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「ニコ・パスのコピーを探してはいけない」。コモのルディSDが語る、セスクと築いた「革新のDNA」

2026.10.07

【特集】セリエAを革新するコモのビジョン#1

セスク・ファブレガス監督がピッチ上に表現するプレー哲学と、コモ湖を背景に街をプロデュースする独自のブランド戦略。2024-25シーズンのセリエA昇格からわずか2年でCLに初参戦しているコモ1907は今、欧州サッカーで最もユニークな存在だ。イタリアのプロビンチャーレだったクラブがなぜ、この短期間で異彩を放ちつつあるのか。その答えは、目の前の試合結果だけを追うのではなく、先を見据えた未来から逆算してチームを作る「ビジョン」にある。人材獲得と育成、移籍戦略、トップチームの戦術――それぞれの取り組みは別々に見えて、実は一つの思想によってつながっている。その革新のDNAを読み解く。

第1&2回は、クラブの強化責任者カルラルベルト・ルディSDのインタビュー。セスクとの出会いから、若手タレントの成長を支える仕組み、アカデミーの未来までを聞いた。「革新」「勇気」「学習」「変化」をキーワードに、コモ1907が急成長を遂げた背景にあるクラブ作りの思想に迫る。

セスクがもたらした「ピッチ上の革新」

――コモが現オーナーの下でセリエDからセリエA、そしてCLに進出するまでの7年あまりを通じて、最も大きな分岐点は、セスク・ファブレガスがコモにやって来たことだと思います。

 「ええ、もちろんです」

――まずは選手として加入し、1年で引退してプリマベーラの監督になり、わずか3カ月でトップチーム監督に内部昇格して、1年目でセリエA昇格を果たした。それまでのコモは、オーナーの資金力を別にすれば、他の多くのプロビンチャーレと大きく変わらない、普通のクラブだったと思います。それが、セスクが来てから劇的に、そして急激に変わり始めた。

 「セスクは、オーナーがもともと持っていたビジョンに、フットボール面のプロジェクトを一致させました。クラブのビジネスモデルとして、国境を越えてマーケットを広げていきたいという目標があって、彼にはその機会をもたらしてくれる知名度や実績がありました。まず何よりも、我々のプロジェクトに信頼性を与え、コモのブランドを国境の外にまで広げていく契機となる存在でした。

 彼が選手としてコモを選んでくれたのは、引退後に監督になるためのプロセスを我々が支えると約束したことも大きな理由でした。監督ライセンスの取得を支援し、監督として仕事をする機会を提供するということです。当初は2年プレーする予定でしたが、選手としては1年だけで引退しました。

 ただその1年も、我々にとっては非常に重要な経験でした。プロ意識、勝負への強いこだわり、勝者のメンタリティをチームにもたらしてくれたからです。チームのため、仲間のために力を尽くすという点で、彼は並外れた存在でした。それまでずっと欧州サッカーのスーパーエリートとしてキャリアを送ってきたセスクにとっては、人生で一度も経験していないセリエBというレベルだったにもかかわらずです。当時のコモはまだクラブとして未完成で、メソッドにおいても仕事の質においても、まだまだたくさんの課題を抱えていました」

――引退後はプリマベーラの監督としてスタートしました。

 「プリマベーラの監督になると、今度は指導者としての情熱で私たちを巻き込みました。いや、圧倒したと言った方がいいですね。彼自身のメソッドとプロジェクトを私たちに示し、それに猛烈な意欲で取り組んでいきました。正直に言って、プリマベーラを指揮し始めるとすぐに、監督として傑出した手腕を持っていることが一目瞭然になりました。戦力的にはまだ明らかに不十分だったチームが、とても強く明確なアイデンティティを獲得したからです。それを見たオーナーが、プロセスを加速させようと決めた。リスクを取ったとは言いませんが、素晴らしく勇気ある一手を打ったのです。セスクは、トップチームの監督になるというこのチャンスを掴むと、私たちを異なる次元に導いてくれました」

「40ページの計画書」に込められたクラブの未来

――ミルワン・スワルソ会長はあるポッドキャストで、セスクにトップチーム監督への昇格をオファーした時、彼は40ページの計画書を持ってきた、と言っていましたよね。どんな内容だったのですか。

 「彼がその情熱で私たちを圧倒したというのは、まさにそのレポートの話です。そこにはすでに明確で具体的な方法論があった。彼はプレーヤーとしても、監督の視点で技術・戦術のあらゆる側面を掘り下げながら毎日を過ごしていました。私たちは毎日意見を交わしていましたし、そこから見える彼のビジョンはかなり明確で、確信に満ちたものでした。レポートにはそれに加えて、彼のメソッドに基づく具体的なプロジェクトがまとめられていました。ゲームモデルとそれに基づくプレー原則を列挙し、それを落とし込んだトレーニングメソッドまで含めた、非常に詳細な計画でした。ピッチ上の戦術だけでなく、組織モデルについても書かれており、テクニカルスタッフをどう組織したいか、トレーニング施設をどのように改善すべきかといった提案も含まれていました。ですから、単に自分のサッカーについての信条を説明するものではなく、クラブに対する自身のビジョンを説明したレポートだったのです。そしてそれは、私たちのビジョンと一致していました」

――ピッチ上のゲームモデルやトレーニングメソッドの内容は、バルセロナで体系化された構造化トレーニングの考え方が基礎になっていたりするんでしょうか。

 「彼は自分が経験してきたすべての環境、すべての監督から学んだといつも言っています。特定の理論に根ざしているというよりも、キャリアを通して学んだ中から彼自身が築き上げたメソッドだと思います。サッカーそのものは非常にダイナミックで、当然ながら、ボールを通して試合を支配する、ボールを失ったら激しく襲いかかるという、2つの原則が基本的な柱です。その上で、私たちが彼のために編成したチームに応じて、いくつかの特定の側面を調整していく。セスクが素晴らしかったのは、まさにその点だと思います。私がいつも驚かされるのは、彼が変化に対して非常に開かれているところです。それは、もしまだそうなっていないとしたら、彼が世界一の監督になる運命にあると私が確信している理由でもあります。セスクには非常に堅固な理論的、実践的基盤があって、その上でたくさんのアイディア、たくさんの革新があり、いつでも自分のサッカーを進化させる用意ができているんです」

――最近はあえて相手にボールを持たせてみたりもしていますよね。

 「それは試合の具体的な局面によります。昨シーズン、サンシーロのミラン戦で試した時にはうまく行きました。今シーズンもいくつかの場面でそうしています。ただ、セスクのサッカー、いずれにしても彼が追い求めているサッカーは、ボールを通して支配するサッカーです。時にはボールを持つことで守るサッカーであり、ボールがない時だけ守るというわけではありません。いずれにしても確かなのは、この3年間の仕事を通じて、チームは明確なアイデンティティを持っているということです。このサッカーの考え方と整合性を持って獲得した選手は、誰でもすぐにチームの中に入っていきます。1時間もしないうちにね」

「最大限に革新的でありたい」。コモを動かす価値観

――クラブがもともと持っていたビジョンと監督のビジョンが噛みあった結果として、今コモには「レイク・コモ・DNA」とか「レイク・コモ・プレーブック」と呼ばれる行動規範みたいなものがあるという話も、会長がポッドキャストで話していました。

 「まだマニュアルのような形になっているわけではありません。ただ、このプロジェクトのある時点で、自分たちの価値観を定義すべきだという話になりました。クラブにとって、組織一般にとって、根本となる価値観を明確に定義する。それによって、具体的な戦略がその価値観と整合し、より深く考慮されたものになっていく、そうなるよう導く役割を果たすものです」

――具体的な内容を少しだけでも教えてもらえますか。

 「そうですね。まず、私たちは『最大限に革新的でありたい』クラブだということです。とても革新的なビジネスモデルがあり、とても革新的なプレースタイルがあり、とても革新的なリクルートメントがある。当然ながら、その基礎にあるのは勇気です。私たちは、勇気という観点から見ればイタリアでかなり先駆的な存在だと思います。私たちは人間的な組織であり、同時にとても勤勉でよく働きます。とても野心的で、自分たちに限界を設けません。そして何より『学習』と『変化』に対して開かれています。この2つは、あらゆる組織にとって基本的な前提だと思います。私たちは、自分たちが組織としても人間としても若く、したがって毎日学ばなければならないという自覚を持って生きています。そして、クラブの組織が変化せず、自分たちの原則の上で停止したままであれば、悪くなっていくという自覚も持っています」

「ニコ・パスのコピーを探してはいけない」。変化し続けるチーム作り

――素晴らしいですね。変化といえば実際、セリエAに昇格してからのこの2年間は、何もかもがとても、とても速く進みましたよね。特にあなたのお仕事でも、実質的に毎年チームの半分を入れ替えなければならなかった。

 「ええ、半分以上ですね」

――ただ、セリエAのトップレベルで戦う基盤を築くための先行投資は、ちょうど終わりつつあるように見えます。いずれにしても、もうかなりのレベルに到達している。その後はチームとしてどのような発展を考えているのでしょう。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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