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個人昇格がもたらした「走る質」と「メンタルコントロール」への思索。「J3やJ2のころに比べて、自分の身体もかなり進化している」柏レイソル・久保藤次郎インタビュー(後編)

2025.11.11

「サッカー×走り」の最前線#8

「今日の試合でプレーしなければならないとしたら、私はプロサッカー選手になれていなかっただろう」――そう冗談交じりにペップ・グアルディオラが語った理由の1つは、現役時代の自身に欠けていた走力にある。事実、彼がマンチェスター・シティの監督として10年目を戦っているプレミアリーグでも2021-22シーズンから2024-25シーズンにかけて年々、1試合平均のトップスピードとスプリント回数が右肩上がりとインテンシティは高まるばかりだ。欧州全体を見渡しても悲願のCL初優勝へとパリSGを最前線から牽引したウスマン・デンベレの爆走が脚光を浴びたように、ハイプレスからトランジションにロングカウンターまで立ち止まる暇のない現代サッカーで求められる「走り」とは?フィジカルコーチやテクニカルコーチ、そして日本代表選手らと再考する。

第7&8回は、今季から柏レイソルでプレーし、7月のEAFF E-1選手権に臨む日本代表にも選出された久保藤次郎のインタビューをご紹介。J3からプロキャリアをスタートさせながら、今やJ1でもトップクラスのスプリント回数と走行距離を誇るレイソルの“右の翼”に、「走ること」をさまざまな角度から語ってもらっている。

(取材日:10月1日)

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規律の中で出せる個性の意義

――ここまでリーグ戦では26試合にスタメンで出られていて、21試合がフル出場で、80分より前に代わった試合も2試合しかないと。ということは、どの試合もほとんど90分近く走り続けているわけで、これって凄くないですか?

 「それは監督に感謝です。監督が使ってくれているから出る数字であって、監督次第で他の選手でも達成できるものだと思うんですけど、もしかしたら監督からすれば、『アイツは90分になっても、1回は仕掛けられるから、最後まで使ってみよう』と思ってもらえているのかなと。そこは自分の中での戦略的にも計算が付く選手というところで、自分のアピールポイントとして狙っているところなんですけど、その両方が絡んでいるかなと思います」

リカルド・ロドリゲス監督(Photo: Takahiro Fujii)

――実は久保選手はJ1の中で、敵陣パス数が1位なんですよ(※第29節終了時)。敵陣でプレーする時に一番考えていることはどういうことですか?

 「敵陣で考えていることは、やっぱりチャンスを見逃さないことですね。あとは本当にいい意味で空気が読めないところもあるので、パス回しをしていて、僕は『あ、今だ』と思ってキーパスを出したりするんですけど、佳穂くんに『おーい!!』って言われたりして(笑)、ちょっと感覚がズレたりすることもあるので、自分はそこも自分らしさだと思っています。

 ボールを大事にしすぎて、結局誰も勝負所にパスを入れられなくなるのは、あまりいいことではないと思うので、もちろんボールは大事にしますし、そこの塩梅も今シーズンの試合を重ねるにつれて、いろいろな選手とすり合わせてきたことで、ケガする前はだいぶ周囲と合ってきたなという感覚はありましたけど、『一発は逃さない』という根本のところは失っていないからこその数字なのかなと思います」

――ここまでお話を伺っていると、割とシステマチックなレイソルの中で、「走る」という部分も含めて、他の選手とは異なる個性を出すことで、よりチームの中で際立つ存在になれるんじゃないかという意識を持ってらっしゃるように感じます。

 「そうですね。監督もやはりそこを求めているんじゃないかなと思います。もちろん規律を守れる選手も大事ですけど、規律しか守れなかったら相手は崩せないですし、監督からも『最後は自分たちで決めろ。ピッチでやるのはオマエたちだから、自分たちで判断しろ』と言われるので、その中で個性を出していきたいなと思っています」

対面のウイングバックには「絶対に負けたくない」

――第27節の浦和戦の試合後には「自分の感覚だけど、自分たちがボールを回している中での2失点だったので、相手が後半落ちてくれるだろうなという感覚だった」とおっしゃっていましたが、相手の体力を削る意識も持ちながらプレーされている感覚があるのでしょうか?

 「正直、そこらへんは探り探りというか、そこまで自分で意識してやれているわけではないかもしれないですね。だから、結果そうなっているというか、勝手に体力勝ちしているというか、僕のイメージはそんな感じです」

――それが凄いことですけどね。

 「それこそミラーゲームになると、僕がちょっとでも早く高い位置を取ると、相手も付いてこなくてはいけなくなるので、それだけでも体力はちょっとしんどいと思うんですよね。なので、そういうことが塵のように積もって、走り勝ちしてしまっているような感じです。

 だから、相手の体力を削ぐために、『相手が疲れてそうだから、今は背後を狙うか』とか、そこまで計算はできていないですね。レイソルのサッカーをやっていく中で、勝手に相手が疲れていくというか、その中で自分が走り勝ちしているというか、そんな感覚なので、今後はそういう部分も戦略的にやれればいいなと思います」

Photo: Takahiro Fujii

――ミラーゲームだと、目の前は相手のウイングバックじゃないですか。「この対面のヤツには絶対負けねえ」みたいな感覚はありますか?

……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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