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「どこに貸すか」より「何を伸ばすか」。コモに抜擢された日本人・遠藤翼が明かす、ローン移籍を成長につなげる方法

2026.10.12

【特集】セリエAを革新するコモのビジョン#3

セスク・ファブレガス監督がピッチ上に表現するプレー哲学と、コモ湖を背景に街をプロデュースする独自のブランド戦略。2024-25シーズンのセリエA昇格からわずか2年でCLに初参戦しているコモ1907は今、欧州サッカーで最もユニークな存在だ。イタリアのプロビンチャーレだったクラブがなぜ、この短期間で異彩を放ちつつあるのか。その答えは、目の前の試合結果だけを追うのではなく、先を見据えた未来から逆算してチームを作る「ビジョン」にある。人材獲得と育成、移籍戦略、トップチームの戦術――それぞれの取り組みは別々に見えて、実は一つの思想によってつながっている。その革新のDNAを読み解く。

第3&4回は、JFAアカデミー福島を経てアメリカのMLSでプレーした後、昨季からコモのローンマネージャーに就任した遠藤翼のインタビュー前後編。一人ひとりの成長課題から移籍先を考え、データと映像で分析し、ローン先のクラブとも対話しながらキャリア形成を支える。その先にあるのは、アカデミーからトップチームへとつながる長期的な人材育成だ。コモが「ローン」という仕組みに込める思想と、選手の成長を設計する仕事に迫る。

ローンマネージャーの仕事

――まず、ローンマネージャーというお仕事について聞かせてください。強化部門の中で、クラブがローンに出している選手の管理とケアに特化した専門職、という認識でいいでしょうか。

 「はい。僕は今年の3月からコモに入ったので、最初の3カ月くらいはシーズンも終盤で、まずクラブの環境に慣れつつ、新しいシーズンの準備をするという感じでした。シーズンオフになって、クラブが新シーズンにローンに出す選手のリストを決めて、それをもらったところから本格的に仕事が始まりました。一人ひとりの選手について、どういうタイプのチームに出したら一番適応できるか、具体的にどのチームがいいか、といったところを、データなどを元に検討して、スポーツダイレクター(SD)をはじめ意思決定に関わっている上の人たちに向けてレポートをまとめるのが最初のステップです。

 ただ、フットボールの世界は本当にいろいろなことが起きるので、提案した通りに話がまとまるとは限りません。というよりも、そうなることの方が少ないというのが実際ですね。それでもこちらからは、どういうチームが一番適しているかという提案はします。ローン先との移籍交渉には僕は関わらないんですが、ローン先が決まったら、選手とミーティングをして、僕がローンマネージャーとしていろいろなことをサポートしていくことを伝えて、一緒に今シーズン達成したい目標について話し合ったりして、移籍先に送り出すというのが、夏の間の流れですね」

――クラブの戦略として、今シーズンの新しい編成を決める中で、構想から外れてローンに出す選手、あるいはまだ構想に入らない若手で1年他のクラブに修業に出す選手、みたいなリストができるわけですよね。そのリストを作るところにも関わっているわけですか。

 「そこは上の方で決めることなので、僕の仕事はリストが来てからですね。特に若い選手の場合は個人の成長プラン、ポジションごとの課題からメンタル面まで含めたプランを作って、それを選手と共有して、移籍した後もシーズンを通してサポートしていきます。コモの中には、ポジションごとにオフェンシブ、ディフェンシブのそれぞれについて分析基準があるので、それに基づいてどんな強みがあるか、課題は何か、というようなところを明確にします。

 それは、シーズンが始まって僕がローン先のクラブを訪問した時にも彼らと共有します。最初に彼らから見てどこが課題か、どこが強みかを聞いて、それに対して僕らコモとしてはこういう風に考えている、というのを伝えるようにしています。ローン先のクラブを直接訪問して意見を交わすこと、トレーニング施設やトレーニングを直接見る、ゲームを直接見ることは、選手をサポートする上でも一番大事なところだと思っています」

――今シーズン、コモがローンに出している選手は14人でしたか。選手一人ひとり、事情や状況は違いますよね。

 「ええ。SDから、この選手はどのチームが一番適しているか、ローン先の候補を調べてくれ、と言われることもあります。特に若い選手についてが多かったですね。19歳から21歳くらいの選手は、いろいろな意味でサポートが必要ですし、成長プランもしっかり立てないといけない。逆にスペインにローンに出ている(アルバロ・)モラタのようなベテランは、そういう部分は必要ないですよね。だから選手によってアプローチも違ってくるので、そういう部分は面白いです」

――ローン先の候補を決める、探す場合に、どういう基準で、どういうやり方できめていくんでしょう。そのプロセスを聞かせてください。

 「クラブが持っているデータプラットフォームがあるんですが、主にそれを使っています。一番いいのはコモとプレースタイルが似ているチームに送り出すことなんですが」

――データ的にコモと似ているチームのリストが出てくるんですね。

 「はい。いろいろな項目について。ただ似ているだけじゃなく、ポゼッションなのかカウンターなのか、この選手にはどういうタイプのチームが向いているのかをいろいろな角度から判断して、それをSDに提案して、お互いにそこでディスカッションしていきます。これは違う、これはそうだよね、みたいな感じで本当にたくさん話し合うので、データはその基礎という感じですね」

――その提案通りに決まったチーム、選手はありましたか。

 「ほとんどないですね。そこは仕方ないんですが、難しいですよね。こちらがベストだと思う提案をしても、給料とか移籍金で折り合いがつかなかったり、いろいろなファクターが入ってくるので、思った通りに決まるのは本当にごく一部です。この選手にはこういうところ、というアイディアははっきりしているので、それを元に、なるべく近いところに、ということで移籍交渉も進めているとは思うんですが、そこは仕方ないかなと」

「コモには明確な基準がある」。一人ひとりの成長プラン

――ただ、ローンマネージャーのメインの仕事は、むしろその後、移籍先が決まった後、そこからの1年間をどういう風にフォローアップするかという部分ということですよね。

 「はい。そこは全部僕の仕事になります」

――若い選手の場合には成長プランを作るというお話でしたが、具体的にはどんな内容なんでしょう。選手との共有の仕方、話し合いはどのような感じで進めているんですか。

 「成長プランの内容は、インポジション、アウトポジションに分かれていて、インポジションはボールを持っている時のオフェンシブ、アウトポジションはディフェンスですね。コモの内部でそれぞれについてのはっきりした評価基準やデータ項目があるんですよ。例えばボランチのナンバー6だったら、インポジションはこう、アウトポジションはこう、という感じで。ですから、ローンに行く選手の去年の映像を全試合見て、それと評価基準を突き合わせると、大体パターンが出てきます。

 データだけじゃなく自分の中でもわかってくるので、その内容を全部パワーポイントに落として、インポジションとアウトポジションの強み、弱み、次の1年間を通して成長するための課題を3つ、4つ設定します」

――それがローンに出たシーズンの成長を見る上での基準になるわけですね。

 「はい。それを僕が作ってクラブ内で共有して、もちろん選手にも共有します。そこはもちろん大事なんですが、それと同時にローン先のクラブにも共有して、お互いにどういう形でその選手の成長を助けられるかという話をすることも、すごく大事だと思っています。ただ、ローン先のクラブに対して、ああしてくれ、こうしてくれということは一切言いません。僕はコモのローンマネージャーであって、そのクラブの人間ではないので。それをやるとクラブ間の関係も悪くなってくると思うし、ローン先のクラブにはやりたいようにやってもらうしかないです」

「ああしてくれ」は言わない。ローン先との「Win-Win」を作る

――ただ、コモの立場から選手の成長についてこういうプランを持っている、とは伝えると。

 「そうですね。そこはコミュニケーションの仕方が大事だと思っています。ただ訪問してミーティングして、僕らがこういうプランを持っているからこうしてほしい、と一方的に伝えるのではなく、まず相手のクラブがその選手についてどう思っているのか、強みと弱みをどう評価しているのかを聞いて、それからこちらはこう思っているという話をして、そこで折り合いをつけていくという形で、お互いWin-Winになるようなコミュニケーションを取ることが本当に大事だと思っています」

――相手クラブの話し相手はSDになるんでしょうか。

 「そうですね。SDとテクニカルダイレクターがいる場合は、その2人と一緒に話したり。ちょうど先週行ったボルツァーノ(セリエBのズュートティロル)がそうでした」

――ローン先のチームがコモのスタイルと全然違うサッカーをやっている場合は、逆に選手がそっちのサッカーに適応して、コモが期待しているのと違う成長の仕方をすることもあるのでは?

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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