資金力がモノをいう大競争時代の中で抱く危機感。「日本のサッカーのためにも地方市民クラブが消えてはいけない」水戸・小島耕社長インタビュー(後編)
【特集】水戸は一日にして成らず#2
J2第23節終了時点で水戸ホーリーホックが首位に立っている。特に5月以降は10勝1分と勢いが止まらない。小島耕社長と西村卓朗GMによる「ピッチ外の取り組み」は常に高く評価されてきたクラブだったが、「やりきる 走りきる 勝ちきる」をテーマに掲げた森直樹監督の下でついに地道な努力が花開いた。水戸は一日にして成らず――クラブ史上初のJ1昇格が見えてきた今、あらためて躍進の理由を考えてみたい。
第2回は、社長就任から6年目を迎える小島耕社長のインタビュー後編。近年、潤沢な資金を持つ責任企業のあるクラブが飛躍するケースが増える中、地方市民クラブはどう生き残るか、また、地方市民クラブであり続ける意義は何か、などを語ってもらった。
トップパートナーのJX金属も共鳴していた『育成の水戸』
――一方、『育成の水戸』というブランドがある程度確立されましたが、そのブランドがクラブに与える影響についてどう捉えていますか?
「『育成の水戸』というのは、これはアカデミーにはまだ言えることではなくて、GMの西村(卓朗)が若い選手をしっかりと探し、高校や大学ではまだ価値が見出されていない選手、ないしはJ3などで価値が見出されていない選手を獲得してきて、ある程度試合に出して成長した結果、最終的に移籍金を獲得する流れができたことが『育成の水戸』と言われている理由だと思っています。率直に、これは西村の仕事の成果だと思っています。ただ、これは他のクラブさんも同じことをやり始められますし、水戸のオリジナル性はありません。オリジナル性を出すためにも、例えば、ドイツのハノーファー96と提携するなど、そういう取り組みを表現することで若い選手たちが選んで来てくれる環境を作り続けていることが大事だと思っています。あるいは、ここに来た選手たちに対してフェアに出場機会を与えることも大事だと思います。そういった背景も『育成の水戸』というブランド構築に影響していると思いますね」
――ハノーファーとのパートナーシップ契約はJX金属さんが支援しているんですよね。
「ご支援をいただいています。ハノーファーの近くにJX金属さんの系列企業さんがあり、その企業さんがハノーファーさんをご支援するので、それがきっかけで我々との提携が進んだという流れでした」
――JX金属さんがあっての提携だったわけですね。
「そうです。JX金属さんは、まさに『育成の水戸』というブランディングを評価されていました。可能性のある若い選手たちがどんどん水戸に来てくれて活躍していることがパートナーとしての支援拡大につながったことは事実です。我々としては、若手を育成することにおける次なる課題は何だろうと思案したときに、水戸からJ1ではなく、直接海外に移籍させられるブランドでありルートを作りたかった。そういう話をJX金属さんの担当者の方が覚えておられて、お繋ぎいただいたということです」
――そもそもJX金属さんとハノーファーにそのような繋がりがあり、水戸として期待していたのですか?
「いえいえ、知らなかったです(笑)。むしろ、『メジャーリーグサッカーのクラブと繋がりはありませんか?』といった会話をしていたくらいですから。その中で『ハノーファーというクラブを知っていますか?』『もちろん知っています』という流れからとんとん拍子に話が進んでいきました」
――今回、松田隼風選手が完全移籍したことも大きなニュースです。
「我々のような規模の地方市民クラブから直接ドイツの2部リーグに選手が売却できたという事例は、日本のサッカーの可能性を示しているのでは、ということは感じましたね」
――碇明日麻選手もあの年齢でハノーファー96U-23へ期限付き移籍することが決まりましたが、こうした事例自体、これまでのJリーグの歴史にはほとんどありません。
「そうですね。なので、我々のクラブにいる若い選手たちは『俺も行きたい』『シーズンが終わったら練習参加に行きたい』と思っていると思います。今はJ2に戻ってきましたが、当時の水戸から京都サンガF.C.に移籍した松田佳大選手(現レノファ山口FC)は、水戸でプレーした1年目の冬にハノーファーの練習に参加したのですが、日本に帰ってきたらすぐに京都さんへの移籍が決まったんです。京都さん側も松田選手が海外クラブの練習に行っている姿を見て、海外に行ってしまう前に獲得したい、と思ったのかもしれません。そういった間接的な効果もあるのだと思います。あとは、ハノーファーと提携することでジュニアユースが現地に遠征に行けたり、先方のコーチが水戸まで来てくれて指導してくれたり、クラブの経験値としてはすごく上がっていると思います」
――高卒や大卒の選手を獲得するときに、水戸を経由するとハノーファーに行けるかもしれない、という考えも生まれますね。
「それもかなり有効なカードになります」
移籍金収入の捉え方は「バランスが難しい」
――松田隼風選手のケースにも移籍金収入があったと思いますが、その他の事例も含めて、クラブの事業収入に占める移籍金収入の割合の今後について、どう見積もっていますか?
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Profile
鈴木 康浩
1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。
