてくる選手に対抗して育ってきたからこそという面もあるのかなと思うし」


「あと、10番は後半持ち直しましたからね。ロッカールームでアイマールに怒られたのかな。でもアイマールって怒らなそう」

リオネル・スカローニ(左)率いるA代表のアシスタントも兼務しているアイマール


川端「それは偏見だろう(笑)。ただ、チームメイトにキレられたパターンもありそう」


「あれはキレますね」


川端「でも、キレられ方もきっと『もっと組織的に動け』ではなく、『お前は自由にやってるんだからちゃんと点を取れや、クソが!』って感じだと思う。そういう文化なのかな、と」


「文化と文化の戦いという感じはありましたよね。あと、なんかいま思ったんですけど、いつも僕は試合を観るときに全体の感想を強く言うじゃないですか」


川端「そうだね」


「でも今、個の話とチームのキャラクター性みたいなことしか言っていない」


川端「少なくとも戦術的な噛み合わせの話ではないね」


「組織としてあんまりないからこそ、個に注目して観られるのもあるし、あとは、シンプルに、そういう目で見た方が楽しいんですよね、多分。この世代の試合は」


川端「そうだと思う。特に代表は」


「選手のこと知らないってのもあるし、でも知らないからこそ、楽しい。『こんな選手いるのかー』みたいな」


川端「発見があるよね。あとは想像できることだと思う。『この子、5年経ったらどんなプレーヤーなのかな』とか」


「あー、それはそうですね。めっちゃ楽しみになりました」


川端「カメルーンの選手たちの10年後」


「いや、ぜんぜんわからんっす(笑)」

U-17カメルーン代表対U-17アルゼンチン代表の公式ハイライト

「欧州以外」の異質な個性、そしてNIPPON


「あと、U-17日本代表の試合観てて思ったんですけど、20年前の日本代表の試合と結局同じだな、と。そしてそれはアルゼンチンとカメルーンもそうなのかな、と」


川端「1998年W杯とか?」


「まあ、カメルーンの20年前ってよく知らないですけど。ロジェ・ミラとかで旋風を起こした……」


川端「それは1990年大会や(笑)」

1990年W杯では開幕戦で前回王者アルゼンチンを破るなど大旋風を巻き起こしたカメルーン。ミラは4ゴールを挙げ、母国のベスト8進出に大きく貢献した


「いやでも、たまに観るんですよ、昔の試合も。ジョホールバルとか」


川端「1997年のフランスW杯アジア最終予選三位決定戦、vsイランだな。マレーシアのジョホールバルで開催され、3-2で勝った日本が初めてW杯の出場切符を手にした(説明口調)」


「まず、守備の間合いを空け過ぎ。抜かれるのが怖いんだと思いますけど、めっちゃ間合いを空けてます。簡単にクロスあげられるし、自由に持たれるし、奪えない」


川端「冒頭の方で話したアルゼンチンのDFの話に通じるんだと思うけど、日本はチビッコドリブラーや若月みたいなスピードスター系のFWが多い。だからそれに対応できるDFが多く育つ。一方でクロス攻撃は貧弱だし、ミドルシュートも弱いから、そこへの守りは甘くなるようなサッカー文化というかサッカー傾向に自然となっているんだと思う。長所と短所は必然的に裏表になる」


「マジでそれです。だから、国単位でのサッカーの進化って、そういう国の文化みたいな要素からどうやって肉付けしていくかという戦いなのかな、と。まだ荒削りなU-17年代は国ごとの“らしさ”がより鮮明に見える」


川端「むき出しの国民性、みたいな」


「だから、まるで違う目線で試合を見ていたなということに対談していて気づきました。僕がシステムの噛み合わせやゲームモデル、この試合に対するゲームプランがどうなっているのかみたいなことを確認せずに観て楽しむって、まずありえない(笑)」


川端「で、そういう選手たちがここからプロのステージへいって、あるいは欧州へ出て行ってどう変わるかも観られるんだよ」


「うわ。それは楽しみだなあ」


川端「U-17だと、国ごとの文化みたいなモノがより顕著に出るという見方はわかる。UEFA U-17選手権も視察していたJFAのスタッフが言っていたけど、UEFAの大会の方がやっぱりアベレージとしてのレベルは確実に高い、と。ただ、W杯は圧倒的に個性的だ、とも。多様性が凄い。だから、そういう相手の個性に対応していく力も問われるから面白いよね」


「U-20くらいになると、もっと何か殺伐としてますよね。チームとしても勝つために割り切ったサッカーするところが多いし」


川端「U-17だと、欧州勢含めてまだまだ選手がフットボールに対して純粋だよね。オランダの選手がアメリカに負けた後、号泣しながらロッカールームへ引き上げるのを観て、あらためてそう思った」


「個性への対応力という意味では欧州勢が逆に劣っちゃうところもあるんですかね?」


川端「前回はイングランドが優勝しているし、そこも一概には言えないと思う。ただ、欧州の選手にとってもこの大会が良い経験になってるのは間違いない」


「逆に、日本とかどう思われてるんでしょうね、向こうの国から」

グループステージでは1失点も喫することなく2勝1分で首位通過を決めたU-17日本代表。ベスト16の対戦相手はメキシコに決定した


川端「向こうの、少なくとも育成年代をやってる指導者の見え方はだいぶ変わったという話をよく聞くよ。昔は欧州遠征しても『は? なんで日本なんかとやるの?』みたいな感じの対応になることもあったけど、いまはそんなことないって。JFAが欧州の強国にマッチメークを申し込んでも門前払いされることはないし、向こうでやる国際大会にも『出てみない?』という打診がたくさん来るようになったから、今は逆に断るほうが大変という話も」


「それはうれしいですね。やっぱり進歩していることは認められているんだ」


川端「実はU-17W杯前にも『欧州王者とやっておこう』ということで、9月に向こうへ遠征してオランダと親善試合をするはずだったんだよ(笑)。そういうマッチメークができるようになっている。まあ、クジで一緒のグループになっちゃったから試合は流れたんだけど(笑)。普通にそこそこ強い国として評価されるようになったというか、やったら選手の経験になる相手と観てもらえるようになっているのだと思う」


「欧州で優勝して鼻高々になっていたオランダも倒せましたしね」


川端「そうそう、今大会を通じてもまた評価を上げている。ただ、オランダ倒して終わりじゃないので、ここからも楽しみ。世界大会はノックアウトステージからまた一段ギアが上がるのが常だしね」


「では、FIFAには18歳以下の国際移籍禁止を20歳に引き上げてもらって、U-20も個性的な大会にしてもらうことにしようという結論も出たところで」


川端「そんな結論だったっけ(笑)。まあ、何にせよ、U-17W杯はここからが本番。日本の戦いと世界中のタレントの輝きを目に焼き付けていきたい。楽しみでしかない」


Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images

Profile

川端 暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣『エル・ゴラッソ』を始め各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。著書に『Jの新人』(東邦出版)。