「STVVはJリーグで活躍した選手を信じている」長島大スカウトに聞く、欧州でのリアルな日本人評(後編)
【特集】これからのJスカウトに求められる視点#7
今や「欧州組」「日本人対決」という言葉が陳腐化するほど、数多くの日本人選手が海を渡って活躍している。欧州各国からの評価も年々向上し、10代の選手たちのキャリアプランに夢ではなく、リアルな選択肢として「欧州クラブ」が加わるようになった。日本でも秋春制の導入、U-21 Jリーグの創設など大きな改革が進む中で、才能の原石を見つけるプロたちは何を考えているのか?――これからのJスカウトに求められる視点について様々な角度からフォーカスしてみたい。
第6&7回は、長年欧州サッカーの最前線で働いてきたシント・トロイデンVV(STVV)の長島大チーフスカウトに、欧州でのリアルな日本人評について聞いてみた。後編では、STVVが高卒選手ではなくJリーグで活躍した選手の獲得にこだわる理由、J2からの欧州行き、AIスカウトの未来像や日本人選手への提言など幅広いテーマを語り尽くす。
高卒即海外のリスク。若手の欧州移籍の難しさ
――前編では日本人選手の欧州での評価を中心に伺いました。ここからは主にSTVVのスカウトや、選手育成についてお聞きしようと思います。STVVからは遠藤航選手、冨安健洋選手、鎌田大地選手など、大きく羽ばたいた日本人選手がいる一方で、あまり試合に出られず、日本へ帰国した選手もいます。昨季の小森飛絢選手もそれにあたるかもしれませんが、そういう選手を他チームへローン移籍させて出場機会を確保するとか、そういう手段も考えにはあるのですか?
「私たちの中では日本人選手は即戦力という見方をしているので、彼らを欧州クラブへローンして成長させるストラテジーというのは、今のところは持っていません。ただ、最近はもしかしたら少しずつやり方を変えないといけないかもしれない、とは話しています。『やり方を変える』というのは、もう少し早い年齢でこちらに連れてきて育てるとか、いろいろな方向性がありますが、まだそれは実行には移していない段階ですね。私たちはJリーグで活躍した選手を信じているので、それが根底にはあります」
――その意味では、最近は高校や大学からJリーグを経ずに欧州のクラブへ移籍する例が増えていますが、これにはどんな印象を持っていますか?
「ちょっと心配なのは、彼らはプロになる前に欧州へ来たので、いろいろな問題が一気に起きてしまうことです。一度Jリーグに入ると、まずは給料が入ってお金の使い方を学べます。Jリーグは教育制度があるので、プロ選手としての教育を受けられますし、その中で1~2年でもプロ選手として活躍する経験というのは、非常に有効だと私たちは考えています。
いきなり欧州へ来て、文化もサッカーの種類も全く違う中で、人間性の確立やプロ選手としての在り方まで、欧州の私たちの方で育てるのは難しいです。もちろん、例外も選手によってはいると思いますが」
――実際、若くして欧州に渡ったけれど、出場機会を得られていない選手もいます。STVVとしては、逆にそういう選手を狙ってスカウティングを行ったりしていますか?
「そうですね。助けたいという思いもあるので、それは意識しています。そのような選手はフォローしていますし、U-19の試合も直接見に行っています。たとえ能力があっても、生活環境などいろいろな面でサッカーに集中できない問題があると、プレーに影響を及ぼしてしまうので、サッカー以外の問題や言語的な問題を助けてあげれば、一気に成長する可能性があります。その良い例が鎌田大地選手や、今は川崎フロンターレで活躍している伊藤達哉選手ですね。伊藤達哉選手は若い頃にハンブルクで活躍しましたが、出場機会がなくなったりと、そういうところは私たちが見ていますね」
――若手で言うと、今20歳の後藤啓介選手は2023年に磐田からアンデルレヒトへ移籍し、今季はSTVVへローン移籍で来ました。今までにはいなかった日本人選手の獲得ケースなのかなと思いますが、今季活躍している彼については、どういう目的で獲得したんですか?
「彼は磐田にいた17歳の時、J2で得点をかなり取っている中でフォローしていました。あれだけ大きな身体(191cm)で得点感覚があり、日本サッカーにはいないタイプで、良い選手だねと。ただ、その中でアンデルレヒトが買ってしまい、最初はローン移籍だったのですが、先を越されてしまった形です。当時はまだベルギーの1部でプレーするのは難しいと判断したので、獲得には行かなかったのですが、その後にベルギー2部のセカンドチームでプレーする様子をずっとフォローしていました。そして、このタイミングであれば獲得できるだろうと、今季獲得したという流れですね。ただ、残念なのは現状では買い取りオプションがついていないので、ローンだけになってしまいます。経済的な面でいくと、クラブとしては資産化しづらいところではあります」
――将来に連帯貢献金が入ってくる、みたいなのは多少ありますかね。
「そうですね。ただ、アンデルレヒト側も彼の力を評価しているので、その買い取りオプションの費用は非常に高額です。それくらい評価されていました。一方でアンデルレヒトは優勝しなければいけないクラブなので、その意味では彼にはまだ優勝を争うチームで常時出場するのは難しいという評価で、ローンで出されてしまった、という現状です」

松澤獲得の理由「J2の中でも欧州向きの選手がいる」
――高校生や大学生だけではなく、最近は後藤啓介選手のようにJ1を経由せず、J2から欧州へ行く若い選手が増えていると思いますが、やはり日本人選手への注目が集まっているゆえの流れですか?
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Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
