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UEFAチャンピオンズリーグは憧れの場所。戸田和幸、準決勝へむけて準備万般

2019.04.30

18-19シーズンのUEFAチャンピオンズリーグもベスト4が決定。準決勝第1レグの開催が目前に迫る中、都内のDAZNスタジオで注目のカード「バルセロナ vs.リバプール」のプレビュー番組の収録が行われた。出演者は同試合の解説も務める戸田和幸。有料の解説配信コンテンツ「URA_KAISETSU/裏解説」の立ち上げなど日本サッカー界に新しい解説者像を築きつつある戸田氏に、試合の見どころや解説業への想いを聞いた。

――戸田さんは中継においてチームワークを重視されています。今回担当されるUCL「バルセロナ vs. リバプール」は解説・戸田さん、実況・桑原(学)さんのコンビですが、このペアだからこその中継スタイルはありますか?

 「まず桑原さんは仕事を休んで自腹でヨーロッパにサッカーを観に行くほど勉強熱心な人です。だから、僕も心配せずに試合を観て気付いたことをそのまま話せるのでとてもやりやすい。当たり前ですが、サッカー中継は視聴者のためにある。どのくらいの専門性を(解説において)発揮するのかはいつも意識している。今回はUCLの準決勝で深夜帯の配信ということを考えても、視聴者はサッカーを前のめりで見ている人達。だから、専門性のコントロールはし過ぎずに見たものをそのまま素直に解説しようと思っています」

――戸田さんがメディアによって言葉や情報を使い分けているのは聞いている側としても伝わってきます。

 「どれだけ深さのある話をしても視聴者にとって良いものでなければただの自己満足になっちゃいますから。ただ、そうした中でも自分の色を出すことは意識しています。そうしないと評価されませんから」

――「DAZN」だからこそ意識されていることはありますか?

 「深夜に行われるヨーロッパサッカーを見る人達は相当サッカーが好きな人達なので専門性はなるべく出すようにしています。Jリーグに関してはより幅広い層の人達が見るのでそこに少し違いはありますね。ただ、いずれにせよDAZNさんは加入者数が多くて、沢山の人が観てくれるという意味ではやり甲斐があります」

――特に今回解説を担当される「バルセロナ vs.リバプール」はビッグゲームなのでいつも以上に多くの方が視聴されることが予想されます。大きな試合ほどモチベーションが上がったりされるものでしょうか?

 「それは素直にそうだといいます。UCLは本当に最高峰なので。自分が試される感じもして緊張しますけど、燃えますね。ヨーロッパは今でも僕の憧れの場所ですし、その中でもUCLは全ての頂点に位置する最高の舞台。失礼のない仕事をしなくてはという緊張感の方が大きいです」

――その過程の中で戸田さんはサッカーを言語化する能力を高められてきたのではないかと感じます。多くの解説者がいまだ抽象的な言葉を使われている状況である中で、何を見て、どのように解説業のスキルを磨かれていったのでしょうか?

 「僕は現役の時からセンスが乏しかったので一つひとつ納得して身に着けていくタイプだったんですよ。ポジション的にそれを人と共有することが求められる部分もあって言葉は大切にしていた。それに自分が人生を賭けて取り組んでいるものを理解したいんです。知らないままではやりたくない。つまりは探求心ですね」

――その探求心は今回の番組収録事前打ち合わせに参加させて頂いて強く感じました。解説者自らあそこまで細かく番組で使う試合映像を指定されているのには驚きました。会話の端々に戸田さんの頭の中にはすごい量の映像ストックがあるのだろうなと。直近もヨーロッパまでサッカーの視察に行かれていたとか。

 「時に寝不足でしんどい時はありますけど、あんまり苦にならない。まだまだ僕には知識が足りないので学ばなければいけない。今回も2週間ヨーロッパに行って、試合だけではなく、クラブの分析官、育成担当などいろんな話を聞きました。もちろん、フットボリスタも読んでいますよ。常に情報をアップデートするスピード感は持っておかないと。僕よりサッカーに詳しい人は当たり前に存在しているので、そういう人達に負けないように、認めてもらえるようになりたいという気持ちが強いです」

――最近、サッカー界では「ゲームモデル」という言葉がトレンドです。戸田さんは解説者として1つのモデルとなりそうな気配がありますが、これまで誰か強く影響を受けた人や参考にしている解説者はいますか?

 「多くの方の解説を聞いてきましたが、特定のモデルはいないですね。誰かの真似をしたところでその人にすらなれませんから。嫌なこととか、しっくりこないものは続けられない。自分が楽しくて、のめりこめるものじゃないとオリジナリティは出せないですよ」

――少し聞き方を変えます。“解説原則”のようなものは持っていますか?

 「サッカーってカオスのスポーツですから論理性が重要だとしてもなかなか思ったようにならない。だから、解説する上でそこの余白は残しておきたい。ある程度含みを持たせておいて、視聴者のワクワクを奪いたくない。「うるさい」と思われるギリギリ手前のところで話が出来るかが勝負の分かれ目です」

――その匙加減は難しいですね。発言量を減らしたことによって「あれ?この人分かっていないんじゃないの?」と思われるリスクもあります。

 「おっしゃる通り匙加減が難しいんですよ。そのリスクも僕の中では常に頭にあって。けど、中継というものは基本的には実況の人が展開し、そこに解説の僕がその間に入っていく。大切なのは実況との連携ですよね。自分だけ話し続けても中継として成立しないし、「今日は話したな」と思う試合はダメみたいです」

――個人的には解説にむけてあれだけ予習している戸田さんの言葉はたくさん聞きたいです。

 「確かに不安にならないレベルの予習はしますが、だからと言ってそこに縛られると失敗するリスクもあるんです。毎回、新しい試合であるという意識はしています。だから、事前にチェックした試合の話は必要だと判断した時以外はしません」

バルセロナ vs.リバプール戦の解説にむけた準備を進める戸田氏(Photo: 鈴木奈保子)

――今回解説される「バルセロナ vs.リバプール」にむけての準備は進まれていますか?試合展開を少し予想して頂きたいのですが。

 「この2チームに関してはシーズン通じて8割方見てきました。大方の予想はバルセロナかもしれませんが、今回はバルセロナが打ちのめされる可能性もあります。ラ・リーガにはリバプールのような強度のチームはありませんから」

――バルセロナホームの第1レグでその可能性ありますか。

 「リバプールがスパークするとしたら第2レグでしょう。重要なのは如何に第1レグを終えられるか。如何にアンフィールドでの第2レグに繋げられるか。となった場合、サラーをどこに置くのか。3トップでいくのか4-4-1-1を選ぶのかといったところが重要なポイントになります」

――他に注目点はありますか?

 「ミルナーとヘンダーソン(ワイナルドゥム)が倒れるまで走ると思います。この部分については理屈を超えます。一つ目がアウェイなのでリバプールはどうプランニングするのか。ビビッてしまうことはないでしょうが、中途半端に出るとパリ戦(アウェイで1-2の敗戦)のようにチンチンにされる可能性もあります」

――試合に対する戸田さんのワクワク感が伝わってきます。中継楽しみにしています。

 「はい。是非、ご覧ください」

現在YouTubeで無料配信中のUCLプレビュー番組では「バルセロナ vs. リバプール」における両チームの概況や予想布陣・試合展開などのトピックスが語られている。ここでは番組内で戸田氏が両チームの注目選手として挙げたブスケツ(バルセロナ)、フィルミーノ(リバプール)の解説を一部ピックアップする。番組内では実際の試合映像を使ってより詳細に複数のシーンが解説されている。是非、こちらもご覧頂きたい。

【UCL プレビュー】人気解説者・戸田和幸が世界最高峰の戦いを徹底分析!

チーム全体の基準を与えているブスケツ

 バルセロナは最終的にはメッシ。メッシにいつどこでボールを渡せるかが最重要テーマ。そこに至る過程を形成しているのがブスケツなんです。例えば、UCL準々決勝第2レグのマンチェスター・ユナイテッド戦でGKのテアシュテーゲンからブスケツがPA前の真ん中のエリアでボールを受けてリターンしているシーン。1回(パス交換で)クッションを入れて、相手を少し内側に引きつけることによって、最終的にはサイドからメッシにボールが渡っている。このリターンパスがないと相手のエネルギーはサイドにも向かってくるので。あのひとつのポジショニングやプレーがバルセロナの攻撃を作っているという言い方は出来る。対戦相手のファーストラインの人数やプレスの方法にもよりますが、例えばマンチェスター・ユナイテッドとの2試合ではブスケツは常に2CBの間に下りてビルドアップを行い、ピケとラングレが開いたところから効果的な前進を見せました。戦況を的確に把握し、チーム全体にプレーする為の基準を与えているのがブスケツだと思います。

バルセロナにプレーする為の基準を与えているブスケツ選手 (Photo: Getty Images)

フィルミーノは魔法使い!?

 僕はフィルミーノのことを勝手に「魔法使い」と呼んでいるんですけど、独特の感覚を生かした動きでアシストしたり、もちろんゴールも決めています。例えばUCL準々決勝第1レグのポルト戦でケイタが決めた先制点のシーン。僕にはフィルミーノがいつナビ・ケイタのポジションを確認したのか分かりませんでした。自分が打つのか、人に打たせるのかの判断もとにかく正確、彼が動けばボールに触れずともチャンスを生み出すことが出来る稀有な存在です。

独特な感覚を生かした動きで攻撃を牽引するフィルミーノ選手(Photo: Getty Images)

Photos:Nahoko Suzuki, Getty Images

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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