プレーモデルがピンボケしないための工夫。控え選手が奮起するメッセージの織り交ぜ方。栃木シティ・今矢直城監督インタビュー(後編)
2025Jリーグ前半戦のサプライズ監督#7
今矢直城監督(栃木シティ)
2025シーズンのJリーグも折り返し地点を迎えた。前評判通りにいかない激動のシーズンとなっているが、その立役者とも言える「サプライズ監督=ポジティブな驚きを与えてくれた監督」たちをフォーカス。チーム作りの背景にある哲学やマネージメントについて掘り下げてみたい。
第7回は、栃木シティ・今矢直城監督インタビューの後編。プレーモデルを浸透させるための手法や選手たちに競争を促す方法などについて、ライターの清水英斗氏が迫る。
プレーモデルの“ピンぼけ”を防ぐための工夫
――田中パウロ選手をはじめ、栃木シティでは選手の能力を伸ばすトレーニングをさせてもらっている、という発言が出ていますが、実際にどんなトレーニングを行っているのか。その特徴を教えてもらえますか?
「そこは指導者として一番面白いところだと思います。選手の成長に携わることの嬉しさというか、そのなかで自分が成長させてもらえるので。内容はやはりゲームから逆算したときに、シチュエーションをどれだけイメージできるかだと思います。『11対11が結局一番良いトレーニング』というのはその通りですが、ずっと11対11では効率が悪いので、ハイプレスに行くために部分的に切り取ったりする。そのとき、5対5をあえて4対5にして、4人でプレスに行くとか。難しくすると成功体験は出ないかもしれないけど、より研ぎ澄まされますよね。ビルドアップも同じで、10対7でやれば気分よくプレスは回避できますけど、それが本当に成長につながっているのか。ブラボー! 最高だ! と言って、でも試合になったらもっとプレッシャーきますよ、と。それはたぶん成長につながっていないので、そこのバランスは大事かなと思います。
あとはやはり選手の特徴をなるべく掴んであげること。ストロングをどう出させるか。そのためにはトレーニング+ビデオミーティングも大事になってきます。全体のトレーニングが終わった後、各コーチングスタッフは分かれてポジション別に練習を見たりしますが、そこでの10分、15分の時間は非常に大事です。コーチングスタッフはアナリストと組み、選手に映像を見せたりしてミーティングをしているので、全体ミーティングよりもこちらのほうが成長につながっているかもしれません。僕が見落としているところ、言わないところも、より細かく1on1、あるいはスモールグループでミーティングしているのは、かなり重要な要素だと思います」
――その場合、スモールグループのすべてを今矢監督が把握しながらやっているわけではないと思うので、先ほどの「評価の一貫性」を保つことに関して、少し課題が出るのではと思いますが、どうクリアしているんですか?
「おっしゃるとおりですね。だからこそ大事なのは、監督のプレーモデルを明確にすることです。通常、コーチングスタッフでありがちなのが、選手から『いや~コーチ、これどうなんですか?』と問いかけられたときに、『いや俺も(監督に)言っているんだけどな。でもなー』といったやり取りです」
――評価の一貫性が揺れている状況ですね。よく聞く感じがします。
「そうならないためには明確なプレーモデルが必要で、僕が明確な意思決定をすることができていれば、どこでスモールミーティングをやっても、『監督はこれを求めているんじゃないか』と目線は合うと思います」
――コーチングスタッフと明確なプレーモデルを共有する上で、どんな方法を用いているんですか?
「シンプルにプレゼンですね。僕の頭の中にあるものをプレゼンに落とし込む。なるべくアニメーションでわかりやすいようにしたり、新スタッフが入ってきた場合は昨年の映像を使ったり、何かしらの絵は使ったほうがいいと思います。おそらく自分たちのキーワードで説明しても、あまりイメージできないと思うし、イメージできたとしても、ちょっと理解がピンボケする。そこに映像が加わり、言葉と映像の2つがあるとピンボケしにくいと思います。戦術ボードを使う人もいますが、ボードだと結局、ちょっと曖昧なところがある。実際と違ったり、どうとでも置けるし、壊せるというか。でも映像は絶対なので。プレーモデルを共有するには、そういうプレゼンの工夫が必要だと思います」
奮起を促すために用いた『3人のレンガ職人』
――選手とのコミュニケーション面でもう少し伺いたいのですが、たとえば自信を失っている選手やスランプになった選手、控えになった選手などに対しては、気にかけたり、声をかけたりしますか?
「しない。まったくしないです。コーチに『しておいて』みたいなことも言わない。勝手にやってくれているとは思いますけどね。僕からタスクとして振ることはないです」
――それはなぜですか?
「全体ミーティングを僕はすごく大事にしている中で、そこで言うことやストーリーは、そもそも苦しい状況の選手たちにかける言葉のほうが多いかもしれません。スタメンが奮起するというよりは、今出ていない選手たちがもう一回奮起するストーリーを話すことのほうが多いと思います」
――なるほど。普段から全体ミーティングでやっている、と。ちなみに「出ていない選手が奮起するストーリー」って、どんな感じですか?
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Profile
清水 英斗
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』『日本サッカーを強くする観戦力 決定力は誤解されている』『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。
