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【バルディ分析】なぜ日本は90分間、チュニジアに流れを渡さなかったのか。“関係性”で進化するリレーショナルフットボール

2026.06.24

北中米W杯日本戦徹底解剖#5

北中米W杯へ向けて進化を続ける森保ジャパン。その戦いを『森保JAPAN戦術レポート』(小社刊)の著者・らいかーると氏と、ボローニャやミラン、イタリア代表などで分析官兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師も務めるレナート・バルディが徹底解剖。配置、狙い、駆け引き――日本代表戦に潜む戦術の深層を、それぞれの視点から読み解く。

第5回は、チュニジア戦4-0の徹底分析。バルディが注目するのは、単なる配置や個々の能力ではなく、チーム全体を結びつける「関係性」だ。冨安復帰によるビルドアップの変化、中央の四角形が生み出した前進のメカニズム、そして90分間相手に流れを渡さなかった試合支配の背景に迫る。

構造の中に自由を作る――日本を支える“関係性”の力

――このチュニジア戦は、相手がチームとして困難な状況にあったということを差し引いても、内容・結果ともに説得力のある戦いを見せることができたと思います。

 「はい。結果はもちろんですが、試合へのアプローチ、組織的連係、とりわけリズムを管理し、試合をコントロール下に置き続けるという点で、非常に成熟した振る舞いを見せたと思います。相手のチュニジアは、スウェーデンに大敗して監督が交代するという混乱状態にあったわけですが、そういう状況が逆に大きな反発力を生み出すこともある。その意味で傍から見るほど簡単な試合にならない可能性もあった。しかし日本はそれを芽のうちにすべて摘み取り、全面的に試合を支配しました」

――森保監督は、攻撃の中核を担う1人である久保がオランダ戦でのケガで欠場したのを受けて、鎌田を中盤から左シャドーに上げ、ボランチの一角に田中を入れる形でチームを再構成しています。右シャドーには伊東純也、最終ラインも渡辺、谷口に替わって冨安、板倉が入りました。

 「新たにスタメンに入った4人はいずれもいい働きを見せたと思います。田中はプレーの質と量の両面で非常に高いレベルの試合をした。マン・オブ・ザ・マッチに選ばれなかったのは、2得点を挙げた上田がいたからという以外の理由ではないと思います。トミ(冨安)も非の打ちどころのないパフォーマンスを80分にわたって発揮した。やっと彼本来の姿に戻ったと言っていいのではないかと思います。長い間故障に悩まされて困難な時期を過ごしてきたことを知っているだけに、個人的にも本当に嬉しく思っています。板倉も冨安とともにビルドアップで非常にいい働きを見せましたし、伊東もチームに縦のダイナミズムを上乗せした。彼らも含めて、チーム全体が非常にハイレベルだったと思います。初戦と比べて相対的に目立たなかったのは中村と堂安くらいでしょうか。ただ彼らも攻撃では持ち前のクオリティを示す機会が少なかったですが、守備では迅速な帰陣と的確なポジショニングで素晴らしい仕事をしました。

 興味深かったのは右ウイングバックの堂安が逆足、右シャドーの伊東が利き足と、一般的に使われるのとは反対の構成だったことです。これによって、伊東がハーフスペースを縦に抜け出してポケットに侵入し、堂安が1列中に入ってプレーすると同時に、必要に応じて冨安が大外で高い位置に進出して幅を取るという有機的な連係が何度か生まれていました。

 私は今、UEFAプロライセンスのためにリレーショナルフットボールについての論文を書いているのですが、その観点から見ると日本は、技術・戦術レベルでも感情レベルでも、非常に強い関係性で結びついたチームという印象を受けます。全体の構造と距離感を決して失わず、有機的な連動性を持ってプレーしている。リレーショナルフットボールと言った時に、ポジションが流動的で基準点が少なく、配置も不均質だというイメージを持つならば、日本のそれはもう少し整っているかもしれません。しかし明確な構造を持ちながら、そこに不均衡を作り出すことができる要素を持っています。

 2シャドーの伊東と鎌田は前線を広く動き、ボールサイドに寄ることでオーバーロードを生み出す場面もありました。田中と佐野は時に入れ替わりながらも常にバランスを意識しながらポジションを管理し、縦の侵入によって攻撃に厚みを作り出した。この中央の四角形がチームの核になっていたと思います」

――試合がここまでうまく運んだのは、開始早々に先制できたことも大きかったと思います。

 「それは確かですが、その後90分を通してほとんどチュニジアに何もさせなかったことも事実です。ボール支配率、XG(ゴール期待値)、決定機といった攻撃の指標はもちろん、非保持局面でもほとんど文句のつけようがない試合でした。チュニジアはペナルティエリア内で8回しかボールに触れられなかった。日本はあらゆる面で試合を支配しました。私が強い印象を受けたのは、チュニジアに決して自分たちの流れになったと感じさせず、90分を通して試合の慣性を保ち続けた能力でした。ほんの短い時間帯すら相手に与えなかった。4-0になってもプレッシングの手を緩めず、ボールに圧力をかけ続けた。これはこのチームがメンタル面でも非常に強固であることの証明です。全員が戦術的にも感情的にも強く結びつき、相互に依存と補完の関係にある。そしてそのつながりはピッチの外、テクニカルエリアやベンチにも広がっている。彼らの振る舞いからは、チームメイトだけでなく監督、スタッフとも調和しており、強く結びついていることが見えます。途中から入った選手、ラスト数分だけしか出場機会がなかった選手も、すぐに試合の中に入っていき浮くことがありませんでした」

――残り10分を切ってから入ったCFの後藤が、アディショナルタイムに入った後、右のハーフスペースからボールを追い続けて、最後は左サイドで奪回してファウルをもらったアクションは印象的でした。

 「そのアクションもそうですが、ボールロスト後の反応やゲーゲンプレッシングの強度も最後まで下がりませんでした。本当にチュニジアに1秒たりとも時間を与えなかった。結果以上にこのインテンシティの高さに驚かされました」

冨安復帰で変わった後方設計。「4+1」ビルドアップが生んだ前進

――ボール保持局面から見ていきましょう。ビルドアップに関しては、最終ラインが自由にボールを持たせてもらったので、常に落ち着いて組み立てることができました。

 「チュニジアは最初から[5-4-1]のミドルローブロックを敷いてきたので、日本は最初からミドルサードまで前進してビルドアップを始めることができました。先制点の場面も含め、ゴールキックでは冨安と板倉がペナルティエリア角まで開き、右は堂安、左は伊藤洋輝が幅を取って、2ボランチが中央で第2列を構成する配置でした。

 チュニジアはゴールキックに対しては、前に出てプレッシングを行おうと試みましたが、日本は最初のゴールキックでそれをかわして先制しました。鈴木からパスを受けた冨安が、右のハーフスペースに下がってきた鎌田に30mのクサビを通し、そこから右サイドに流れた上田、その上田が空けた中央のスペースに上がってきた田中へと縦パス3本でゴール前まで前進し、田中からのパスを受けた中村がドリブルでポケットに侵入してクロスを折り返した時には、ゴール前に4人が詰めていました。

 一方、オープンプレーで後方から組み立てる時には、2ボランチの一方が最終ラインに落ち、冨安と伊藤が外に開く4+1のユニットでビルドアップすることが多かった。これはおそらくチュニジアが[5-4-1]だったので、第1列の2人で1トップに対して数的優位を保つと同時に、冨安と伊藤が敵の第2プレッシャーラインよりも前でパスを引き出せるようにする狙いがあったのだと思います。つまり、板倉と下りてきたボランチの2人でボールを動かし、チュニジアの2列目の1人を飛び出させることで、冨安か伊藤がその背後のスペースに入り込んで斜めのパスを引き出す形です。

 その形が何度か成功したことも含め、日本はビルドアップで大きな困難を抱えることなくスムーズに前進できていました。速いリズムで流動的に人とボールを動かし、ハーフウェイラインを簡単に越えてファイナルサード手前までボールを運んでいた。チュニジアがうまくパスコースを閉じてこの流れを遅らせることもありましたが、その時には無理をせずに後ろからやり直し、常にクリーンな形で前進していました。オランダ戦では、おそらく自陣ゴールから遠ざけたいという意図から、無理に縦パスを通してボールを相手に渡す場面も見受けられましたが、この試合では常に落ち着いてボールをコントロールしていました」

――ビルドアップの安定に関しても冨安の復帰は大きいですよね。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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